024 護衛の紹介


 10日ほど城に引きこもっていたフィリップは、夜の街に出ると各種店舗で挨拶回り。諸事情であまり来れなくと言ったら阿鼻叫喚の嵐だったらしい。やはりフィリップに依存しつつあったみたいだ。

 なので、その日は最後とばかりに、フィリップはたいしたこともせずに大金を落として帰って行った。


 ついでに関わりが深い人にも同じような説明をして、もしかしたらいきなり来なくなることも付け加えたら泣かれた。彼女気分でいたみたい。

 別れ話でもないのに泣かれては、前世を含めて彼女なんていたことのないフィリップではどうしていいかわからないので、金貨を積んで謝っていた。手切れ金だと思われて、さらに泣かせたらしいけど。


 いつもお世話になっていたキャロリーナには頼み事。毎回大金を持って行き、もしもフィリップがいきなり消えたら、残っているお金は困っている店に使ってほしいと渡していた。

 キャロリーナにも泣かれたらしいが、お金を渡しすぎて思ったより感情が盛り上がらなかったから、そこまで涙は出ていなかったみたいだ。


 そんな別れの挨拶をしたのに、しばらくしたらフィリップが普通に現れるので、夜の街の者は「あの涙はなんだったんだろ?」と、ちょっと損した気分になったんだってさ。


 その挨拶回りからは、フィリップの夜遊びは少し変わる。2日をダンジョンでのレベル上げ兼、お金稼ぎ。3日を夜の街に出て、行き付けのお店のお気に入りの子とマッサージを楽しむ。

 残り2日は完全に休んで、夜はエイラにお世話してもらうローテーションとなった。なんだかんだでエイラが1番肌が合うみたいだ。


 これで夜の街もフィリップへの依存度が下がり、平静を取り戻したのであった。



 それから月日が流れ、フィリップも10歳になった頃、身長がちょっとしか伸びてないとガッカリしながら夜遊びを続けていたら、フィリップが仮病を使って寝ているのにエイラが強引に起こした。


「ふぁ~。どうかしたの?」

「陛下がお呼びです。体調が悪くとも、必ず連れて来るように命じられております」

「父上が……うん。行くよ。手を貸してくれる?」

「はい」


 今日はまた強引だなと思ったフィリップであったが、行かないことには用件もわからないのでエイラに手伝ってもらってお着替え。

 手を繋ぎ連れて来られた場所は、いつもの執務室ではなく応接室だったのでフィリップも不思議に思いながら中に入った。


「体調はどうだ? 少し熱が高いか……」

「う、うん……だいぶいいから、この人たちが何者か教えてほしいな~?」


 場所は違えど、皇帝がフィリップを膝に乗せるのはいつも通り。ただし、エイラを含めた8人がその姿を凝視しているので、フィリップも恥ずかしそうだ。


「まずは、その男子はファーンクヴィスト公爵家のラーシュ。フィリップと同じ歳だ。騎士2人はその護衛。メイドは世話係だ」

「フィリップ殿下。お初にお目に掛かります。ラーシュ・ファーンクヴィストと申します」


 10歳にしては精悍な顔立ちのラーシュがひざまずいて挨拶をすると、残りの3人も跪いて自己紹介をした。


「そっちの騎士2人はフィリップの専属護衛。メイドは世話係だ」

「フィリップ殿下。よろしくお願いします」


 こちらの3人も跪いて自己紹介し、ダグマー・ユーセフソンというメガネ美女を最後にフィリップも会釈は返したけど、まだついて行けていない。


「えっと……なんのための護衛なの?」

「おお。そこからだったな。近々フィリップは、カールスタード王国に旅立つことになっている。そこの学校で人脈を作って来い」


 理由を聞いて、フィリップも納得。このキャラは乙女ゲームでは、カールスタード学院で学んでから転校生として帝都学院に登場するのだから、今年10歳のフィリップは入学しなくてはならないのだ。


「あの……あまり体調がよくないから、できたら帝都学院に行きたいな~??」


 とはいえ、この入学を阻止するために病弱キャラを貫いていたのだから、フィリップも準備万端だ。


「本来ならば、皇族の第二子はカールスタード学院に行くのが通例なのだが……もしもの時はそれも致し方ないか。だが、出発までに体調を戻すように努力はおこたるな」

「はい!」

「では、俺は行く。少しでいいからラーシュたちと親交を深めておけ」

「は~い」


 思ったよりあっさりと皇帝から許可が出たので、フィリップも仮病を続ければいいだけだと軽い返事。皇帝が出て行くのを全員で見送ると、フィリップはいちおう言われた通り少しだけ喋っていた。

 だいたいが、「よろしくね~」と握手だけであったけど……メイドだけはどちらもエロイ目で値踏みしてたけど……



 それからエイラと自室に戻ったフィリップは、出て行こうとしたエイラを呼び止めた。


「ひょっとして……機嫌悪い?」


 普段は無表情のエイラは今もいつもと変わらない顔をしているが、付き合いの長いフィリップならではの違いがあるから気になったらしい。


「いえ……」

「絶対に何かあるよ~。こっち来て座って。命令だよ~?」

「はい……」


 初めてフィリップが命令したので、エイラも従うしかないのかベッドの端に腰掛けた。


「何があったの?」

「いえ、たいしたことではありませんので」

「不甲斐ない主人だけど、話を聞くぐらいはできるから。エイラが笑えるように努力もする! ね? 聞かせてよ~」

「ほ、本当にたいしたことではないのですけど……」


 フィリップがあまりにも真剣な顔をするので、エイラはポツリポツリと理由を説明する。


「寂しかった、と……」


 どうやらエイラは、フィリップがカールスタード学院に旅立つことや、それならば自分も連れて行ってくれるように皇帝を説得してくれると思っていたのに、何もなかったからスネていたらしい。


「それは本当にゴメン! てっきりあの場にいたから、ついて来るモノだと思ってたの。あとで父上に直訴するから許して~」

「あ、いえ、許すも何も……私のワガママですので……謝罪も撤回してください」

「撤回しないよ。傷付けてゴメン。僕と一緒にカールスタード学院に行こうね~?」

「はいっ!」


 こうしてフィリップが謝ることで、エイラの機嫌が直ったのであった。


「カールスタード学院なんて行かないから、すっかりエイラのこと忘れてたよ。てか、僕もなかなか女性の扱い方が手慣れて来たな~。プレイボーイは辛いぜ。アハハハハハ」


 ただし、その謝罪は心はこもっていたが、ほとんど嘘だったけど……

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