284 フィリップ講義の再開


「それで、何か助言はありませんか?」


 リネーアは親友自慢をしていたが、フィリップの涙目に気付いて「そういえばこの人、友達1人もいなかった!?」と勘違い。この話はかわいそうなので本題の中ボス攻略の話に戻した。


「前々から火力不足はわかっていたんだけどね~」

「そうだったのですね。私たちは最近になって話し合っていたのですが……」

「自分たちで気付くのが一番大事だよ。ただね~……魔法の相性ってあるじゃない? 合体技とか考えていたんだけど、いまいちいいアイデアが浮かばないんだよね~」

「相性ですか……」


 リネーアはそこまで考えてくれていたのかとちょっと嬉しくなったが、魔法の相性の話はよくわからないらしい。


「リネーア嬢が水で男爵家の子が風でしょ? 相性は抜群なんだけど、どうしても規模が大きくないと力を発揮しないの」

「わ、わからないです……もう少し詳しく説明してくれませんか?」

「そうだね~……嵐ってあるじゃない? アレは風と水の集合体だ。もっと凄いのは津波なんだけど、知ってる??」

「はい……実家はわりと海に近いので」

「それなら話が早い。要は災害ってヤツだね。水と風で起こっているでしょ?」

「確かに……相性だけは抜群です。それを人間が起こすのは不可能ですね」


 火力不足は人間では補えないと決定付けられたのだから、リネーアにも諦めが見える。


「さて、どうしたものか……あ、なんで僕、今まで気付かなかったんだろ?」

「何をですか?」

「水って元素記号ではH2O……水素だけを抜き出せたら大爆発を起こせる……」

「H2O? 水素? 水が爆発するのですか??」

「あ……アハハ。いまの無し。忘れて。あと、ちょっと時間ちょうだい」

「はあ……」


 科学の知識を出しすぎたので、フィリップは一旦ボエルにリネーアパーティを預けて水魔法の可能性について考える。しかし水素だけを抜き出す方法も思い付かないので、まったく違う方法を試してみる。


「男爵家の子のエアカッターってあるじゃない? 水魔法でマネできない??」

「あの形にしたらいいのですね……やってみます!」


 切れ味は悪いが、似たような魔法ができたのでここからフィリップのアレンジ。リネーアにはできるだけ小さくて薄い水の刃を多く作らせてみた。


「こ、これは、浮かせているだけでも難しいです……」

「ちょ、ちょっとだけ我慢して! 男爵家の子! いますぐ来て!!」


 ボエルとナータンの訓練を見ていたデシレアを呼ぶと、フィリップは急いで助言。風魔法で竜巻を起こしてもらったら、その中に水の刃を入れる。これでフィリップの最強魔法、【氷桜吹雪】の劣化版の完成だ。


「ヤバイッ!? 全員、退避~~~~!!」

「「キャーーー!!」」


 でも、失敗。水の刃が竜巻の遠心力で弾き出されて地面に突き刺さったので、フィリップは2人に覆い被さって離脱するのであったとさ。



「ま、なんとか攻撃に使えそうだね。この方向で練習してみよう」

「さっきの、殿下に当たってませんでした? お怪我は……」

「大丈夫大丈夫。当たる前にはただの水になってたし」


 これは半分嘘。確かに水の刃は遠くに行くと切れ味は落ちたけど、単純にフィリップの防御力が高いから事無きを得ただけ。リネーアにも濡れた服を見せたら安心だ。

 ボエルたちも心配して集まって来たので、合体魔法の失敗した場合に備えて盾役に任命。ただ、合体魔法は至る所に飛び散るから、フィリップたちはワーキャー言って遊んでいるみたいだ。


「何をやってるんだ?」


 合体魔法の危険性が無くなった頃に、騒ぎ声のせいでカイがやって来た。ボエルはカイを見た瞬間ナータンと一緒に逃げて剣の訓練。近衛騎士の件があるから、怒られて白紙に戻されたくないので真面目だとアピールしてるよ。


「ちょっと遊んでただけだよ」

「訓練場で遊ぶな……と言いたいところだが、アイツはなかなかいいな」

「またスカウト~? 僕の手駒ばかり持ってかないでよ~」

「フィリップが育てたわけじゃないだろ」


 カイは、ボエルと訓練しているナータンに興味津々。ただ、よく見るとまだ学生レベルを抜け出せていないらしい。


「そりゃそうだよ。でも、志は高いから、ダンジョン実習の成績はかなりいいところまで行くと思うよ」

「ほう……その成績の如何いかんによっては声を掛けてみるか。場所は貸してやるから静かにしろよ」

「なんで上からなんだよ~。僕、第二皇子だよ~?」


 フィリップの苦情は無視。カイは訓練に戻って行ったので、フィリップも暇潰しの訓練に戻るのであった。



「ま、そんなもんかな? あとは各々でやって。んで、3日後にそっちに顔出すから、一緒にダンジョンに潜ろう」

「「「はいっ!」」」


 リネーアパーティの形が仕上がったら、後日、待ち合わせをしてダンジョンへ。リネーアパーティにボエルを加えてガンガン進ませる。フィリップは……護衛騎士2人に囲まれて何もせずだ。

 モンスターを倒したりランチしたりとゆっくり進んでいたら、3時頃に中ボスの部屋に到着。小休憩を入れて、フィリップが指示を出す。


「今回は安全策でボエルを入れるけど、3人でもなんとかなるはずだよ。次回のために、しっかりフォーメーションを確認してね」

「「「はいっ!」」」

「ボエルは調子に乗って1人で戦わないように。トドメも刺しちゃダメだからね」

「わ~ってるって。でも、ワイバーンか~……グフフ」

「それ、わかってる人がしちゃダメな顔だからね!」


 リネーアパーティはいい返事をしてくれたが、ボエルは初めてのワイバーン戦にワクワク。その顔は信用ならないが、中ボス部屋に入って行くリネーアパーティに続くフィリップであった。



「う~ん……チームワークも威力もまずまずだったんだけど、ボエルは攻撃しすぎ」

「すんません」


 ワイバーンが倒れると、フィリップの説教。どのように倒したかというと、空飛ぶワイバーンの攻撃を前衛で耐え、後衛の遠距離攻撃魔法で落とす。

 そこに前衛が飛ばさないようにボコスカやって、後衛の合体魔法で切り刻む。フィリップ的には一発では死なないと思っていたのに、ボエルがやりすぎたので、ボエルにだけ説教だ。


「次は、防御だけに専念して」

「えぇ~」

「えぇ~……じゃなくて。戦いたかったらソロでやったらいいじゃん。そっちのほうがいいでしょ?」

「お……おうっ! それいいな!!」


 ボエルが口答えするので苦肉の策。バトルジャンキーにご褒美を用意したら、即解決だ。


「んじゃ、次いってみよう!」

「「「「はいっ!」」」」


 こうしてリネーアパーティ&ボエルは、ワイバーンを周回して戦い続けるのであった……


「「あの……我々も戦いたいのですが……」」


 そんな中、護衛騎士までフィリップの護衛をせずに立候補。


「お前たちもバトルジャンキーなの~??」

「「アイツほどではありません!」」


 ボエルが笑いながら単独でワイバーンに突っ込む姿を指差し、強く否定する護衛騎士たちであったとさ。

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