324 フレドリクの新居に突撃取材


 東屋からわざと落ちたフィリップはボエルに綺麗にキャッチされて、新居探索の再開。ボエルに説教されながら歩いていたら、やっとこさ庭園を抜けて北側の城壁辺りに出た。


「おっ、アレじゃない?」

「おお~。綺麗な外観だな」


 右手を見ると、高い鉄柵に囲まれた3階建ての建物。広い庭には花が咲き乱れ、メルヘンチックにも見える。

 1階は右翼側と繋がり、フィリップの新居と同じ作り。ただし、正面から見れば違いは歴然だ。


「ウチより倍ぐらい大きくない?」

「だな。庭も倍……もっとか?」


 建物も横に大きければ、庭も4倍近く広いのだ。


「てかさ~……そもそもウチの周りって、石の壁だよね? なんでこんなに違うんだよ~」

「そりゃ~……牢獄に使われてたからだろ? 殿下を閉じ込めるなら必要だ」

「なんで僕を閉じ込めるの!? 何もしてないのに~」

「よくよく考えたら、詐欺したじゃん。その罰だ」

「その件は何も言われてないって~」


 今日はボエルがフィリップをからかいまくっていたら、フレドリク邸の正門に到着。そこにいた門番にフィリップは気さくに声を掛けてみる。


「やあやあ。お兄様かお姉様、いる? 遊びに来たの~」

「皇太子殿下は外出中です。お妃様はおられますが、お約束はしていますか?」

「ううん。急に遊びたくなって来ちゃった」

「……少々お待ちください。取り次いでみます」

「う、うん……」


 こちらは何故かすんなりと話が通ったので、フィリップとボエルは少し下がって小声で喋る。


「こっちは高圧的じゃないね」

「まぁ殿下が来たら、普通断れねぇよな。でも、なんか変だな……」

「なんなんだろうね~?」


 フィリップはなんとなく答えはわかっているが、ボエルに合わせてペチャクチャお喋り。そうしていたらメイドが走って来て、門番に耳打ちした。


「お妃様はお会いになられるそうです」

「ホント? 言ってみるもんだな~。そっちのメイドさん。お兄様がいないから中は今度にするね。庭でお茶会の準備してくれる? 突然来たから簡素なのでいいからね」

「はっ。少々お待ちください」

「庭でも見てるよ~」


 本当は中も見たいけど、変な噂が立つとフレドリクが怒りそうだから我慢。花なんか興味ないのに、ボエルと一緒に観賞する。


「殿下もこれぐらい植えたほうがいいんじゃないか?」

「えぇ~。手入れするの面倒そうじゃない?」

「そこは庭師に頼めよ」

「庭師雇ったらけっこうかかるよ? ボエルなら花にお金掛ける??」

「う~ん……彼女が喜んでくれるなら……いや、そんなに高いなら厳しいか……小さな花壇で一緒に育てるのがいいかも? 子供は産めないから子供代わりに……」

「めっちゃ夢がリアルだな……」


 ちょっとした雑談だったのにボエルの夢が膨らむのでフィリップも引き気味。それを我慢して聞いていたら、玄関の扉が開いて、ドレス姿のルイーゼが出て来た。


「フィリップく~ん。お待たせ~」

「ボエル、前に!」

「あ? なんなんだ……」


 そしてルイーゼが走り出したので、ボエルを前に立たせてフィリップは後ろに隠れた。


「あっ!?」

「だ、大丈夫ですか?」

「ありがと~」


 案の定、おっちょこちょいのルイーゼはスカートを踏んで倒れたので、ボエルがキャッチ。気持ち、ボエルの歯が輝いて見えたからフィリップは目を擦ってる。


「お姉様、お久し振りです」


 そんなことをしていたフィリップであったが、思い出したかのように大袈裟な仕草で挨拶をした。フィリップだってやればできる子なのだ。


「うん。久し振り~。もう毎日お勉強漬けだから、フィリップ君が来てくれて助かったよ~」


 ルイーゼはできない次期皇后だ。ボエルにもフィリップのほうが立派に見えるからか目をゴシゴシ擦ってるよ。

 挨拶はホドホドにして、花を見ながら移動。ルイーゼが危なっかしいので、ボエルに手を取らせてエスコートさせるフィリップ。自分はやりたくないみたい。


 そうして日差しを避けられる籐の東屋に来た一同は、各々の従者を後ろに立たせてお茶会を開始する。


「やっぱり皇后教育って大変?」

「うん。もうヘトヘトだよ~」

「わかるわかる。僕も昔は皇子教育、いっぱい受けたも~ん」


 まずは共通の話題から。フィリップが愚痴を言うので、ルイーゼからも愚痴が漏れてしまう。ボエルは「オレの時もちゃんと勉強しろよ!」とか思いながら聞いている。

 ルイーゼもストレスが溜まっていたのか、フィリップの話術のおかげで笑いが多い。そんな中フィリップはそろそろいいかと仕掛ける。


「ここ、すっごい綺麗な屋敷だね。手入れとか時間掛かったの?」

「それは~……それほどじゃなかったと聞いてるよ。最初から手入れは行き届いていたみたい。時間が掛かったのは、フックンたちが私のためにお花を選ぶのだけだって」

「……フックンたち??」

「あっ! フックンフックン。フックンがこんなに綺麗な庭園にしてくれたんだよ~」


 フィリップの質問に、メイドが咳払いをして、ルイーゼが焦りながら言い直す。それだけ聞けたらフィリップには充分だから聞き流す。


「へ~。ウチと大違いだ」

「そういえばフィリップ君も引っ越しするんだよね? どんな所なの??」

「それがぁ、幽霊屋敷なのぉぉ~」

「ヒッ! 本当に!?」

「ウソウソ。冗談だよ~? 怖がらせたこと、お兄様に言わないでね~??」


 ちょっとしたイタズラ、ルイーゼが凄い顔をしたので失敗。乙女ゲームでは幽霊におびえていたから、フィリップにイタズラ心が出たっぽい。

 しかしそのままにしていると、ルイーゼ大好きフレドリクがキレるのは目に見えているので、必死に機嫌を取るフィリップであったとさ。

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