252 キャンプといえば
野外訓練に向かう前に先生から注意事項が告げられていたけど、フィリップは全てあくびをしながら聞き流したら出発の準備。
この場にいる全員が「馬に乗れるのか?」と固唾を飲んで見守っていたら、黒馬はしゃがんでフィリップが乗ったところで立ち上がった。
「何してるの? 先、行っちゃうよ? ハイよ~。シルバー」
「ヒヒ~ン」
「……ハッ!? 待って! 殿下、お待ちくださ~~~い!!」
誰もその場から動こうとしなかったので、フィリップは黒馬を歩かせて出発。黒馬が自分から人を乗せたように見えたこの場にいる全ての者は呆気に取られて固まっていたけど、焦った先生は走って追いかける。向かう方向が逆だってさ。
そのミスのおかげで、生徒は馬や馬車に乗り込んで出発したからフィリップは最後尾に。黒馬と喋りながら、近くの森に向かうのであった。
「殿下……殿下! 起きてください! もう着きましたよ!!」
馬で移動していたはずなのにフィリップが寝ているとは、これ不可解。
「う~ん……リネーア嬢……」
「どんな寝方なんですか!? 危ないから降りてください!!」
どうやらフィリップはお喋りも飽きたから、黒馬の上でうつ伏せで寝ていた模様。黒馬にはこの集団に合わせてついて行けと命令していたから、離れることなく無事に到着したのだ。
ちなみにリネーアが起こしている理由は、いちおう取り巻きってことになってるから。こんな状態で寝ているフィリップを起こしたら、黒馬から落ちる危険があるから誰もやりたがらなかったって理由もある。
「ふあ~……お座り~」
「ブルン」
「本当に喋ってるのでは?」
フィリップが目を擦りながら命令するだけで、黒馬はしゃがんだのでリネーアもボエルの話を信じそう。ただ、馬の世話をいまからしなくてはいけないので、リネーアはその場所まで眠そうなフィリップを案内する。
「水を汲まなくちゃいけないのね」
「それよりボエルさんはどうしたのですか?」
「ボエルは風邪で動けないから残して来たの。キャンプが楽しみすぎて熱出すって、子供みたいだよね~?」
「えっと……殿下はどうして無理して出て来たのでしょうか?」
「キャンプなんて楽しそうじゃない? このためにいっぱい準備したも~ん」
「ボソッ」
リネーアは「どっちも子供みたい」とか呟いたけど、フィリップには聞こえなかったのでセーフ。
「とりあえず川で水汲んで来るよ~」
「「「「「それは私が!」」」」」
フィリップがバケツを持っただけで、群がるクラスメート。点数稼ぎしたいんだろうね。
「そう? じゃあ、任せていい? これ、シルバーのごはんに混ぜてあげて。ケンカせずに、仲良くやるんだよ~?」
「「「「「はっ!」」」」」
誰がやってるかなんてフィリップは見ないのにね。フィリップはリネーアを連れて、この場をさっさと離れるのであった。
馬のお世話を終えて生徒が集合すると、先生から注意事項が告げられたが、フィリップはまた聞いてない。野外訓練の開始が告げられたら、フィリップは適当に歩き出す。
「殿下。私たちと一緒に行動しましょう。マーヤもいますから。ね?」
「う~ん……いいや。元々ソロキャンプしたかったし」
「で、でも。殿下に何かあったら……」
「じゃあ、近くにテント張るぐらいなら……あ、着替えとかはテントの中でしなよ? 僕の護衛がそこかしこにいるからね」
「は、はい!」
リネーアがここまで心配しているのだからフィリップも譲歩。ここから森の奥へ奥へとひた進む。
「2人とも大丈夫?」
「はぁはぁ……なんとか。でも、こんなに離れて大丈夫なのですか?」
「大丈夫大丈夫。獣とかいたら、護衛が処理するでしょ。もし遭難しても連れて帰ってくれるよ」
「その護衛の方が見当たらないのですが……」
「見えないだけ。いっぱい居るよ。この足音だと、50人以上いそうだね~」
フィリップの言う通り、耳を澄ませば四方八方から枯れ葉や枝を踏む音が聞こえている。この時リネーアたちは「この人、本当に第二皇子だったんだ」と思ったそうな……
それからも森の奥へと進んでいたら、リネーアの荷物を持っていたマーヤに限界が来たので、フィリップは近くの護衛を呼んで荷物持ちをさせる。フィリップの大荷物を持つ人も寄って来ていたが、シッシッと追い払ってさらに先へ。
程々に開けた場所に出たら、護衛は追い払ってフィリップとリネーアは両端に分かれてテントの設営をする。
「大丈夫? 手伝おっか??」
「いえ、殿下のほうが1人で大変でしょうから……」
「もうテント張ったから大丈夫だよ」
「え? うちより大きくないですか??」
リネーアたちが苦労してテントを張っているのに、フィリップは十分程度で終了しているので驚きを隠せない。
「あ~……うち、街に出て簡単に張れるヤツ買って来たから。店によってはそういうのもあるみたいだよ」
「そうなのですか。今度、紹介してほしいです」
「うん。帰ったら行こうよ。それより、これ打ち付けたらいいのかな?」
「あ、はい。お願いします」
これは半分ウソ。確かに簡単に張れるテントは買って来たけど、フィリップの力なら杭を打ち付けるなんて一発。でも、護衛の目があるから、何度かトンカチを振ってごまかしていた。
ある程度形になったら、テントの中で氷魔法でつっかえ棒をしたから、2人で作業するよりも楽に作業ができたのだ。
「お手伝いありがとうございました。お礼にお食事を用意させてください」
「僕もちゃんと準備して来たから大丈夫。あ、真ん中辺りにトイレ作っておいたから、好きに使って。後処理は土を掛けるだけでいいからね~」
食事の誘いは断って、フィリップは去り際に小さなテントを指差し、リネーアたちが見ている内にこの場を離れるのであった。
「あの~……殿下、火を分けていただけると有り難いのですが……」
それから小一時間、フィリップが料理をしていたらリネーアたちが寄って来た。どうしても薪に火がつかなかったみたいだ。フィリップは火石を使っているフリをして、熱魔法で強引に火をつけてたよ。
「いいよ。この炭を種火に……どうやって持って行こうか? あ、スコップでいっか」
「ありがとうございます。ところで何を作っていたのですか? ……スープ??」
「これ~? スープよりもっといい物。そろそろいいかな? こいつをぶち込んであとは煮るだけ~。よし! 炭、運んであげるね」
フィリップが焚き火をゴソゴソし出したけど、リネーアたちの返事がない。どうしたモノかと顔を上げたら、リネーアたちはヨダレを垂らしてカレーたっぷりの鍋を見ていた。
「どうしたの?」
「この匂いって、たまに廊下でしていたので気になっていまして……」
「あ~……食べる? 2人前はあるから、半分ずつならいいよ」
「「はいっ!」」
匂いに負けたリネーアたちは、自分たちの料理そっちのけでフィリップの作る物を見続ける。そうして完成したカレーは、フィリップの手によって配られた。
「「ん! 美味しい!!」」
そのフィリップより先に食べてしまったリネーアたちは、目を輝かせてガッツク。
「んじゃ、僕も……うん! うまっ。キャンプカレー、さいこ~う!!」
今回はフィリップも大満足。自分で作ってシチュエーションもいいのなら、マズイわけがない。ただ単に「キャンプといえばカレーだろう」ってだけで、帝国にはない料理を作り出したフィリップであった……
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