074 決戦前夜


 スラム街の幹部だけを集めた決起集会は、ロビン主導で今後の作戦を説明したら、明日の下準備だけするように言って解散。

 クリスティーネはフィリップが送り届け、何もせずに帰ろうとしたけどクリスティーネにベッドに誘われていた。


「明日から忙しいんだから、早く寝たほうがいいよ?」

「そうですけど……眠れそうになくて……」


 クリスティーネが暗い顔をしているので、フィリップはベッドに飛び込んだ。


「やっぱり僕がいないと不安?」

「はい……どうしても来れないのですか?」

「前にも言ったでしょ。病気だから太陽の下は歩けないの」

「それって本当なのですか?」

「ホントホント」


 作戦は朝の10時頃から始まるので、フィリップが参加できないことがクリスティーネは不安で仕方がない。それにフィリップはよく嘘をつくから、この大事な場面で逃げるのではないかと心配らしい。言い方も軽いし……


「てか、ここまでお膳立てしてあげたんだから、最後ぐらい君主らしいことしなよ。じゃないと、誰もついて来ないよ?」

「うっ……」

「それとも僕が王様になっていいの? 違うでしょ? ここはクリちゃんの国。この国のことはこの国の人がやらないといけないの。わかった?」

「はい……情けないことを言って申し訳ありません……」


 まだ元気がないクリスティーネを、フィリップは抱き締める。


「大丈夫。スラムのみんながクリちゃんの味方だ。いや、外町のみんながクリちゃんを守ってくれる。もしもの時は、こうしたらいいから……」


 耳元で策を与えたフィリップは、クリスティーネにキスをしてから見詰める。


「ね? 大丈夫そうでしょ??」

「はい。でも、やっぱり眠れそうにありません。せめて、抱いてから行ってください」

「アハハ。戦前いくさまえってのは女も男も変わらないんだね。わかった。夢の中に連れて行ってあげるよ」

「お願いします……」


 こうしてクリスティーネは、フィリップに激しく愛されて気絶するように眠りに就いたのであった……



「あれ? まだ起きてたの??」


 クリスティーネを落としたフィリップは残っていた仕事を終え、大きな布袋を担いでお掃除団のホームにやって来たら、外でオロフとトムが酒を飲んでいた。


「あんな話聞かされて眠れるか」

「うん。同意」

「明日は長い1日になるんだから、寝ないとダメだよ~。商売女でも呼んだら? 気が紛れるよ??」

「なるほど……だから戦に行くヤツってのは、女を抱いてから行くのか。これから買いに行くか?」

「いい。俺は嫁のとこ行って来る」

「断られてやがんの。アハハハハ」


 年上のオロフが独り身で、若いトムが妻帯者なのでフィリップは大笑い。そのせいでオロフは怒ってトムに絡んでいたが、トムはヘッドロックされながらフィリップの担いでいる大きな袋を指差した。


「それ、なに?」

「これ? これは僕の招待客」

「「招待客??」」

「あ、ちょうどいいや。地下牢で紹介するよ」

「「はあ……」」


 招待客が布に包まれて地下牢送りにされるのでは、とても招待客に見えないオロフとトム。しかしフィリップが先々進むので、2人もついて行くしかない。

 そうして地下牢に着いたフィリップは、2人にも協力してもらって担いでいた人間を牢の中の椅子に座らせた。そしてフィリップが布を剣で切り裂いたら、ロープで拘束されたパジャマ姿の太ったオッサンが出て来た。


「ううっ! うううっ!!」

「いま猿ぐつわ外してやるからちょっと待って。動いたら怪我するから、動かないほうがいいよ~?」


 フィリップが剣を高々と構えると、太ったオッサンも青ざめてコクコクと頷いた。オロフたちも「そんな外し方ある?」って、コソコソやってる。

 太ったオッサンが微動だにしなくったら、フィリップの一閃。早すぎて目で追えた者はいなかったようだが、猿ぐつわは無傷で落ちたから、オロフたちは拍手してる。


「き、貴様~! 私が誰だかわかっての狼藉か!! 私はこの国の第二王子だぞ~~~!!」


 でも、太ったオッサンが叫んだ言葉で拍手は止まった。フィリップは大声出すと読んでいたのか、静かになるまで耳を両手で塞いでる。


「ハ、ハタチさん……こんなこと言ってるけど……」


 なので、トムがつついて質問した。


「明日の作戦が上手くいくようにさらって来たの」

「「はあ~~~!?」」

「縄をほどけ~~~!!」


 オロフたちが叫ぶのも、フィリップは予想通り。3人が静かになるまで、フィリップは耳を塞ぎ続けるのであったとさ。



「うっさい。全員殺すよ??」


 あまり時間もないのでフィリップが剣を向けたら、オロフたちは手を上げて後退あとずさり、第二王子も黙った。仲間まで殺すクレイジーだと思ったらしい。


「そんじゃあ、拷問始めますか。オロフ、トム。ひとまずボコボコにして」


 そこに、フィリップの命令。状況について行けない2人が目配せしていたら、第二王子は焦って声を出す。


「ま、待て! 要求は!? 要求があるから私をさらったのだろ!?」

「そうだよ~。たぶん断られるから、先に殴っておこうと思って。次は指の爪を全部剥ぎ取り、骨を全部折ってから要求するからそれまで待っててね」

「断らないからやめてくれ~~~!!」


 何もしてないのに、第二王子は早くもギブアップ。フィリップの要求通り、一筆書いてしまうのであった。



「んじゃ、あとは任せて大丈夫? 僕の招待客だから、丁重に扱うんだよ??」


 ドン引きしているオロフたちに頼み事をしてみたフィリップだが、まったく説明がないから2人して聞いていた。それで少しは納得したけどオロフとトムでは、こんなお偉いさんはどう扱っていいかわからないらしい。


「殺さなかったらいいだけ。メシも水も、スラムの最底ランクでいいから。最底辺の暮らしでおもてなししてあげたら喜ぶはずだよ」

「がはは。そりゃいいな。さぞかしいい物食って来たんだよな~?」

「俺たちのごちそうフルコースを食べさせよう。クックックッ」

「あんまりイジメてやるなよ~? ま、暴力以外ならいっか。これはおもてなしだもんね。アハハハハ」

「わははははは」

「クフフフフフ」


 こうして第二王子が「何を食べさせられるんだ」と震えるなか、悪い顔した3人の笑い声が響き渡るのであった……

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