275 目的の達成


「ちゃんと追って来てるかな?」


 モンスターをすり抜けて逃走していたフィリップは、角を曲がった所で止まって後ろを確認。不審者パーティはモンスターと戦闘したみたいだけど、リーダー格の2人の大人がレベルが高いらしく、少し遅れたぐらいで迫っている。

 なので、追い付けそうな速度でダッシュ。地下4階に下りる階段を目指す。


 たまにモンスターと出くわすが、フィリップは脇を抜けて叫びながら逃走。モンスターに追いかけられるけど、速度を調整して不審者パーティに処理してもらう。

 地下4階になるとモンスターの強さも数も増えるので、不審者パーティは苦戦。一気に速度が落ちた。


「もうこのへんでいいかな~? 最後の仕上げといきますか」


 不審者パーティが苦戦している間に、フィリップは先に進むのであった……



「クソッ! あのバカどこまで行く気だ!!」


 いくら大人2人が強くとも、足手まといの学生が3人もいるので不審者パーティはフィリップを見失ってしまった。

 ただ、モンスターを倒さないことには追うこともできない。さらに足手まといの疲れも見えるので、モンスターを倒したらひとまず休憩することになった。


「はぁはぁ……どうします? 私たちだけ、先に戻りますか??」


 テュコ・ゴスリヒはまだ学生だから役に立てていないので、リーダーのエドガー・ボーメに意見を求めた。


「お前たちがいないと、俺たちが戻った時に怪しまれる。それに、第二皇子はもう死んだようなモノだろ」

「あぁ~……あんな装備で1人じゃ時間の問題ですね」

「あとは確認だけだ。地下3階で第二皇子パーティを見掛けたとでも証言しておけば、俺たちは疑われない。死体だけ確認して帰るぞ」

「「「はいっ!」」」


 話がまとまった所で休憩を終えた不審者パーティは、あとは楽な仕事だと先に進んだが、しばらくしたら叫び声が聞こえて来た。


「この声は……あのバカか?」

「おそらく……あ、地図によると、道を間違えるとここに戻って来るようになってますよ」

「なるほど……ここで始末する! 総員、臨戦態勢!!」


 飛んで火に入る夏の虫とはこのこと。死体を探す手間が省けたと不審者パーティは嬉々として武器を構えて待っていたら、フィリップの姿が見えて来た。


「ぎゃああぁぁ~~~! たっけて~~~!!」


 ただし、1人ではない。


「おい……あのバカ、モンスター引き連れてるぞ!?」


 大量のモンスターと共にだ。フィリップはただ戻って来たワケではなく、大量のモンスターを不審者パーティにぶつけようとわざと引き連れて来たのだ。


「どどど、どうします!?」

「やるしかないだろ! 俺たち2人で守る! 誰か1人はあのバカを狙え! 転ばせるだけでいい! それぐらいできるだろ!!」

「「「はいっ!!」」」


 それでもエドガーは優秀。テュコたちにフィリップを狙わせて、相方と共に覚悟を決めた。


「ぎゃああぁぁ~!!」

「喰らえっ!」

「よっと。ぎゃああぁぁ~!!」

「待っ……避けられました!?」

「なんだと~~~!?」


 演技は徹底的に。フィリップはテュコの風魔法をひょいっと避けて、不審者パーティにモンスターをなすり付けて置き去りにするのであった……



「ただいま~」

「「「「殿下!?」」」」


 不審者パーティを置き去りにしたフィリップは、安全な場所で帰還アイテムを使って1階へ。ボエルとリネーアパーティは、フィリップのとぼけた顔を見た瞬間に駆け寄った。


「遅かったな。どこも怪我ないか?」

「大丈夫大丈夫。走りすぎて疲れただけ」

「よかった~~~」

「心配してくれてありがとね」


 ボエルたちはけっこう心配していたみたいなので、フィリップもここはボケはなし。ハグを求めて両手を広げて待っていたけど、それもなしだ。


「てか、アイツらはどうなったんだ?」

「30匹ぐらいモンスター押し付けてやったから、まだ戦ってるんじゃないかな~?」

「それ、生きて帰って来れるのか??」

「……しまった!?」


 フィリップの完璧な作戦、最後の最後で暗雲が立ち込める。いちおうフィリップを弁護すると、不審者パーティが疲れ果てて帰還アイテムを使うしかできない状態まで追い込んだようだけど、やりすぎたね。


「ま、アイツらなら大丈夫だよ。アーメン……」

「なんで祈ってるんだ??」


 もうここは祈るしかない。あとのことはボエルと教師陣に任せて、フィリップは壁際で腰を下ろすのであった。



「来たぞ! 総員、抜刀!!」


 フィリップが戻ってから30分。何度か帰還魔法陣が光って、そこから出て来た学生が剣を抜いた大人たちに囲まれてビビるってことを繰り返し、ついに本命の不審者パーティが現れた。


「な……これはなんの騒ぎですか!?」


 学生パーティの場合は青ざめたり尻餅つくことが多かったが、不審者パーティの場合はエドガーがテュコをつついて状況確認をさせている。


「なんの騒ぎって、身に覚えがあるでしょ?」

「「「「「バ……フィリップ殿下……」」」」」


 そのアンサーでフィリップが前に出たら、不審者パーティは「バカ」と言い掛けてなんとか止まった。


「な、なんのことやら……」

「地下1階から僕のこと付け回していたのに? お前は僕に風魔法放ったのに?」

「いや、アレは……」


 テュコが言い淀むと、エドガーが前に出て来た。


「それは殿下を助けようとしただけです。大量のモンスターに追われていましたよね? たまたま狙いがズレただけなのです。つけていたのも、たまたま同じ速度で進んでいたら殿下が1人で行動していたので、助けようと思って跡を追っただけなのです」

「ふ~ん……ま、筋は通ってるね……」


 エドガーは「勝った」とか思っているけど、フィリップは悪い顔で笑う。


「てか、筋とかどうでもいいの。僕が殺されそうと感じただけで、それが証拠だ」

「な……冤罪でもいいと仰るのですか!?」

「冤罪かどうかは、父上が判断するでしょ。ま、そっちのガキ共が拷問に耐えられるとは思わないけどね。アハハハハ」


 不審者パーティの男子生徒たち、拷問と聞いて顔が真っ青。いまにも何か喋りそうに、口がパクパクしてる。

 それとは違い、エドガーは肝が据わっている。


「それでも我々は冤罪と主張する。皆、抵抗せず武装も解除しろ」

「あら~。いさぎよい。もっと抵抗してボエルたちと殺し合うことを期待してたのにな~。チェッ」


 ただ、これでは面白くないとフィリップは不機嫌。ボエルたちは「そんなことさせようとしてたのか!?」とドン引きだ。

 そのフィリップの発言が悪かったのか、不審者パーティが武器を投げ捨てているのも相俟あいまって、ボエルたちの注意が散漫になってしまった。


「死ね~~~!!」

「……へ?」


 エドガーはその隙に走り出し、隠し持っていたナイフをフィリップの胸元に突き刺した。


「テメェ!!」


 その瞬間、ボエルは一気に距離を詰めてエドガーにパンチ。その一撃でエドガーの顔は陥没して、壁に打ち付けられる。


「殿下!? 死ぬな~~~!!」

「ぐっ……フハハハ。目的は達成した!! フハハハハ」


 ボエルがフィリップを抱き締めるなか、エドガーはダメージが大きくて立ち上がれないまま、自分の仕事をやりげたと笑うのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る