329 お宅見学
フレドリク邸に着いたフィリップは、キリキリするお腹を押さえて馬車から降りる。そこにはフレドリクが雇ったであろうメイドや従者が10人以上並んで出迎えていた。
その一番立場が上であろう中年の執事がフィリップに挨拶をして中に案内する。その間、フィリップとボエルはヒソヒソ話だ。
「なあ? 殿下もこれぐらいメイドとか雇うんだよな??」
「こんなに必要なのかな~?」
「いるだろ。掃除洗濯、着付けに料理番。スケジュール管理する人も雇わないと、家が回らねぇだろ」
「そんなもんなんだ……ま、何か考えておくよ」
「いまから??」
もう間もなく改築が終わるのに、フィリップはやる気なし。さすがのボエルも心配になって「探して来てやろうか?」と言っていたけどフィリップに断れていた。
そんな雑談しながら連れて来られた場所は、2階のテラス。超が付くほど立派な庭が一望できる絶景の場所だが、フィリップは「ゲッ」って顔をしてる。
「揃い踏みかよ……」
そう。逆ハーレムメンバーが全員揃っていたから、フィリップはお腹が痛いのだ。
「ようこそ。フィリップ」
「お招きに与り、ありがとうございます」
しかし、フレドリクがキラキラした笑顔で出迎えたのだから、そんな顔をしている場合じゃない。綺麗なお辞儀をして、皇子アピールだ。
それからボエルに引かれた椅子に座ったフィリップは、食事が運ばれて来るまで雑談。とりあえず目に映る庭の話や働いている従者の人数等を聞いている。
豪華な食事が運ばれて来たら、ルイーゼから凄い音が鳴ってるけどフィリップは無視。カイ、ヨーセフ、モンスの表情を見ながら、仕事の話を聞かせてもらう。
ボエルをチラッと見たら、ボエルもルイーゼを見ないようにしている模様。皆の話に集中して雑音を消してる。何度か太股をつねっていたのはあとから聞いたんだって。
絶対に笑ってはいけない食事会をなんとか乗り切ったフィリップたちは、お腹が落ち着いた頃にお宅見学。常にフレドリクたちが張り付いているから、余計なことはできないみたい。
3階から見て回り、豪華絢爛な部屋や家具は質問。フィリップは「おいくらぐらい掛かってまんの~?」と下世話なことまで聞いてるよ。
フレドリクは特に気にならないのか金額を告げるので、ボエルがその都度、膝がカクンッてなってる。それほどのお金が一部屋に使われているのだ。
フィリップも少しは驚いていたけど、ボエルが「こえ~こえ~」とブツブツ言っていたから無言のセクハラ。黙れということらしい。
「こんなに部屋がいっぱいあるなら、僕もこっちに住みたいな~」
それでボエルが怒ったような顔をしたので、フィリップはジョークでごまかす。
「それはダメだ。フィリップも大人になったのだから、いまの内に家に掛かる経費なんかを学ばなければならない。将来、皇家を出て公爵になった時に困ることになるからな」
「えぇ~。僕は一生お兄様と一緒にいたいのにな~。ほら? 僕、背が低いし顔もお兄様と似てるから、子供に見えなくもないじゃない? 弟じゃなくて子供としてならどう??」
「フッ……見えなくもないが……フフフ」
「「「「「あははははは」」」」」
フィリップの無茶なお願い、フレドリクのツボに入った様子。叱られてもおかしくないお願いなのに、フィリップの見た目のせいで皆は大爆笑だ。従者一同は、後ろを向いて笑ってる。声に出てるからバレバレだ。
その中で一番笑っていたのはルイーゼ。一番最後まで笑って、フィリップの頭を優しく撫でた。
「フフッ。フィリップ君なら子供になってくれると嬉しいな~。ママって呼んで。フフフ」
その瞬間、フィリップはイラッと来た。だが、それと同時にこの場の温度が2、3度下がったのでそれどころではない。
「「「「……」」」」
フレドリクたちが無言で殺気を放ってるんだもん。ボエルも震えるほどの冷気だ。
「じょ、冗談だよ~? お姉様も面白い冗談だね~? ほら? つぎ行こう! いや、僕、トイレ!! 漏れる~~~!!」
「殿下! お手伝いします!!」
なので、フィリップはトイレに逃げて、ボエルはドアが閉まる前に滑り込むのであったとさ。
無駄に豪華で広いトイレの中では、2人で「怖かったね~?」と、フレドリクたちが落ち着くまで時間稼ぎ。そんなことしていたら本当に催して来たので、どっちも「見ないでね?」と念を押していた。
けど、ボエルがガン見していたから、フィリップもガン見し返していた。フィリップは見せびらかしていたけど……あと、従者が使ってよかったのかと、またボエルが震えてた。
トイレから恐る恐る出ると、フレドリクたちはルイーゼに頭を撫でられて喜んでいたから、さっきの怒りは収まったっぽい。フィリップとボエルは、ここにいるメイドたちと同じように後ろを向き、咳払いしてフレドリクたちに気付かせた。
そこからは全員、何もなかったかのようにお宅見学。1階まで下りたら大きなお風呂も覗き、フィリップはボエルと一緒に「いいな~」と褒める。
「あっちはなんの部屋だろう? 素敵な部屋なんだろうな~」
そして、フィリップは一番知りたい扉を発見したら、アホっぽいことを言いながらスキップで近付いた。
「「「待て……」」」
だが、カイに頭を鷲掴みにされ、ヨーセフとモンスには両肩を掴まれて床に張り付けられたフィリップ。
フレドリクにも回り込まれてしまった。
「えっと……どうしたの?」
「あそこは用具置き場だ。危ない物もあるから近付くな」
「なんだ~。そんな顔するから、お宝でも山積みになっているのかと思ったよ~」
フィリップが馬鹿っぽい返しをすれば、この話はおしまい。外に出て、庭の見学に移行するのであった。
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