338 スキャンダル


「この人は、ローエンシュタイン公爵家のペトロネラさんね。皇家の次に偉い家の人だから覚えておいて。さらにメイドとしてはエリート中のエリート。ナンバー1メイドなんだよ~?」


 ペトロネラが乱入して来たのでフィリップが自己紹介。あんなにはしたない姿を見せていたのに、いまさらペトロネラはメガネをクイッと上げてできる人アピールだ。

 カイサとオーセは、驚きと信じられないって顔。あのメンヘラ女が皇家の次と聞いて驚き、あの妄想家がエリートなんて信じられないらしい。


「あ、そうだ。ちょっと見本みせてあげてくれない? ネラさんの仕草なら目標に持って来いだしね」

「もったいないお言葉。僭越せんえつながらこのペトロネラ、殿下の命、謹んでお受けいたします」


 スイッチの入ったペトロネラ、超一流メイド。流れるように動き、紅茶をいれてフィリップから順に並べ、お辞儀をしてからフィリップの後ろに移動した。


「「キレ~イ……」」

「でしょ~? ボエルと大違いだよね~? あ、冷めない内に飲んで。温度も気を付けてると思うから」

「「美味しい……」」

「滅相もございません。誰でもいれられますよ」


 カイサとオーセ、ペトロネラの技量に脱帽。笑顔で席に着く姿を見て、頬も赤くなる。


「殿下~? 殿下のお願い聞いたんだから、私のお願いも聞いてくれるよね~?」

「余韻……カッコよく決めたんだから、もう少し2人に余韻を楽しませてあげてよ~」


 でも、ペトロネラはフィリップに絡み付いて甘えているので、さっきのは幻だったのではないかと目を擦るカイサとオーセであったとさ。



 それからフィリップは何度も帰宅を勧めたけど、ペトロネラはテコでも動かない。夕食を用意してないと言っても、すでに手配済み。こんな時だけできるメイドだな。

 馬車も帰して明日の朝に迎えに来ると言うのでは、もう手遅れだ。ボエルは逃げるように帰って行きました。


「2人はもう休んでいいよ。くれぐれも寝室は覗かないでね~?」

「「はあ……」」


 結局は、マッサージするしかないフィリップ。お風呂はペトロネラと入り、寝室ではペトロネラのロデオ。そのまま抱き合って眠るフィリップであった……


 ところ変わってカイサの部屋。


「親戚どうしであんなに激しくって……」

「年齢も親子ぐらい離れてるのに凄いね」


 フィリップたちのマッサージしてる声が微かに聞こえているので、オーセが訪ねて来てベッドの中でお喋りしていた。


「どっちが誘ったんだろ?」

「殿下じゃない? あの人、見境なさそうだもん」

「ボエルさんにも手を出してるみたいだし、そりゃそうよね」

「これだと、城の中も凄いことになってるんじゃな~い?」

「うわっ。殿下ならありえる」


 カイサとオーセは盛り上がり過ぎて、そのまま話疲れてから眠りに落ちるのであったとさ。



「やっと帰った……」


 ペトロネラが今生の別れかってぐらい泣きながら馬車に揺られて帰って行くと、フィリップもげんなり。ボエルも何故か同じ顔をしてる。どちらも嫌いじゃないけど疲れるらしい

 この日も朝はメイド訓練だけど、カイサとオーセは目覚ましい進化をしていたのでボエルも拍手だ。


「おお~。めっちゃ姿勢よくなってる。これもオレの頑張りのおかげだな~。ウンウン」

「違うよ? ネラさんの姿勢をマネしてるんだよ。なに勝手に自分の手柄にしてんの?」

「いや、オレもけっこう頑張ったし……」

「口調! もう戻ってるよ~?」

「申し訳ありません!」


 でも、フィリップにツッコまれて気を付け。今日もボエルはフィリップに叱られて、カイサとオーセは褒められる。なので午後は、ボエルは護衛騎士に八つ当たりしてから彼女の下へ向かって行った。

 夜になるとボエルは自室に戻って行き、フィリップはもう少しカイサたちと喋っていた。


「ネラさんは毎日来れないみたいだから、よかったよかった~」

「はあ……ペトロネラさん……じゃなかった。ペトロネラ様は、殿下とどういう関係なのでしょうか?」

「体の関係だよ。向こうはこじらせまくってるから、僕を手離したくないみたいだけど」

「「そんなことするからでは……」」

「いや、これには谷間より深~いワケが……」


 フィリップはメイドの仲違いの話をして説明するけど、ふざけた言い方から始まったから、仲を取り持っていることは信じてもらえない。


「まぁ噂話では、僕とネラさんは付き合ってることになってるけど、父上とお兄様に聞かれたら何もないって言ってね。僕、2人に噓ついてるから怒られそうなの」

「「はあ……」」

「マジでお願いね? 特に父上、ネラさんのこと狙ってるみたいだから、ブラザーになっちゃうかもしれないの~」

「「また面白展開……来た~~~!!」」

「え? なんで興奮してるの??」


 2人に取って、こんなに美味しいおかずはない。フィリップの質問は無視して、父親と息子が1人の女性を取り合う姿を思い浮かべてる。


「あ、そうだ。今日は僕、これから出掛けるから気にしないで」

「えっと……どちらへ?」

「う~ん……聞く? ボエルでも知らないことだけど知りたい? 知るとかなりヤバイ立場になるけど……どうしてもと言うなら喋るよ?」

「「い、いえ……いってらっしゃいませ……」」


 そこまで脅されては、カイサとオーセも知るのは怖い。綺麗に頭を下げて、自室に戻るのであった……


「アレ、絶対、違う女に会いに行くよね?」

「うん! 誰の所に行くんだろうね~? 妻帯者とか??」

「うわっ。またドロドロの展開になりそう……」

「それは秘密にしろって念を押すワケだ~」


 今日もカイサとオーセは、ひとつの部屋に集合して妄想に花を咲かせる。こうして2人は、偉い人のスキャンダルを知る面白さを覚えてしまったのであった。


 フィリップは夜の街に繰り出しただけなのにね。

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