098 たまには皇子のお仕事


 カールスタード学院の冬休みが近付くと、遠方の国から来ている生徒は帰ろうか残ろうか悩んでコソコソやっている。クーデターが終わっても学校の中は平和だから、クリスティーネなら安全に逃がしてくれると考えているようだ。

 でも、フィリップが帰らないみたいだし脅されているので、泣く泣く残る決断をしていた。中には、親からの手紙で「第二皇子と縁を繋ぐまで帰って来るな」と言われた生徒もいるそうだ。


 近隣諸国から来ている生徒は、クーデターを知らずにやって来た者もいるので「本当にそんなことあったの?」と最初はビビっていた。

 もちろん耳の早い国は出国を止めていたのだが、フィリップが残って手紙まで送って来たので、子供には「大丈夫だから行って来い」と送り出した親もいたんだとか……

 いざ入国すると平和その物だから「本当にそんなことあったの?」と、冬休みは普通に帰るそうだ。


 冬休みに入ると近隣諸国の生徒は半分ほど帰り、その他はフィリップとお近付きになろうとしていたが、自室から出て来ない。

 なのでラーシュが大人気。食堂ではいつも囲まれて、ラーシュは友達が大勢増えたみたいだ。中にはフィリップ目的もいるけど、そういう目には慣れているから、信頼できる者としか深い話はしないようにしているらしい。


 そこに、久し振りにフィリップが登場。生徒を押し退けて、ラーシュがいる豪華な特別席に座った。ちなみにラーシュが立って挨拶もしないのは、フィリップにいらないと何度も言われたからで、不敬ってわけではない。


「相変わらず凄い人気だね~」

「殿下が食堂で食べないからですよ。たまにはこっちで食べて、友達とお話してはどうですか?」

「ト・モ・ダ・チ……」

「すいません。失言でした……」


 フィリップが目を点にして片言になっているので、ラーシュは目をこすりながら謝罪した。友達の1人もいない悲しい人なんだもの。


「僕にだって友達いるんだからね!」


 なのでフィリップも逆ギレだ。


「これから女王様とランチするんだもん!」

「それは職務なのでは……いやいや、また会いに行くのですか!?」

「友達だも~ん。オッパイ大きいんだも~ん」

「えっと……何しに行くのですか? まさか、触りにじゃないですよね??」

「今日こそ揉んでみせる! ラーシュは安心して待っていたまえ!!」

「他国の君主にそんなことしちゃダメですって~~~!!」


 フィリップが自信満々にセクハラ発言して去って行くので、ラーシュは常識的なことを大声で叫ぶ。そのやり取りを聞き耳立てていた生徒たちは、フィリップとお近付きになって本当にいいのかと悩み出したのであったとさ。



 それから馬車の中でダグマーからクドクドと説教を受けたフィリップは、予定通りクリスティーネとランチ。

 昨夜はクリスティーネから台本通りやってくれと泣きながらお願いされたので、ちゃんとアホっぽい演技も書き加えてその通りやっている。


 内容は、カールスタード王国の内情。貴族をどれだけ罰しただとか、税金を2年間免除にしただとか、中町や外町の過去と現在と未来の経済関連と様々だ。

 もちろんフィリップは馬鹿皇子の演技中なので、クリスティーネから発信することが多い。そしてダグマーが質問するという流れに持って行っている。

 これはダグマーに対するサービス。皇帝が知りたそうだから、ダグマーを使っていい報告をさせようとしているのだ。


「えっと……触ります??」

「いいの? それじゃあお言葉に甘えて」

「殿下! いいわけないでしょ!!」

 

 ただし、フィリップはつまらなそうにクリスティーネの胸ばかりをずっと見ていたから、クリスティーネも馬鹿皇子設定をアシストしたほうがいいのかと譲歩しちゃった。でも、フィリップはダグマーに頭をスパーンと叩かれているよ。


「いったいな~。向こうから触っていいって言うんだから、いいでしょ~?」

「立場を考えてください。相手は君主ですよ?」

「えぇ~。みんなに触って来るって宣言したんだから、やらないとナメられるじゃ~ん」

「そんな宣言して来たのですか!?」


 アドリブをしたのはクリスティーネでも、フィリップが先手を打っていたから驚きを隠せないみたいだ。フィリップもエロイ手をして立ち上がっているし……


「ちょっとだけ。ちょっとだけだから。ちょっと重さを確認するだけたから。ね?」

「ですから!」

「ダグマー。構いませんよ。子供のやることですから」

「子供でも! なんでもありません……出過ぎたマネをいたしました」


 女王であるクリスティーネがここまで言っているのだから、従者が口を挟めない。子供でもフィリップは最低な男と伝えたかったらしいけど……


「うわ~。おもたっ。肩凝りとか大丈夫?」

「大丈夫です。でも、ここ最近は酷いので、そこを揉むより肩を揉んでほしいですね」

「やらかっ。こんなのずっと揉んでられるよ~」

「ですから、肩をですね……ダグマー。よろしくお願いします」

「はっ!」


 当然、フィリップは持つだけでなく揉みまくるので、クリスティーネはダグマーに命じて羽交い締めで引き剥がしてもらうのであった……



「フッフッフッ……諸君! 女王の巨乳を、我の両手で揉みほぐしてやったぞ! わ~っはっはっはっ」

「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」


 ランチ会談から帰ったフィリップは、ダグマーに怒られたのに、食堂で大々的に報告。男子は盛り上がってるけど、女子はスーンッと冷めてる。


「ダグマー。殿下はあんなこと言ってるけど……」

「事実です。女王陛下からの申し出でしたので止められませんでした……」

「あんの、馬鹿皇子~~~!!」


 それとラーシュは激怒したのであったとさ。

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