八章 夜遊びの自主規制

170 主役の裏


 フレドリクパーティがダンジョンを完全制覇したその日は時間も時間なので、生徒たちだけで祝勝会を行い、翌日にはその噂は帝都中を駆け巡った。

 もちろん皇帝にはその日の内に学校の者が伝えに走っていたので、今日はフレドリクパーティは城に呼び出されていた。


「なんで僕まで……」

「皇族で弟だからだよ!」


 フィリップも……


 パーティーは昼からだというのに、行くことを渋って文句まで言っているので、馬車の中でボエルに怒られている。フィリップはめちゃくちゃ見たいのに馬鹿皇子を演じないといけないから大変だ。


「ところで、久し振りにメイド服見たね~」

「オレも従者として殿下のそばにいないといけないからな。あの服だと殿下に迷惑かかるから、城ではメイド服を着るって決めてたんだ」

「別にいいのにな~……ま、パンツは見やすいか」

「スカート捲るな!」

「えぇ~。久し振りなんだからいいじゃな~い。入れてよ~」

「入るなよ!!」


 フィリップのセクハラ復活。ここ最近はお風呂とベッドの上でしかそんなことをして来なかったので、ボエルは執事服で来ればよかったと後悔したのであった。



 イチャイチャしてる2人を乗せた馬車が城に到着すると、多くの馬車が並んでいたが、フィリップたちは脇を抜けて入口へ。

 そこで待っていた案内係のメイドにフィリップがチョッカイ掛けてボエルが手を叩き落として進んでいたら、外にある祭事用の広場を一望できるバルコニーに連れて来られた。


「見ろよ! アレがドラゴンだ!!」

「うん。背中、バシバシ叩かないでくれない?」


 場所がここなのは、ドラゴンの生首が入らなかったというかにおいが気になるから。パーティーの出席者である貴族や、親の代わりに出席している帝都学院の生徒たちは、生首を囲んでワイワイと騒いでいる。

 ボエルもそっち派なので、興奮してうるさい。いまにもバルコニーから飛び下りそうなぐらい前に出て見入っている。


「子供っぽいよね~?」

「はあ……お尻触らないでくれません? それとも、彼女をクビにして専属メイドにしてくれるのですか? そして行く行くは、皇弟殿下の妃に……」

「ゴメン。僕、子供だからまだ結婚とか考えられない」


 城で働くメイドにセクハラは命取り。ボエルに子供っぽいとか言ってたクセに、自分も子供を使ってボエルの下へ逃げてドラゴンを見るフィリップであった。



 しばしご歓談の時間が過ぎると皇帝が入場。バルコニーの一番前まで出ると、近衛騎士長が大声で知らせ、出席者は一斉にこちらを向いてひざまずいた。


「皆の者、もう耳に入っているだろうが、フレドリクが誰も成し遂げられなかったダンジョン制覇をやり遂げた。いや、さらに新たな階層を見付けて、そのドラゴンの首を持ち帰ったのだ!」


 皇帝は最初はおだやかな口調であったが、ボルテージが上がって拳を力強く振り上げた。


「そのドラゴンを倒したのは、我が息子フレドリク! そして、仲間たちだ!!」


 皇帝が右手を開くとファンファーレが鳴り響き、後ろの扉がバーンッと開いた。そこからフレドリクとルイーゼを先頭にパーティメンバーが次々と姿を現すと、観客の声が弾けた。


「うっせぇ……」

「いや、殿下も拍手ぐらいしろよ」


 その光景をフィリップは端っこの席で見ていたけど、ボエルに愚痴を拾われて怒られてる。


「てかさぁ~……なんで聖女ちゃんがお兄様と腕組んで手を振ってんの? おかしくない??」

「それは~……アレじゃないか? 新しいアーティファクトを見付けたし、装備できるの聖女様しかいないからだろ」

「いやいやいやいや。百歩譲って功績は認めるよ。でも、お兄様、婚約者いるんだよ? アレじゃあ自分が婚約者と言ってるようなモノだよ?」

「あ……本当だな……なんでオレは変に感じなかったんだ……」


 フィリップが何度もおかしな点を指摘すると、ボエルも考え出した。ちなみにフィリップがこんなことをしているのは、ちょっとした確認。

 乙女ゲームでもツッコミどころ満載だったから、現地人がどう思うか聞きたかっただけ。そのせいでボエルが混乱してしまったので話を変えてあげる。


「荷物持ちも表彰されてるね~。またハミ子にされるかと思っていたけど、よかったよかった」

「あ、ああ……殿下はやけにアイツの肩を持ってるように見えるけど、なんでなんだ?」

「単純にかわいそうだからだよ。祝勝会でも1人で寂しそうにしてたでしょ?」

「確かにそうだけど……ボッチだから感情移入してるのか……」

「いま、酷いこと言ったよね?」


 ボエルはフィリップの悪口を言ったけど、誰かと喋っているところを見たことがないので、ちょっとウルッと来てる。


「フレドリク殿下とこんなに離されたら、ますます肩身が狭い思いをしそうだな……」

「なんでボエルが泣きそうになってるの?」

「オレは殿下の味方だからな! 死ぬなよ!?」

「いや、死なないよ。ちょ、泣かないでくれない? そんなに僕がかわいそうに見えるの? 毎日楽しく生きてるよ??」


 フレドリクの功績が大きすぎて差が開きっぱなしなので、ボエルは体を許しているからかフィリップに感情移入して泣いてしまうのであった。



 フィリップたちがどうでもいいことを喋っているなか、フレドリクが立派なことを言って万雷の拍手が鳴り響くと、パーティーは立食パーティーに様変わり。

 フレドリクパーティは全員で1階の広場に移動して挨拶回りに向かった。フィリップは皇帝に捕まって膝の上で撫で回されている。


「大丈夫か?」

「なんのこと?」

「またフレドリクと差が開いたから、よからぬことを考えていないだろうな?」

「えっと……それってどっちの心配? 嫉妬してるからお兄様を手に掛けるか、嫉妬にかられてヤケになって自殺するか……」

「……後者だ」

「なんでみんなそんな心配するの~~~」


 父親にも哀れに思われていたので、初めてフィリップもちょびっとは死にたくなってしまうのであったとさ。

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