第14話 手続
それからの数週間のことはあまりよく覚えていない。何せ地獄のような忙しさだったのだ。
芳玉との結婚が公式に発表された後、最初に直面したのが大量の書類手続きである。元はと言えば白檀は後宮の宮女。皇帝の女と言っても差支えはない。そのため、今回の婚姻では便宜上、陛下が臣下である芳玉に白檀を下賜するという形をとっており、通常の婚姻よりも手続きが数段面倒臭くなっていたのだ。
正式な婚姻の手続きとは別に、芳玉と交わした契約の詳細は以下の通り。二人の夫婦関係は書類上のものであり、双方の自由を侵害することは認められない。どちらかが契約破棄、つまり離婚を申し出した際には速やかに応じ、離婚後は互いに干渉しない。離婚の際には対外的にはその責は芳玉側にあるとし、白檀の将来に不利益が生じないようにする。そして最後に、二人が契約結婚であるということは周囲には知られないようにする。
馴れ初めに関して何か聞かれた場合には、芳玉が男や他の女性には興味がないということを宣伝するために、彼の方が白檀に一目惚れしたのだというやや無理のある作り話をすることになっている。
清香君ご成婚の一報は宮中全体を驚愕と涙の渦に陥れた。幸い白檀は芳玉との結婚が決まってから一度後宮での職は辞していたためその混乱に巻き込まれることはなかったが、それでも環家の面々との顔合わせだけは避けることができなかった。
本来ならば弟の宋薫が親族代表としてこの場に臨席するべきなのだが、見事武科挙に合格した彼は現在宮中で厳しい研修を受けている最中であり、臨席することができなかったのだ。白檀と芳玉の婚姻が公式に発表される前に一度書を送ったところ、よほど慌てたのか墨が擦れた跡で非常に読みづらい書が送られてきたが、忙しさにかまけてろくに返事も送っていない。
環家の側は環丞相にその夫人、そして芳玉の兄・
嫌味の一つや二つ言われてもおかしくはないと覚悟を決めて向かったところ、予想に反して定型文の応酬で顔合わせはあっさりと終わった。環丞相と江明はほとんど口を開かず、夫人だけが芳玉がやっと身を固めてくれて安心だとしきりに繰り返すだけだった。
通常の婚姻であっても、結納から式まで二月はかかるのが普通である。それを芳玉は僅か三週間足らずで終わらせた。いくら仕事の早い禁伺長様とはいえ、このあまりの迅速さには白檀もびっくりである。気づけば現実感の全くないまま、白檀は結婚式の夜を迎えていた。
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