287 夜遊びの初失敗
「どうする? ママになっちゃったら?」
「イヤに決まってるでしょ! 父上とブラザーになりたくな~~~~い!!」
ペトロネラが皇帝ともお見合いみたいなことをしてると聞かされたフィリップは、断固拒否。元カレが子供なんてややこしい上に、マッサージしてるとバレた日には誰の首が飛ぶのかわからないもん。
「えっと……候補は私が一番?」
「可能性は否定できません……」
「もう飲むしかない! グビグビグビグビ」
「ずっと飲んでるでしょ~~~」
怖い話をしたらペトロネラは現実に戻って来たけど、酒で恐怖を吹き飛ばす。フィリップ的にはこのまま酔い潰れてくれたら楽ができるとは思って好きにさせていたけど、「怖くて酔えない~」とか言って全然倒れてくれないよ。
「てか、お見合いしてるってことは、僕との関係は解消ってことでいいんだよね?」
「それは困るぅぅ! 捨てないで~~~」
「捨てるのそっちだから!!」
これでやっと離れられるとフィリップが安心したのは束の間。ペトロネラはフィリップとも離れたくないらしく、泣きながら抱きつくのであった。
そのあとマッサージに突入して、結局フィリップの超絶技巧で倒していたけどね。
連休が終わってフィリップは逃げるように城から脱出したら、また仮病。あまりにもフィリップが部屋から出ないので、あだ名が「馬鹿皇子」から「引きこもり皇子」とか呼ばれ出したとボエルがわざわざ報告していた。
フィリップとしては「馬鹿皇子」よりはマシかと思っていたけど、ボエルは激怒。本当に熱があるから「馬鹿皇子で合ってるだろ!」と……
「合ってるんだけど……怒り方が合ってない!」
「いや、その……そっちのほうが合ってるから……」
「エロ皇子のほうが合ってるでしょ~」
「殿下も怒り方、間違ってないか??」
でも、フィリップが変な怒り方するので、ボエルのボルテージは急降下。「エロ皇子」はめちゃくちゃしっくり来てるけど……
そんなことを言われていても、フィリップの生活は変わらない。夜な夜な街に繰り出して、女性とマッサージ三昧。
今日も夜遊びしようといつもの平民服に着替えたら、窓から出てバルコニーの手すりに飛び乗ってジャンプ……
「ん?」
のモーションに入ったら、視界の端、左手にロープが垂れているのが目に入った。そして人の足が下りて来たけど、タイミングが悪くてジャンプは止められない。
フィリップが浮き上がったところで、ロープを辿って下りて来た人物と目が合った。
「だっ! い二皇子……」
「ウワッ……」
お互い大声を出せないのか、驚きの声は小声。ただし、フィリップは宙にいる。このままでは着地せざるを得ない。そうなっては、フィリップの実力の一端を見せてしまう。
フィリップはムリヤリ体を捻って、バルコニーの手すりに手を掛けた。
「ウワッ……ウワッ……」
その後は、手を離して2階の手すりをキャッチ。また離して1階でも繰り返し、地面に足が着いたら転がってうつ伏せに倒れる。3階から落ちても怪我無く生きているギリギリの演技だ。
その直後、フクロウの鳴き声がそこかしこから聞こえ、フィリップが痛そうにしていたら、人の足音が大勢近付いて来るのであった。
「ててて……死ぬかと思った~」
フクロウの鳴き声はたぶん合図か何か。その予想は当たり、大勢に囲まれたところでフィリップは体を起こした。
「そのまま転落死してくれていたほうが、我々は楽ができたのだがな」
「ん~?」
そこには黒ずくめの男が20人ほど立っており、この集団のリーダーであるがっしりした体型の男、ヘルゲ・ネスラーは残念そうな声を出した。
「なんかよくわからないけど、保健室に連れてってくれない? 手、擦り剥いちゃった」
「この状況を見てまだわからないのか……とんでもない馬鹿皇子だな」
「あれ? 警備兵じゃないの? てことは~……アレだ。夜にまで訓練するなんて立派だね~。ご苦労さん」
「どこまで馬鹿なのだ。我々はお前を殺しに来た刺客だ」
フィリップがとぼけたことを言い続けるので、ヘルゲは目的をゲロっちゃった。フィリップが全然部屋から出て来ないから寝込みを襲い、毒を飲ませて病死を装おうとしたんだって。
「なるほど~。こないだお兄様が襲われたから、僕がやったと思ってるのね」
「やっと理解したか」
「んで、このあとのプランは? 毒殺と転落死は失敗したよね?」
「転落死は狙っていない。というか、こんな時間に何してたんだ??」
「夜這いに行くとこだったの~。今日の狙いはね~」
暗殺プランの話をしていたのにヘルゲは疑問に思っていたことを質問したので、フィリップはスケベ顔でエロプランの説明。全て大嘘なのにその顔がエロすぎて、「こいつ、いつもそんなことやってたのか」と全員信じてるよ。
「あぁ~……立って来ちゃった。とりあえず今日は解散ってことにしない?」
「するか!」
「ヘルゲさん。声が大きい」
さらに解散まで指示するモノだから、ヘルゲもオコだ。
「仕方がない。ここで……」
「キャー。たっけて~」
「は??」
怒ったヘルゲが剣に手を掛けた瞬間、フィリップは普通の声量で助けを求めたから意味がわからない。
「いまの言葉を大声で言ったら、完全犯罪は失敗。それに血も死体も残る。お兄様にどう言い逃れするの? お前たちの上は、切り捨てるだけだよ? 皇族殺しは、親戚縁者、皆殺しだよ~??」
ここで殺してしまうのは、フィリップが言った通りのことがかなり高い確率で起こると感じたヘルゲは、剣を抜くに抜けない。
「だからダンジョンで始末したら? そこでなら、少なくとも死体は残らないよ~?」
暗殺対象のありえない助言に、ヘルゲたちは困惑だ。
「確かにそれはアリだが、カギがない」
「カギぐらい僕が開けてやるよ。数々の女子生徒の部屋に忍び込んだ僕に、開けられない扉はないのだ~~~!!」
「シーッ! シーーーッ!!」
途中までは呆れて聞いていたヘルゲたちであったが、最後の最後でフィリップがドヤ顔して叫ぶモノだから、ここで初めてフィリップの口を塞いだのであった……
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