077 奇襲
クリスティーネが演説を終えて地下道に飛び込んだ頃にはフィリップはすでに下りており、通路にランタンを設置していた。
「あ、もう来たんだ」
「次々来ますよ? そんなことしてたら詰まっちゃいますよ~」
「じゃあ、ちょっと飛ばそう。乗って乗って。んで、魔法で照らして」
「は~い」
クリスティーネがおぶさると、フィリップはダッシュして適当な間隔の場所で、足下にランタンを設置して火を入れる。暗すぎるので、安全のために設置しているみたいだ。
後ろから続く兵士は、大きく間隔を開けて進んでいる。こけたら止めようがないからゆっくりと慎重に進むように言ってあるので、フィリップの足ならばかなり開いて来た。
そうして地下迷宮に到着すると、ここにもランタンを置いて道に迷わないようにする。ついでに大きめの目印も足して進み、2人は早くも城の地下に辿り着いた。
「ちょっと待ってて。地下牢を制圧して来る」
「は~い」
フィリップに掛かれば、制圧なんてあっという間。数人いた敵兵は瞬く間に倒し、喋れないように拘束して牢屋にぶち込んだ。
「もういいよ~」
隠し通路からクリスティーネが地下牢に出ると、少し気になることがあるので聞いてみる。
「前にハタチさんって、城に忍び込んでいると言ってましたよね?」
「うん。それがどうしたの?」
「いつもどこから忍び込んでいたのかと思いまして……こんなに牢屋に人がいたら、すぐに見付かるじゃないですか?」
「あ~……いつも寝てたと思う」
「また噓つく~。さっきも隠し通路の扉を開ける時、手間取ってたじゃないですか~。絶対に初めてですよ~」
フィリップは秘密主義者。都合の悪いことは、話を逸らしてやり過ごすのであっ……
「え……牢屋に油撒いてるんですか?」
「囚人に騒がれたら邪魔だもん」
「よくそんな酷いことできますね……」
恐ろしいことを軽くやってのけるフィリップに、少し引いてしまうクリスティーネであったとさ。
続々と地下から現れる兵士の点呼をクリスティーネが取って整列させていると、フィリップはロウソクを持って囚人と雑談。
「アハハハ。第三王子まで地下牢に入ってるよ。かわいそうに。プププ」
「いま、話し掛けないでください」
「あ、ゴメン。面白かったから」
面倒な仕事をやっているクリスティーネに話し掛けたら怒られたので、フィリップも平謝り。この人数を数えることを
そんなことに興味のないフィリップは、第三王子に事の真相を教えてキレさせ、ロウソクの火をわざと落としてキャッチしたりして遊んでいたら、ついに兵士は全員揃って地下牢はギュウギュウだ。
「これより各班に分けれて、1階2階を制圧します。兵士に情けは必要ありませんが、非戦闘員に危害は許しません。ただし、自分の命、仲間の命に関わる場合は許可します。いいですね?」
「「「「「はっ」」」」」
「では、静かに進め~~~」
「「「「「ぉぉぉぉぉぉ~」」」」」
ここで大声を出してしまっては、奇襲が無駄になる。クリスティーネ兵は小声で返事をして、階段を上がって行くのであった。
「それじゃあ、僕たちも行こっか」
「「はい!」」
牢屋の見張りを残したら、フィリップはクリスティーネとロビンと10人の兵士を連れて階段を上がる。
「おっ。やってるやってる」
少ない灯りしかない1階に到着すると、クリスティーネ兵は敵兵と戦闘中。いまのところ気付いた者は少ないみたいなので、敵兵は大勢に囲まれて降参ポーズを取っている。
そんな中、フィリップを先頭に2階に到着。ここでは敵兵が反撃しているが、敵兵は常に2対1、3対1で戦うことになるので苦戦中だ。
「よっと。頑張ってね~?」
「いま、何を投げたのですか?」
「石、石。クリティカルヒットしたよ」
「本当に石なのかな~??」
フィリップの投げた物は、本当は氷。味方の援護をしながら進んでいるけど、クリスティーネは疑ってフィリップの行動を凝視している。
「さあ、3階に上がるよ。準備はいい?」
「「はい!」」
「「「「「はっ!」」」」」
ここからはクリスティーネ兵が踏み入れていないので、フィリップたちは慎重に。一番上の段まで上がると、フィリップは壁に隠れてチラッと薄暗い廊下を見た。
「さすがに起きてるか。20人ぐらい居るや」
「どうします? 私たちが斬り込みますか??」
ロビンが立候補してくれたが、フィリップは首を横に振った。
「ここはクリちゃんの出番。あの辺りに、強い光を出してくれる?」
「はあ……」
「全員、僕がいいと言うまで目をつぶって。んじゃ、クリちゃんよろしく~」
「はい! ライト!!」
クリスティーネが指定の位置に2秒ほど光の玉を出すと……
「「「「「ぎゃああぁぁ~~~!!」」」」」
敵兵は目が眩んで悲鳴をあげた。
「よし! ゴーゴーゴーゴー!!」
「「「「「うお~~~!!」」」」」
と、ロビンたちは気合いを入れて突っ込んで行ったけど、敵兵は目を押さえてのたうち回っているだけなので、簡単に制圧。全員、足と手を切られて無力化されていた。
「さってと……王様はどこにいるのかな~? 吐かないと死んじゃうよ~?」
「ぐううぅぅ」
どうやらまだ生かしている理由は、カールスタード王の居場所を聞き出すため。フィリップは敵兵の傷口に剣を刺してグリグリしている。
「吐かないか。仕方ない。クリちゃん、治してあげて」
「え? はい……」
フィリップがニッコリ微笑んで言うので、何か策があるのかとクリスティーネは聖魔法で治療。あっという間に治ったことに驚く敵兵に、フィリップは先程と同じ場所に剣を突き刺した。
「ぎゃっ!?」
「おお~。これ、拷問に凄くいいね。何度でもできる。無限拷問と名付けよう! 喋らないなら、いつまでも楽しませてもらうよ~? アハハハハ」
フィリップが笑いながら剣でグリグリすると、敵兵は完落ち。クリスティーネたちはドン引き。しかし、カールスタード王の居場所は手に入ったので、フィリップは全員気絶させて先々進むのであった。
「あんな恐ろしい拷問、よく思い付きますね。そういう趣味があるのですか?」
「効率的に脅しただけだよ~」
フィリップのことがちょっと怖くなったクリスティーネがぺちゃくちゃと質問しながら進んでいたら、3階にある玉座の間に到着。喋りながらだったので、フィリップは皆の確認を忘れて立派な扉を開けて入ってしまった。
「だからね。僕は攻めるのは嫌いじゃないけど、ベッドの中でしかしないの。あと、どちらかというと攻められるほうが好きだな~……あ、想像したら立って来ちゃった」
「ハタチさん! まえまえ!!」
「まえ??」
ロビンに引き寄せられて壁に隠れたクリスティーネが焦りながらそんなことを言うのでフィリップが前を見たら、玉座に座るカールスタード王。
その前には4人の弓引く兵士と、2人の杖を構えている魔法使いの男。その他にも剣を構えた騎士が11人もいて、その全てが大口開けてフィリップを見ている。
これは敵が来ると待ち構えていたら、少年が下品なことを言いながら普通に入って来たから驚いた顔だ。
「あ~……えっと……もう一回、扉を開けるところからやり直そっか?」
「う、うむ……」
なので、フィリップは恥ずかしそうに確認を取って扉を閉めるのであったとさ。
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