最強万能なハイエルフ執事は、悪役令嬢のバッドエンドを認めない
木塚 麻耶
第1話 お嬢様は悪役令嬢
「私ね。今日から一年以内に、死んじゃうみたい」
「……お嬢様。今、なんと?」
ベッドから起き上がった少女が唐突に放った言葉に、私は驚きました。
自分は今日から1年のうちに死ぬ。
そう仰ったのはリーバル王国の公爵令嬢、レイナ様です。
彼女は2日前、突然倒れて意識を失いました。
そして先ほど目を覚まされ、まるでご自身に言い聞かせるように呟いたのです。
──***──
私はシルフォード公爵家にお仕えする執事のひとり。
担当は公爵令嬢の身の回りのお世話──つまり私は、レイナ=シルフォード様の専属執事となります。
レイナ様は一昨日、リーバル国王が主催された王子の誕生パーティーに出席していました。
私はその場に同席していなかったので、詳しい状況はわかりません。奥様に聞いた話では、王子が手を引いて連れてきた少女を見て、レイナ様が突然お倒れになったそうです。
レイナ様は5歳年上の王子を好いておられました。
一方で王子はレイナ様が小さな頃から、まるでご自身の妹のように気をかけて下さいました。
レイナ様はそれを愛情によるものだと勘違いしていたようです。
私は失恋のショックでお嬢様が倒れられたのかと思いました。
しかし、そうではありませんでした。
ちょうどそのタイミングでレイナ様の肉体に、異世界の少女が転生してきていたのです。そしてレイナ様の魂と異世界の少女の魂が混ざり合い、精神が安定するまでに時間がかかったみたいです。
彼女は自分のことを、
気が動転していたのでしょう。
彼女は目覚めた時、すぐそばにいた私に転生の事実を話してしまいました。
もしかしたら私が、それを信じないだろうと思ったのかもしれません。しかし私には、他人の魔力の量や質を繊細に感じる能力がありました。ヒトの魔力には波長があり、その波長は個人差があるのです。
レイナ様が王子の誕生パーティーに向かわれる前と目覚められた今で、魔力の波長が変化していることに気づきました。
この世界では魔力量が成長と共に変化しますが、その波長は生涯変わることはありません。
一度死んで
それは、そのヒトの魂に別の魂が混ざった時。
つまり誰か別人が、そのヒトの肉体に転生した時だけ。
玲奈さんは元の世界で死んで、こちらの世界にレイナ様として転生したと言いました。
私は彼女の話しを信じました。
玲奈さんを信じると言いました。
しかし玲奈さんは、私が本当にそれを信じたとは思っていなかったようです。
「この世界は、私が遊んでいたゲームと同じなんです。わ、私は……。そのゲームの、悪役。主人公から王子を奪おうとする悪役令嬢です」
玲奈さんが何を言っているのか、よく理解できませんでした。
そもそも彼女は私が転生の事実を信じていないと思い込んでいるので、自分が知っていることを私に理解させるつもりもないようでした。
そして震える声で、こうおっしゃられました。
「私は、どの
ルートとは何のことでしょう?
たんなる道のことではなさそうです。
するとレイナ様が突然、大粒の涙を流しはじめました。
「サリオン、私……。し、死にたくないよ」
「レイナ様!」
涙を流しながら死にたくないと嘆く彼女を、私は力いっぱい抱きしめました。
なんだかよく分かりません。
でも私は彼女をお守りしたいと思いました。
こんなに可愛らしいお嬢様が死ぬ?
それはダメです。
そんな未来、私が変えます。
何があってもお嬢様を守り抜きます。
私には、それを可能にする力がありますから。
私の名はサリオン。
レイナ様の専属執事。
そして異世界からきた女勇者様に同行して魔王を倒した──
この世界最強のハイエルフです。
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