300 犯人と対面


 呪いの手紙の犯人がわかったフィリップは、特に怒るわけでもなくボエルに指示を出す。その話を聞いていたリネーアとマーヤも、2日後にフィリップの部屋に集合した。


「さあ、行こうか!」

「「「はあ……」」」


 フィリップが意気揚々と部屋を出たけど、ボエルたちは何をたくらんでいるのかと超心配。

 そうしてやって来たのは、寮の隣にある広場。そこには大量の女子生徒が待ち構えていた。つまり今日は、女子生徒の手紙の返事で呼び出したのだ。

 以前、フィリップが直接お断りした女子もしれっと並んでいるよ。どうせ覚えてないだろうと思って手紙を出したら、「やっぱりね~」となったんだって。


「んじゃ、ボエル、仕分けして」

「はあ……聞け~~~!」


 フィリップが登場しても女子生徒はずっとお喋りしているので、ボエルは大声で命令。女子生徒は、フィリップに婚姻を申し込んだ者と、卒業パーティーのダンスパートナーに申し込んだ者とに分けて整列させた。

 すると、ダンスパートナー組が鬼の形相で婚姻組を睨む。どうやら抜け駆けしたと思われてるっぽい。


「ちゅうも~~~く! では、殿下……」


 その空気をボエルが大声で掻き消すと、フィリップは壇上に登って婚姻組の方向に体を向けた。


「まず、僕に素敵なプロポーズしてくれたみんな。気持ちはすっごく嬉しかったよ。でも、ゴメンね。僕の結婚相手は父上が決めるから、その気持ちは受け取れない。諦めて。僕がいるせいで、みんなの気持ちを惑わせたことを、ここにお詫びします。申し訳ない」


 フィリップが頭を下げると、女子生徒は何が起こっているのかとザワザワし出した。そこにボエルから、手紙を返却すると声が掛けられると、ザワザワは大きくなった。

 どうやら男子生徒の手紙に点数が付いていて、それを読んでしまったから自分も同じことをされると思って怖くなったみたいだ。


 しかし返却された手紙には点数はなし。そのかわり、フィリップの手書きのサインと「ありがとう」と書かれた紙が入っていたので、何か裏があるのではないかとヒソヒソ声に変わった。

 手紙を返却された婚姻組はボエルから解散を告げられたけど、ダンスパートナー組がどうなるか気になるので、ちょっと離れたところでほとんど残って見てる。


「んじゃ、次は君たちね。とりあえず、名前を呼ばれた人は前に来て。顔と体を見させてもらうから」

「「「「「はいっ!」」」」」


 ここからが本番だと察したダンスパートナー組は目を輝かせる。婚姻組は、やっちまったと後悔するよりも睨む者続出。

 フィリップの言い方だと、最低限ダンスパートナーは確実だし、体の関係もありそうだもん。そこから既成事実を積み上げられると思って……


「ん~……ゴメンね。ゴメンね。ひとつ飛ばしてゴメンね」


 ボエルから名前を呼ばれた女子、1人1人に謝罪するフィリップ。手紙の返却もついでにする流れ作業だけど、まれに謝罪されない女子はリネーアが捕まえて待機させるので、喜ぶよりも微妙な顔をしている。針のむしろだもん。

 そうして最後の1人まで顔と体を舐めるようにフィリップが見たら、10人までこの場に残された。


「なあ? 作戦と違うくないか?」

「いや~……けっこうタイプだったから……オッパイ大きいでしょ?」

「まぁ……顔もいいな……」

「殿下……ボエルさん……」


 フィリップとボエルがナンパモードでヒソヒソ喋っていたので、リネーアが目的を思い出させて5人に絞るのであったとさ。



 フィリップに選ばれた女子生徒5人は、解散せずに少し離れた所にいる女子生徒全員に睨まれているので冷や汗が酷い。

 それを見越していたフィリップの指示で、寮にある談話室に移動。そこに入ったフィリップはソファーに飛び込んでふんぞり返ると、5人組を前に並ばせた。


「ニヒヒ。みんな居心地悪そうだね~……君たち5人がここに呼ばれた理由、周りの顔を見たらわかるでしょ?」


 そう。この5人組は、フィリップに呪いの手紙を送った犯人。わざわざあんなに女子生徒を集めていたのは、逃げ出せないように仕向けたのだ。

 ちなみに10人まで絞ったのも、理由を悟られないようにしたと思われる。と、思われる……


「「「「「い、いえ……」」」」」


 しかし、犯人は往生際が悪い。


「そういうのいいから。僕のことが嫌いなんでしょ? だったら、結婚とかしたくないよね? 僕と体の関係にならな~い??」

「「「「「……は??」」」」」


 だがしかし、フィリップは頭がおかしい。そりゃ、ボエルにスパーンと頭を叩かれるよ。


「いったいな~。なにするんだよ~」

「話と全然違うからだろ! この手紙を出したヤツを裁くために、今まで調べてたんだろ!!」


 ボエルが激怒してフィリップに手紙を投げ付けるものだから、呪いという文字がビッシリの手紙が床に散らばった。それが目に入った5人組は、一気に血の気が引いた。


「「「「「お、おおお、お許しを~~~!!」」」」」


 次の瞬間には、ジャンピング土下座。呪いの手紙を送った犯人が全員集められて証拠もあるのだから、もう言い逃れできないからだ。


「いや、僕、そんなこと一言も言ってないでしょ? 犯人探しをしてたのは、たんに面白そうだと思っただけだよ。あわよくば、体の関係だけの付き合いができたらいいな~っと思って……どうどうどう?」

「そういうヤツだったな……」

「確かに、ちょっとした嫌がらせをされたとしか思ってなかったですね……」


 でも、フィリップは頭がおかしい発言を連発。ボエルは呆れ果て、リネーアはフィリップの発言を思い出して頷く。


「「「「「罰は体を差し出せと……お許しを~~~!!」」」」」

「いや、できればだよ? 命令じゃないからね? 泣かないで? ね??」


 でもでも、皇族から出た言葉は全て命令。5人組が泣き出してしまったので、フィリップは必死になだめるのであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る