305 皇帝の指示


 フレドリクが夜の帝王を捜していると聞いたフィリップであったが、懲りずに夜遊びしようとしたけど、その日は怪しい集団が歩いていたので屋根の上から付け回していた。


「アレでお忍びのつもりか? どう考えてもアレは兄貴だろ……」


 フレドリクは変装してるつもりでも、前から歩いて来た女性がその顔を見ただけで狙撃されたみたいに倒れているので、忍びきれていない。

 その女性は誰かに介抱されていたが、フレドリクが通り過ぎるとヌッと起き上がり、フレドリクの跡を追うゾンビみたいな女性の群れの隊列に加わって膨れ上がるから、そもそも隠れようがない。


「入れ食い状態だな……てか、なんで僕には群がらないんだろ? これも強制力か~。いいな~。ま、それはそれでつまらないか」


 フィリップは強制力と決め付けているが、実は半々。

 フレドリクぐらい皇子らしい振る舞いをすれば、フィリップのポテンシャルならかなりの数の女性を惹き付けられるはずなのだが、如何いかんせん、女性を見る顔がスケベ過ぎるから皇子オーラが発揮されないのだ。


「今日はどこにも入れそうにないな……兄貴に見付かる前に帰ろっと。あ~あ……しばらく自粛か~」


 こうなっては仕方がない。フィリップは誰にも見られないように、ヒッソリと帰宅するのであった。



 翌日は朝からボエルを襲い、そのまま就寝。夜はリネーアたちと遊び、また就寝。ムリヤリ昼型に戻そうとしているらしい。

 なんとか昼型に戻っても夜の街に繰り出し、コソコソ歩いていたら衛兵に追われたので失敗。どうやら小柄な男が毎日追われているらしい。


 ここでやっとフィリップは完全に諦めて、平日はボエルたちと遊び、週末はペトロネラと遊ぶ。でも、ペトロネラは決まって離れる時にゴネるので面倒くさそうだ。

 そんなことをしていたある日、ボエルが皇帝からの手紙を持って来たら、それを読んだフィリップが固まった。


「なあ? 凄い顔してるけど、大丈夫か??」


 フィリップの顔は、ムンクの叫び風。こんな顔をしているからボエルも気になって、フィリップの手からはらりと落ちた手紙を拾って読んでしまった。


「なんだよ。卒業生代表の答辞をやれって書かれてるだけじゃねぇか。それぐらいでこの世の終わりみたいな顔すんなよ」


 でも、たいした内容ではない。第二皇子なら当然のお仕事が回って来ただけだ。


「いやだいやだいやだいやだ~~~」

「またバタバタしてるよ……陛下の命令なんだから諦めろ」


 でも、フィリップは馬鹿皇子。仕事をしたくないからって駄々っ子みたいになるのであったとさ。



 駄々っ子になっても仕事は消えないので、フィリップはボエルに抱き付いて赤ちゃんみたいになっていたけど、ボエルが呆れただけ。

 いちおう機嫌取りでマッサージをしたら、フィリップもやっと落ち着いてくれた。


「てか、な~んでいきなりこんなこと言い出したんだろ?」

「そりゃアレだろ。フレドリク殿下の披露宴で手紙を書いたからじゃね? 最後はアレだったけど、良く書けてたもんな」

「しくったな~……あんなことするんじゃなかった」

「ほら? 勉強机行くぞ。殿下なら、チョチョイと書けるだろ」

「えぇ~~~……」


 フィリップが嫌がっていても、ボエルが抱っこしてムリヤリ勉強机の前に置いた。そこでフィリップも諦めてペンを持ったけど、まったく筆が進まない。


「どうした?」

「いや……なに書いたらいいんだろ?」

「そりゃ、学校の思い出なんか、を……」


 ここでボエルも気付いちゃった。フィリップは3年生からの途中編入。それなのに授業も行事もほとんど休んでいたから、思い出らしい思い出が少ししかないのだ。


「あっ、アレなんてどうだ? 尊敬する先生に感謝の言葉と、か……」

「誰1人、名前知らない」

「後輩にエール……」

「絡んだ記憶がない」

「と、友達……」

「リネーア嬢ぐらい?」

「詰んだ!?」


 なのでボエルは次々アイデアを出したけど、ことごとくヒットしない。フィリップは人と関わろうとしなかったから、帝都学院で関係を深めた人物がほぼいないのだ。


「仕方ない。創作するしかないか~」

「それはそれで問題ありそうだけど……」

「とりあえず、リネーア嬢のパーティメンバーを連れて来て。話を聞いてたら、僕の記憶も蘇って書けそうなネタを思い出すかもしれないし」

「そういうことなら……」


 フィリップ的にはリネーアパーティの空いている時間に来てくれたらよかったのだが、第二皇子が呼んでいるのだから翌日には全員集合。

 リネーア以外は超豪華な部屋に恐縮しっぱなしで質問にも緊張していたから、フィリップは関係ないことを聞く。

 ナータンとデシレアは付き合っているのかと聞いたら否定され、ダンスパーティーは2人で踊ると聞いたから、からかいまくり。


 とりあえずそれで緊張は解けたから、思い出の聴取。2人は貴族としては位が低いほうだが、楽しい学生生活を送っていたので笑顔で語ってくれた。

 そこにリネーアも加わり、3人で楽しそうに思い出話に花が咲くので、リネーアの不幸を知っているフィリップとボエルの目には、薄らと涙が浮かぶのであった……


「「「ももももも、申し訳ありませ~~~~ん!!」」」


 ただし、その涙は友達がいないから悲しんでいると思われて、リネーアパーティからは土下座で謝られ、ボエルには鼻で笑われたので、不機嫌になるフィリップであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る