267 汚れたお金の使い道


「うっひゃっひゃっひゃっ。大金持ちだ~~~!」


 貴族からの縁談話を毎日何件も受け続けたフィリップは、金貨の山に飛び込み泳いだり投げてシャワーみたいにしてる。でも、金貨シャワーは痛そうだ。


「下品な顔で笑ってやがる……」


 ボエルはドン引き。ちょっとした小遣い稼ぎと聞いていたのに、ここまで大金になってしまったから怖くなっているのだ。フィリップにはこの程度端金なのに、よくこんな嬉しそうな演技ができるもんだ。


「なに~? ボエルだって稼げたでしょ?」

「そうだけどよ~。殿下と桁が何個も違うから、いまいち稼げた気分にならないんだよな~」

「取り分が足りないってか……じゃあ、これ、全部あげる」

「はあ!? いらないいらない! そんな大金、受け取れねぇよ!!」


 ボエルは焦りまくって受け取ってくれそうにないので、フィリップは真面目な顔でボエルの手を取った。


「僕、ボエルのことオモチャにして散々からかって来たからそのお詫びだよ。受け取って」

「はあ!? そんなことしてやがったのか!!」

「あと、こんなお金を受け取ったと父上とお兄様に知られたら、怒られそう。ボエルが全てやったことにしていい?」

「いいわけねぇだろ! てか、まだからかってるよな!? オレは殿下のオモチャじゃねぇぞ~~~!!」


 フィリップ、本心からの謝罪だったけど、ボエルは激オコ。久し振りに拳骨制裁されたフィリップであったとさ。



「アハハハハ。ゴメンゴメン。僕の言い方が悪かったね。アハハハハ」


 ボエルは殴ったことはやりすぎたとすぐに気付いたけど、フィリップが馬鹿笑いしているので「セーフ?」とか思ってる。


「いつも迷惑かけているから、僕からの感謝のつもりだったの。全部受け取ってほしいな~?」

「無理だ。陛下にバレたら怖すぎる。貴族から貰った金も返したい。なんでオレは、あのとき断らなかったんだ……」

「僕の命令だからでしょ~。てか、たぶん、このことはもう耳に入っているはずだよ」


 大後悔していたボエルは、皇帝の耳に入っていると聞いて真っ青な顔を向けた。


「オレ、クビか? それとも物理的に首が飛ぶのか??」

「どちらも僕がさせるワケないでしょ。怖がりすぎ」

「でもよ~。殿下のことだから……」

「信用して。それよりも問題なのは、父上から一切呼び出しがないことだよ」

「そういえば……殿下の悪い噂が立ったら陛下が呼び出さないワケがないな。前にもあったし」


 ボエルは納得した顔になったけど、フィリップは難しい顔に変わった。


「いまは手が離せないことが起こっているのかもね~……」

「もしかして、殿下が言っていた暗殺とかか??」

「可能性はあるよ。その他にも貴族が聖女ちゃんを認めないと言ったり、攻撃されてお兄様が反撃したとか、第二皇子が謀反をたくらんでいるとか……」

「前のふたつはあるだろうけど、殿下は謀反なんて考えてもいないじゃねぇか」

「考えてなくてもこんなにお金集めてたら、そう受け止められるかも??」

「あ……やべぇ!?」


 現物は床に大量に散らばっているのだから、間違いなく現行犯。ボエルもいまさら危険性に気付いた。


「ま、そろそろ寮に戻ろっか?」

「おお~い。こんなに掻き乱しておいて、それはないだろ~~~」


 だがしかし、フィリップはのほほん。自分は関係ないと、城から出て行こうとするのであったとさ。



 ボエルが「なんとかしてからにしろ!」とギャーギャー言うなか、フィリップは寮に戻る旨をしたためた手紙を皇帝に送ったら、翌日の夜に呼び出し。それも皇帝の寝室に呼び出されたから、フィリップもドキドキだ。


「派手に動いているらしいな」


 もちろん呼び出しの理由はお金の話だったのでフィリップもわかりきっていたけど、いつもと場所も時間も違うし膝の上にも乗せられていないのでビクッとしちゃった。


「まぁ……これに、僕にお金を渡した人と額が書いてあるの。謀反の疑いがある人も記しておいたよ。読んで」

「ほう……」


 これが、フィリップの本当の狙い。貴族の当主の面会予約がうっとうしかったから、わざわざ賄賂を貰い、それを証拠にして皇帝にチクろうとしていたのだ。その噂等で、メイドたちの色仕掛けとイジメを止めることも含まれているらしい。


「フッ……こいつらはフィリップにハメられたとも思ってないのだろうな」

「どうだろうね。半数は結婚の話しかしなかったから、警戒されたかも?」

「うむ。俺も気を付けておく。よくやった。たまには褒美でもやろう。何か欲しい物はあるか?」

「褒美? 褒美は~……お金貰ったから、それで充分だよ。あ、そうだ。父上のほうから、賄賂渡したヤツに釘を刺しておいてくれない? 『息子に小遣いくれてありがとう』とか」

「なるほど。そこまで考えていたのか」

「自分の身は自分で守るしかなかったんだも~ん。てか、父上とお兄様はいったい何をしてたの? 助けてくれてもよかったのに~」


 フィリップが貴族の動きを封じようとしていたと気付いて感心した皇帝。ただ、フィリップは素を見せすぎたとすぐさま話題を変えたら、皇帝はよりいっそう厳しい顔になった。


「フィリップが帝都学院に通っている間に、ルイーゼの暗殺未遂が3件もあったのだ。その後処理で俺たちは忙しかったのだ」

「そんなに……でも、メイドはそんな噂してなかったよ?」

「俺たちで内々に処理したから、知っている者は限られる。フィリップも外で口にするな」

「うん。約束する。ところでなんだけど、それって僕がやったとかってなってない?」

「俺とフレドリクはそんなことを微塵も思っていない。宰相は疑っていたがな」

「やっぱり~~~!!」


 第一皇子の婚約者を狙うなんて第二皇子も容疑者。フィリップはグウタラ生活を維持するために、誤解を解いてくれとお願いするのであった。



「あの……まだ仕事するの?」


 それからフィリップは皇帝の膝に乗せられたけど、皇帝は片手で書類を読んでいるので解放してもらいたい。


「仕事が溜まっていてな」

「そうなんだ……あまり無理しないでね?」

「うむ」

「あと、そろそろ僕は眠たいな~?」

「……」

「……」


 でも、遠回しに言ったからか……いや、皇帝はフィリップ成分を補給しようと、フィリップを無言で撫で回し続けるのであったとさ。

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