166 リッチキング


 壁に小さな穴を開けて無理矢理ボス部屋に入ったフィリップは、フレドリクパーティの戦闘に目を奪われそうになったが、辺りをキョロキョロ確認して、荷物持ちのモブ生徒に見付からないように物陰に隠れた。


「リッチキング、生で見るとなかなかの迫力だね。なんか生臭いけど、リッチキングのせいか?」


 地下10階にいるボスは、デカいスケルトンが法衣を着ているリッチキング。骨しかないのに変なにおいがするので、フィリップも不思議がっている。


「おっ。眷族召喚だ。これのせいか……くさっ」


 フレドリクパーティがリッチキングにダメージを与えていたら、武器防具を装備したスケルトンやゾンビが床から20体ほど現れて襲い掛かった。

 フィリップはボス部屋に入るのに手こずっていたので、今回が二度目の召喚だからにおいが残っていたようだ。


「おお~。さすがは聖女ちゃん。ザコなんて寄せ付けない。てか、チートすぎる気が……」


 群がるアンデッド兵は、ルイーゼが張った結界に突撃して昇天。リッチキングが召喚した意味をなさないので、フィリップ的には調整してほしいらしい。

 それでもリッチキングはボスキャラと言うこともありHPは多いので、フレドリクパーティが総攻撃をしても時間が掛かる。フィリップは自分だったらと考えながら、激しい戦闘を見続けるのであった。



「おお~。最後は聖女ちゃんが決めたか~。お疲れ~」


 ルイーゼの聖魔法によってリッチキングが天に召されると、フィリップは音が鳴らない程度に拍手で労い。フレドリクパーティも抱き合って喜んでいるけど、モブ生徒は蚊帳の外だ。


「さて……ここからが見物だぞ~」


 リッチキングが立っていた場所の後ろには、神聖な気配が漂う杖が床に刺さっており、フレドリクパーティは「なんだアレ?」とか言いながら近付いた。

 そしてフレドリクが引き抜こうとしたけど、何故か動かず。残りの男共が「そんなことないやろ~」ってノリで順番に試したけど、やっぱり抜けない。


「私にもやらせて」

「無理するんじゃないぞ?」

「わかってるよ~」


 とかルイーゼとフレドリクのやり取りがあった後、ルイーゼが踏ん張って全身全霊の力を込めて杖を引くと、一切抵抗なく抜けた。

 それほど力を込めていたのだから、杖は手からすっぽ抜けて後ろの壁に激突。ルイーゼも後ろに倒れて尻餅を突いた。


「いった~い」

「「「「大丈夫か!?」」」」


 フレドリクパーティのアイドルが倒れたのだから男共は心配して駆け寄ったけど、フィリップは笑いをこらえながら指差してる。


「プププ。後ろ後ろ。聖女ちゃんより壁を見なよ」


 そう。ルイーゼが引っこ抜いた杖は、壁にあった隠し通路のスイッチになる穴に綺麗に嵌まったから、壁が横にスライドして通路が現れたのだ。


「やっと気付いた。聖女ちゃんなんて、自分の怪我は一瞬で治せるのに心配しすぎ」


 数分ほど男共はワーキャーやってから隠し通路に入って行ったので、フィリップは「いい加減にしろよ」と呟きながら見送るのであった。



「もういいかな?」


 隠し通路の先は長い階段になっていると知っているフィリップは、少し間を置いてから歩き出したが、問題発生。


「おお~い。リポップ早すぎ~。いや、兄貴たちが行くの遅かったからだな」


 リッチキングが復活したのだ。


「装備は……ま、この程度なら楽勝でしょ」


 フィリップのいまの装備は顔をフードで隠したストーキング仕様なので紙装甲だが、そもそもレベル99なのだから防御力は高い。アイテムボックスからファフニールソードだけ引き抜いて装備した。


「さあ……僕と兄貴たち、どっちが早いかな~? 行くぞ~~~!!」


 こうしてフィリップは、リッチキングに突撃するのであった。



「弱っ!? 早っ!?」


 フィリップがリッチキングを倒すのに掛かった時間は、物の5分。フレドリクパーティのおよそ8分の1ぐらいしか掛かっていない。

 ちなみに倒し方は、遠距離からファフニールソードの斬撃と衝撃波を放ちまくり、眷族召喚は氷のつぶてを四方八方に飛ばして一蹴。

 接近戦に持ち込むと、回りながらリッチキングを切り刻みまくっていたので、リッチキングの攻撃魔法は明後日の方向にしか飛ばなかったからノーダメージ。そのままHPを削り切って終了となっていた。


「おっ。2回目以降は宝箱か~。うん。弱そうな杖が出ちゃったよ」


 カールスタード学院のダンジョンの半分しかないここでは、フィリップが喜ぶようなアイテムは出ないのであったとさ。



 杖を拾ったフィリップも下の階に移動しようと思ったけど、隠し通路は消えていたので、スイッチである穴を探してみたけど見付からず。


「はあ~? どこにあるの? え? この穴? こんなのどうやって投げただけで入るの??」


 ようやく見付けた穴は、フィリップがいま持っている杖の柄の直径とほぼ同じ大きさ。そこに柄を入れたら隠し通路が現れたので、フィリップはブーブー言いながら階段を下りるのであった。


「いたいた。帰ってなくてよかった~」


 いきなり新たなフロアを発見したのだから、フレドリクパーティなら撤退もあったので、フィリップはホッと胸を撫で下ろして戦闘を見ている。


「残り時間は……けっこうあるから、このままクリアしてくれないかな~。また3日も付け回すのは面倒なんだよね~。夏休みは残り僅かだから、行けるかな~」


 懐中時計を開くと、まだまだ午前中。祈りながら付け回していたら、偶然かどうかわからないが、正午前には地下へ進む階段を発見したフレドリクパーティ。祈る必要もなくそのまま下りて行った。


「ランチ中……そういえばここ最近、ランチはパンばっかりだな~。せめてクリームパンとかアンパンがあればな~」


 フレドリクパーティが楽しそうに美味しそうな物を食べているので、フィリップはグチグチ無い物ねだり。

 1人だから寂しいみたいだけど、1人だけ仲間外れにされているモブ生徒よりはマシかと思いながら、フレドリクパーティの和気あいあいなランチ風景を見ている。


「地下12階は確か、上の階より狭いから、このままいけばラスボスまで戦えるかも……頼むぞ~」


 フィリップが祈るように付け回していたら、フレドリクパーティは幾度かの戦闘を繰り返して進み、その祈りは通じた。


「やった! また死亡フラグになりそうなこと言ってる。これなら挑戦するみたいだな……」


 フレドリクパーティがボス部屋の前で、また仲間内で感謝の言葉を言ったり、ルイーゼが「それ、朝にもやったよ~」とかワッキャウフフなところを見ていたフィリップだが、最後に聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「いざとなったら、帰還アイテムを使うだと~? 僕なんて、ファフニールと何時間戦ったと思ってるんだよ。楽するな!」


 ここは乙女ゲームの世界。そういう仕様だしフィリップも使ったことあるのに、ファフニールから逃げられなかったので、八つ当たりするフィリップであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る