340 化粧講座


「カイサとオーセは化粧ってする?」

「「いえ……」」


 ボエルが役立たずなのでフィリップは2人に聞いてみたけど、化粧品は高いから買ったことがないとのこと。ボエルも実は、化粧品は自己負担だから買いたくなかったんだって。


「あの給料って、化粧品代も含まれていたのでは……」

「あっ! あのクソオヤジ~~~!!」

「お父さんのせいにしてない? 本当に買ってた??」

「た、たぶん……」


 ボエル、化粧の件は給金を着服していた父親のせいにしたけど、その顔は怒って見えなかったのでウソっぽい。フィリップの質問にも自信が無さそう。というか、「たぶん」の続きは「買わない」だ。


「明日、ネラさんに手紙持って行って」


 もうここはペトロネラを頼るしかない。フィリップは嫌そうな顔で一筆書くのであった。



 翌日は、フィリップはまた夜遊びしていたのでお寝坊。カイサとオーセは誰と逢瀬を重ねて来たのかと興味津々だ。

 しかし、夜遊びのことはボエルに気付かれるなと命令されているので朝の間は喋れない。ボエルが出て行ったら、仕事そっちのけでフィリップの話題をしてるよ。


 フィリップからは夕方頃に起こすように言われていたので、今日もマッサージで起床。服だけ整えたら、そのままベッドの上でダラダラお喋り。

 そんなことをしていたらボエルが戻り、そのすぐあとにペトロネラが訪ねて来たので、フィリップはクンクン匂いを嗅いでる。


「なに~? そんなに私のことが恋しかったの~?」

「ううん。酒が入ってないかの確認……大丈夫そうだね」

「1本ぐらいじゃ酒臭くならないわよ~」

「飲んでるじゃん!?」


 今日は化粧を教えて欲しいと呼び出したのに、酒が入っていては手が震えないか心配。しかしこのアルコール依存症しか頼れる人がいないので、フィリップはリビングの一角に連れて行くしかない。


「うん……そこそこ揃ってますね。これならメイド仕事をする分なら充分です。2人とも、こちらへ来なさい」

「「はいっ!」」


 ペトロネラは並べられた化粧品を見ただけで仕事モードに入った。その顔は真面目そのものだったが、呼ばれたカイサとオーセは初めての化粧だから嬉しそうに走って行く。


「殿下……あの化粧品、いったいどこから手に入れて来たのですか?」


 ボエルはその風景を見ながらフィリップの後ろに立った。


「知り合いに頼んだ物だよ」

「殿下の知り合いというと……ペトロネラ様は違うか。リネーア様も領地にいるし……メイド長のどちらかですか?」

「そうそう。そんな感じ~」

「嘘くせぇ……どこの女に頼んだ!?」

「言葉が乱れてるよ~?」


 ボエルは謎解きしたかったみたいだけど、せっかくここ最近言葉遣いが良くなっていたのに戻っちゃった。フィリップはそこを突いてうやむやに。

 さらに「彼女に買ってあげたら~?」と勧めるとボエルも悩み出した。彼女が綺麗になった姿を見たいんだろうね。ちなみに化粧品は白金貨で払っていたのでキャロリーナは困っていたよ。


 そうこうしていたらペトロネラがメイクしていたカイサとオーセは仕上がったのか、フィリップの下へやって来た。


「「ど、どうですか?」」

「うん。いいね~。2人とも綺麗になったよ」

「変わるモノですね。大人に見えます」

「「お、大人……」」

「ボエル~。彼女を褒める時に、そんな言い方したら怒られるよ~?」

「そ、そんなに悪かったですか?」

「2人は子供っぽいこと気にしてるの。なんでわからないかな~?」

「す、すまん。めっちゃ綺麗になってるのは事実だからな? オレだって口説きたいぐらいだ!」

「褒め方がオッサン……」


 大人というワードにカイサとオーセは暗い顔になったので、ボエルは焦って褒めまくったけど、フィリップの冷たいツッコミ。2人もボエルのことがオッサンに見えたのか笑顔が戻った。


「ボエルもやっとく?」

「オレはいいって~。殿下のほうが似合うだろ?」

「どこが??」

「「「あぁ~……」」」

「何その顔!? 僕は絶対やらないからね~~~!!」


 ボエルに化粧を勧めたことは失敗。反撃にあい、ペトロネラたちの目もキラーンと光ったので、フィリップは逃げ回るのであったとさ。



 フィリップは寝室に逃げ込んでタオルケットを頭から被ったので、皆は諦めてペトロネラの化粧講座に移行。カイサとオーセには自分で化粧をさせてアドバイスをする。

 ボエルもそれを見学しているのは、彼女に教えようとしてるのかも? ペトロネラから女性の褒め方を教えてもらっているから確実だ。


 夕食が届くとフィリップも寝室から出て来たので和気あいあいと食べ、ボエルが逃げるように出て行くと、ペトロネラとフィリップはお風呂。

 カイサとオーセには覗くなとだけ告げて、フィリップたちは寝室にしけこんだ。


「ありがとね」

「いえいえ。これぐらいお安い御用ですよ」

「そういうことじゃなくて……」


 フィリップの感謝の言葉は伝わっていないみたいなので、もう少し詳しく説明する。


「あの2人は平民だと知ってるのに、分け隔てなく接してくれてるじゃない? 貴族だったら、嫌で嫌で仕方ないでしょ??」

「そういうことですか……普通の貴族ならそう思うでしょうね。ですが、私は気にしたことがありません。何せ、公爵家ですから。貴族も下々の者もたいして変わりませんよ」

「そっか。皇家以外は全員下か~。アハハハハ」


 ペトロネラの答えは、フィリップも少しズレて受け取ったようだ。


「ですね。しかし、私の場合は努力をする人間に敬意を払っているだけです。私の部隊も下級貴族が多いですからね。上級貴族はプライドだけ高くて努力しないので、好きになれないってのもありますけどね」

「そっか~。ネラさんも努力の人だもんね。その努力をもうちょっと男に使っていれば、今ごろ子供と仲良くやっていたかもしれないんだけどね~」

「子供ならここに……」

「僕はネラさんから生まれてないって言ってるでしょ?」


 いい話をしていたのにフィリップが現実を思い出させてしまったので、ペトロネラは平行世界へ。最初は赤ちゃんみたいにあやしていたペトロネラはしだいにマッサージを始めたので、フィリップは赤ちゃんプレイを楽しんだのであった……


「なんかバブバブ聞こえない?」

「殿下の声だね……何してるんだろ?」


 その声が気になりまくる、どノーマルのカイサとオーセであったとさ。

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