249 リネーアの会いたい人


 寮に戻ったその日。フィリップの部屋にリネーアとマーヤが尋ねて来たので、フィリップみずから扉を開けて出迎えた。


「ボエルさんどうしたのですか? 真っ白になってますよ??」


 リネーアはフィリップが出迎えたことも不思議に思っていたが、リビングのソファーで燃え尽きたボクサーみたいに項垂うなだれているボエルのほうが気になってる。


「ちょ~っと、彼女とのことからかいすぎて……そっとしておいてあげて」

「あぁ~……ニャンニャン仰っていたことを聞いてしまいましたか……」

「ゲフッ……」

「トドメ刺さないで!? ボエル、チリになるな~~~!!」


 ボエルは嬉しすぎてリネーアにもこのことを喋っていたっぽい。なのでつい口から出てしまい、ボエルはチリとなって風に飛ばされて行くのであった……



 そんなことは起こっていないけど、ボエルはしばらく立ち直れそうにないので、皆で寝室に運んで隔離。フィリップたちはリビングで話をする。


「リネーア嬢たちもボエルのこと知ってたんだね」

「はい。嬉しそうに語っていましたので、止められませんでした」

「なんでそのとき教えてくれないかな~?」

「こうなるのではないかと思いまして……」

「グッジョブッ!」


 フィリップならからかいまくると容易に予想できたから、リネーアたちは黙っていた模様。それは自分も思っていたし、なんならやっちゃったのだから、フィリップも褒めるしかない。


「それにしても早い戻りだね。まだ夏休みは1週間もあるよ?」

「それは一目でもコニー先輩に会えたらと思いまして」

「コニーって、だ……あっ! モブ君!?」

「また忘れていたのですね……」


 今回はギリギリ思い出せたけど、その思い出し方では忘れていたとリネーアにもバレるよ。


「覚えてる覚えてる。お城で会ったもん」

「そうなのですか?」

「モブ君のせいで酷い目にあったも~ん。こんなことがあって~……」

「それはコニー先輩のせいではないのでは……」


 フィリップがカイ・リンドホルムに殺されかけたことを説明しても、リネーアには信じてもらえず。おちょくるために決闘を言い出したことも説明したら、ダメに決まってる。


「あ、家のほうはどうだったの? 結婚の許可は取れた??」

「それが……殿下の口添えがあっても、爵位がないのではと渋られまして……」

「なんで~? 僕、第二皇子なのに~」

「その第二皇子が信用ならないと……申し訳ありません!」

「あ、そか。僕ってすこぶる評判悪いもんね。ゴメンゴメン。アハハハハ」


 親にまで馬鹿にされていると言ってもフィリップは馬鹿笑いしているので、立ってまで頭を下げたリネーアは「謝って損した」と思いながらペタンと腰を下ろした。


「ま、その点は解決できそうだよ」

「と、言いますと?」

「さっき決闘したって言ったでしょ? その見届け人にカイがいたから、モブ君の実力をキッチリ評価してお兄様に推薦してくれたの。お兄様も近衛騎士に欲しそうにしていたから、意外と早くに騎士爵は貰えそうだよ」

「本当ですか!?」


 フィリップの言葉に、リネーアは大喜び。マーヤと一緒にキャッキャッと騒いでいたら、寝室からボエルが出て来た。


「あ、リネーア……久し振りだな。てか、何かあったのか??」

「実はフレドリク殿下が……」


 先程の話をリネーアが嬉々として喋っていたら、ボエルは必要ないことを言う。


「それ、殿下のおかげだぞ。元々殿下はフレドリク殿下にコニーを推薦しようとしていたから、決闘とか言い出したんだ」

「そ、そうなのですか?」

「なんのことかな~? 僕はおちょくってただけだし~」

「いや、フレドリク殿下にはそう説明していたじゃないか」

「全部言わないでくれない? カッコつかないでしょ??」

「あ……ゴメン」


 フィリップがマジトーンで説教するので、ボエルも素直に謝罪。それでも「空気を読め」と説教していたら、リネーアが再び立ち上がってお辞儀をする。


「何から何までありがとうございます!」

「そういうのいいから。されたくないから秘密にしてたんだから、リネーア嬢も気持ちを汲んでほしいな~?」

「あ、そ、そうですね。申し訳ありません」


 こちらもマジ説教のトーンだったので、リネーアは申し訳なさそうに座った。


「それより全員に言えることなんだけど、モブ君には近衛騎士に内定してること秘密にするんだよ? いまは愛の力で頑張ってるんだから、知ってしまったらやる気が下がる可能性があるんだからね」

「「「はい!」」」


 フィリップが珍しくまともなことを言ったので、全員いい返事。


「あと、僕たちの関係も……やる気、急降下だ」

「「「も、もちろん……」」」


 でも、まともじゃないことも言われたので、リネーアたちはモジモジした返事になるのであったとさ。



 この日は再会を祝して、取っ換え引っ換えのマッサージ。ボエルは途中で抜けて、彼女の下へ。まるでフィリップみたいな悪い男になりつつある。

 リネーアは翌日からコニーに会いに城の訓練場に顔を出そうとしていたらしいが、そこまで入り込むには各種許可証が必要なので時間が掛かる。その話を聞いたボエルが「控えおろう」とフィリップの顔を見せて強行突破したんだとか。


 フィリップは「ここ、どこ?」とかキョロキョロしながら言ってたから、寝てるところを拉致されたっぽい。その日のフィリップは外出した記憶がなかったので、全員で嘘をついたんだってさ。


 2学期が始まる1日前に、フィリップから「モブ君に会わなくていいの? 会わせてあげるよ」との提案があったので、全員下を向いていた。嘘をついたこともあるが、「なんで記憶にないんだよ」と笑いをこらえるのが大変そう。

 今回はフィリップも昼型になっていたから、練習を兼ねて黒馬に乗ってお城へ。リネーアたちはボエル以外馬車だ。


 リネーアたちがコニーの訓練を見たりお喋りしている間は、フィリップはボエルの膝枕で爆睡。邪魔しないようにしてるらしい……

 帰りも眠たいのか、フィリップは黒馬の上でウトウトしているので、馬車にいるリネーアがボエルを呼んで併走する。


「殿下、あんな体勢ですけど大丈夫なんですか?」


 フィリップはウトウトを通り越して、黒馬の上で仰向けになっているから心配なのだ。


「わからねぇ……殿下、乗馬だけは異常に上手いんだ」

「アレは上手い下手に入らないような……」

「もうな。殿下のこと考えると頭痛くなるんだ。城でも酷かったし、挙げ句の果てには馬と喋ってるんだぞ? なんなんだろうな~。殿下って」

「心中お察しします……」


 ボエル、お手上げ。フィリップと会う時間が少ないリネーアでも、様々な顔やおかしな行動を目の当たりにしているからか、長く一緒にいるボエルを哀れんでしまうのであった。

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