320 2人目


 道端で彼氏から暴力を受けていたセミロングヘアーの少女は、フィリップに手を引かれてさらわれたので涙目。助け方が貴族を全面に出した上に言葉がクレイジー過ぎたから、怖くて怖くてたまらないらしい。

 その気持ちを汲んだのか、フィリップは目に付いたオープンカフェに少女を連れて行き、外の席に座らせた。


「あぁ~……怖かった~。いつ殴られるかと思ったよ~」

「……へ??」


 そしてフィリップが胸を撫で下ろすと、少女からとぼけた声が出た。


「さっきのって……」

「ウソウソ。お忍びで護衛連れて来てないから、ハッタリで乗り切っただけだよ」

「じゃあ、貴族ってのも?」

「それは半分ホント。あまり立場はない立ち位置だから、微妙な立場だけどね」

「はあ……」

「なんか飲む? 冷たい物がいいよね??」


 とりあえずフィリップは少女が逃げない内に、店内に入って注文。飲み物を頼むと席に戻り、店員が運んで来たら自己紹介から始める。


「僕はライアン。歳はハタチね」

「20歳??」

「見えないよね~? 君も似たようなモノじゃないの? さっきのヤツ、大人って言ってたじゃない?」

「あ、ごめん。私も16歳だけど、いつも子供扱いされちゃうのに、こんなんじゃ人のこと言えないね。ごめんね。名前はオーセよ」

「オーセ……」

「どうしたの??」


 名前を聞いた瞬間にフィリップは驚いてしまったので、すぐに言い訳を口にする。


「あっちのほうにある大衆食堂で働いてない?」

「そうだけど……なんで知ってるの?」

「今日スカウトに行ったら休みって聞いたの。その時、店員さんがオーセって言ってたから」


 そう。この背の低い女性が、フィリップの目当ての人物。絡まれている時は大人と聞こえたから、もしもの時の保険にしようとケンカは自重したのだ。


「スカウトって??」

「んっとね。僕、メイドを募集しててね。ほら? こんなに背が低いから、背の低い大人の女性を知り合いに探してもらっていたんだよね。んで、今日、会いに行ったの」

「メイドか~……」


 オーセは立ち上がったフィリップを下から上まで見て考える。フィリップはとりあえずオーセを立たせて背比べしたけど、また負けて地面に両手を突いてる。

 今回こそはと思っていたみたい。でも、オーセはカイサと比べて1センチ低いだけだったから、比べるまでもなく負けてたけどね。


「キャハハ。そんなに落ち込まなくてもいいのに~」

「そっちはいいよね? いつも負けてたのに勝てたんだから!」

「うん……これが優越感ってヤツなのね。キャハッ」

「うらやましい~~~」

「ゴメンゴメン」


 オーセはまだ笑っているけど、フィリップは席に戻ったら話も戻す。


「それでメイドの件、どうかな? 暴力彼氏から助けた命の恩人のお願い!」

「すっごい恩着せがましいお願いの仕方だね」

「あ……ひょっとして、彼氏と別れたくなかった?」

「ううん。潮時かと思っていたし……私、いつも男運悪いんだよね~……」


 オーセの付き合った人数は3人。そのどれもがしばらくしたらバイオレンスな男に変わり、最終的には女を作って離れて行くらしい。


「たぶん、私が悪いんだよね……」

「そんなワケないじゃん。どんなことがあっても、女の子に暴力を振るう男が悪いに決まってるよ」

「ライアン君……」

「僕のところに来な。もしもの時は、優しい男探してあげるから」

「そこは君が手を上げるところじゃないのかな~? はぁ~」


 フィリップの優しい言葉に感動し掛けたオーセだったが、台無しにされたから大きなため息が出た。


「あ……ほら? 僕って貴族っぽいから、親が、ね?」

「あっ!? 私も貴族様にこんな喋り方してる!?」

「大丈夫大丈夫。貴族っぽいだけだから、口調とかそんなに気にしないから」


 でも、フィリップが貴族だと思い出して、今まで不敬なことをしていたと頭を下げるオーセであった。



 オーセはまた恐縮していたけど、フィリップがあまりにも貴族っぽくないからすぐにいつもの喋り方に戻る。その時、フィリップは「適性テストがあるからいちおう受けてみないか」と金貨を1枚渡して移動した。


「宿屋で何するの??」

「ちょちょちょ。ちょっとだけだから。ね?」

「だからお金渡したの!?」

「それは試験費用だよ~。試験が終わったらもう1枚あげるから~」

「試験費用とは受ける側が払うのでは??」


 今回もフィリップは雑に宿屋に連れ込もうとしたら、お金の魔力に負けたオーセも陥落。ちょっと首は捻っていたけど、マッサージが終わったらフィリップにメロメロだ。


「すっご~い。こんなの初めてだったよ~」

「アハハ。喜んでくれてよかったよ」

「それに身長もちょうどいい。初めて包みこんじゃった」

「てことは、メイドの件は、オーケーって感じ?」

「うん! ……アレ? ひょっとしてテストって、これのこと?」

「そそ。これがあるから、月に金貨3枚払うよ」

「こんなに気持ち良くして貰えるのにそんなに貰えるの!?」


 体の相性もいいし給料は平民からしたらとんでもなく高いので、オーセは喜んでメイドの仕事を引き受けるのであった……

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