272 攻略法


 大嘘で傷付いたボエルは剣を抜いて決闘を申し込んでいたけど、フィリップは取り合わず。階段で座ったまま立ちもしないしエロイ言葉を連呼するので、ボエルも呆れて剣を鞘に戻した。


「ここからモンスターが複数出て来るから、何か見たら絶対にオレに知らせろよ」

「はいは~い」

「真面目に言ってるんだからな?」

「はいは~い」

「はぁ~……」


 フィリップが気のない返事をしているからボエルは心配。でも、返事はしてくれているから信用することにして、ため息を吐きながら先に進む。

 ボエルが警戒して進むなか、フィリップは手を頭の後ろで組んで口笛まじり。ボエルが何度か注意していたら、角を曲がった先に3体のゴブリンを発見した。


「それぐらいなら、ボエルは一瞬?」

「だな。オレが2匹倒すから、殿下は1匹倒すか?」

「えぇ~……怖うぃぃ~」

「ぜんぜん怖そうに見えないんだけど……」


 女子っぽいクネクネした仕草では、恐怖心は伝わらないみたいだ。


「あ、そうだ。連携の確認しとこうよ」

「連携??」

「僕が惹き付けるってヤツだよ。ボエルは後ろからやっちゃって」

「マジでやるのか? 怖いんだろ??」

「それしか能がないもん。ここは僕に任せて!」

「どうせ逃げ回るだけなのに、なにかっこつけてんだ??」

「もう! 行くよ!!」


 せっかくビシッと決めたのにボエルが生温い目で見て来るので、フィリップは苛立ちながらゴブリンの前に飛び出すのであった。



「ぎゃああぁぁ~!!」

「怖いなら行くなよ……」


 フィリップは叫びながら、ゴブリンに突撃。ボエルは呆れたように見ているが、すぐ助けに行けるように足に力を入れながら。

 ゴブリンは叫び声に気付いて臨戦態勢を取ったが、すんでのところでフィリップはカーブ。ゴブリンが追えるようにスピードを落として、ワーキャー言いながら走り回ってボエルの待つ場所まで連れて行った。


「よっと。1匹始末したぞ~?」

「ぎゃああぁぁ~~!!」


 通路から出て来たボエルは、通り過ぎたゴブリンの最後尾を剣で処理。フィリップは親指を立てていたから、この叫び声が返事らしい。

 そのままボエルの位置までゴブリンを連れて行き、もう1体が倒れたらフィリップもストップ。2対1でゴブリンはどちらに攻撃しようか悩んでいるところを、ボエルが首を切り落としたのであった。


「ビクトリ~~~!!」

「あんなに無様な戦い方で、よくかっこつけてられんな」


 フィリップがピースを高々と掲げて勝利の雄叫びをあげるなか、ボエルは黙々とドロップアイテムを拾うのであったとさ。



「なんか違うな……」


 ボエルがフィリップの下に戻ったら、フィリップは何かを考え込んでいた。


「何が違うんだ?」

「楽ができると思ったのに、めっちゃしんどい」

「そりゃあんだけ無駄に走り回っていたら、疲れるに決まってんだろ」

「作戦の変更を提案します!」

「やる気あるのはいいんだけどな~……」


 というわけで作戦変更。次はオークが2体現れたので、フィリップはボエルと一緒に突撃。


「こっちこっち~。このブタ野郎~」

「ブヒー!」


 今回は1対1で戦闘。オークの棍棒をフィリップが避けている間にボエルがもう1体を処理して、すぐに駆け付ける。


「おお~。避けるの上手いじゃないか」


 でも、ボエルはすぐに助けない。ピョンピョン跳ねて逃げ回っているフィリップを感心して見てる。


「早くっ! こいつ、口くさい!!」

「理由がそれ??」


 なのでフィリップは助けを求めたけど、理由が理由だからか、ボエルは首を捻りながらオークを斬り裂いたのであった。



「ま、これならいけるか。さっきの作戦でしばらく進んでみようぜ」

「はいは~い」


 フィリップは逃げるのだけは一流と確認が取れたので、ボエルも作戦通り進む。モンスターが5体の場合もあったが、フィリップが半分以上受け持ってくれたのでボエルも楽に倒せた模様。

 そのまま地図を見ながら順調に進んでいたら、地下3階に辿り着いてしまった。


「とうちゃ~く」

「思ったよりあっさり着いてしまった……」

「これでダンジョン実習、あとはサボっていいんだよね?」

「いいわけねぇだろ」

「えぇ~! 父上の課題は終わったじゃな~い」


 フィリップがふざけながらもボエルに付き合っていたのは、サボる免罪符が欲しかっただけ。しかしボエルとしては、もったいなく感じている。


「どうせなら、4階まで行かないか? そのほうが陛下から褒めてもらえるだろ??」

「面倒。お腹すいた。帰りたい」

「メシなら持って来てるから、もうちょっと頑張ろう。な?」

「イヤだ~。帰りた~~~い」

「なんでここに来て駄々っ子になるんだよ」


 そりゃフィリップはノルマさえこなせばあとはどうでもいいもん。


「そもそもダンジョン実習の試験は2学期になってからだ。それまでに力を付けて、確実に目標階をクリアしなきゃいけないんだ。そこで失敗したら困るだろ?」

「初回でここまで来れたんだから、どう失敗するの?」

「うっ……」

「てか、どうしてそんなに先に行かせたいの??」

「久し振りにダンジョン来たら楽しい……」

「テンション上がってるんだね……」

「あと、オレの評価が上がるかもしれねぇし……」

「先に進めば進むほど自分のためになるのね……」


 そんな理由では付き合えないと言いたいフィリップであったが、たまにはボエル孝行してやるかと重たい腰を上げるのであった。


「喰らえ! 死ね! あはははは」


 でも、それは悪手。ボエルは戦闘狂だから、笑いながらモンスターと戦い出しちゃった。


「ちょっ! こっち来てるって! 見て!? 第二皇子が囲まれてるよ!!」


 それは、フィリップを忘れるほどのバーサク状態であったとさ。

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