184 死者の旅立ち
フレドリクの取り調べをフィリップが軽く乗り切った2日後、帝都学院の授業は再開した。
フィリップはその前から休んでいたので足を運んでいるが、従者はなし。リネーアから目を離せないから、念の為ボエルも残して来たらしい。
フィリップがそうまでして出て来ている理由は情報収集。帝都学院ではニコライの噂で持ち切りなので、寝たフリして聞き耳を立てている。
その内容は、ニコライの死因や犯人などが多いが、全て大外し。その中にはニコライの死を悲しむ声がひとつもなかったので、フィリップは「嫌われてたんだ」とか「貴族の子供、こえ~」とか思っていた。
お昼休みになるとフィリップは1人で食堂に向かい、執事やメイドが並ぶ列に並んでいたら、全員どいた。第二皇子より先に料理を受け取れないもん。
フィリップも何度かやっていることなので「ゴメンね~」とか言いながら先頭に躍り出て、さっさと料理を受け取ったら一番近くの席にて食事を終える。
すると、食器の後片付けは「私がやります!」と群がる執事やメイド。主人からやれと命令されているらしい。第二皇子だもん。
フィリップは「ジャンケンで決めてね~」と席を立ち、出口に向かっていたら目的の人物が座っていたからニヤニヤしながら近付いて行った。
「やけにコソコソしてんじゃん。あ、ニコライが死んだから後ろ盾がいないのか。プププ」
目的の人物とは、ニコライの取り巻きの2人。フィリップに声を掛けられたのだから、慌てて起立した。
「ところでなんだけど……お前たちって、怖くないの?」
「怖いとはどういうことでしょうか?」
「ほら? ニコライと一緒に悪事を働いてたじゃん。主犯が殺されたということは、次は共犯でしょ? よく堂々と学校に来れるな~っと思って」
「「え……」」
「僕なら自主退学するけどな~……ま、殺されないように気を付けな。どこに殺人犯がいるかわからないんだからね」
「「は、はい……」」
わざわざ1人で学校に来ていたのは、これが言いたかったから。性暴力を働いた人物でも、さすがに主犯でもない子供ではフィリップも殺すことを
これだけでも2人は帝都学院を出て行くと思うが、フィリップは2人をしゃがませると肩を組んで小声で喋る。
「それとだけど、お前たちの名前は一生忘れない。女性に同じことをしてる噂がひとつでも僕の耳に入ったら、今度は僕がお前たちの家ごと潰す。この言葉、ゆめゆめ忘れるなよ」
「「ははは、はひっ!!」」
こうして共犯の2人は、この日から帝都学院には出席せずに、しばらくして自主退学して実家に引きこもるのであった……
それから数日後、ニコライの遺体を父親が引き取りに来て、領地に旅立つこじんまりした式典が行われる。
出席者は帝都学院に関わる大人全員と同じクラスの者。あとは関わりがあった生徒。同じクラスでも欠席者が目立つので、フィリップは「やっぱ嫌われてたんだ」と思っている。
さらには、皇帝とフレドリク。帝都学院始まって以来の不祥事だから揃って出席し、弔辞なんかも読んでいた。
フィリップも皇族席に座っていたけど、弔辞は読まず。リネーアを守っている手前、弔いの言葉を掛けたくないと軽くゴネたらフレドリクが味方になってくれたので、辞退は受け入れられたのだ。
そのフィリップは、ずっとニヤニヤして2人の出席者を見ている。ニコライの父と兄だ。2人して涙ながらにニコライの遺体と対面しているから、笑いを
葬儀じたいは盛大にやるのは領地に帰ってからなので、1時間目が終わる前には式典は終了。ニコライたちを乗せた馬車が走り出して離れると、出席者は各々、本来自分がいる場所に向かう。
フィリップも教室に向かうと見せ掛けて寮に帰ろうとしていたけど、皇帝に捕まって膝の上に乗せられている。
「フレドリクからは事の顛末は聞いているが、今回の件、本当に関わりがないんだな?」
皇帝はフィリップの口からは何も聞いてないから呼び止めたみたいだ。
「死因に関してはね。それ以外は関係してるし、めちゃくちゃ怒ってる」
「フィリップがそこまで言うのは珍しいな」
「だって、子供が子供に拷問してたんだよ? 誰かが教えたとしか思えないよ。それも近しい人物が……」
「なるほど……調べてみる。フィリップは何もするな」
「被害者のために何かしてあげたいけど、何もできないんだよね~……お兄様や父上が羨ましい」
「フッ……お前はその気持ちだけでいい。ここからは俺の仕事だ」
皇帝は少し顔を緩めてフィリップの頭を撫でると立ち上がり、力強い足取りで城に帰って行ったのであった。
「さてと……お父さんには悪いけど、僕は僕のやりたいようにやらせてもらうよ」
その夜、フィリップは捨ててもいい服に着替えて真っ黒なマントを羽織り、自室のバルコニーから飛び下りたのであった……
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