007 ダンジョン探索


「さあ……今日から本格的なダンジョン探索に取り掛かるぞ。お~!」


 ひと月ほどダンジョンの1階層でレベル上げしたフィリップは、今日も張り切ってダンジョンにやって来た。

 フィリップの予想通りモンスターを倒したほうがレベルの上がり具合が早かったので、現在のレベルは15。これは乙女ゲームで初めてダンジョンに挑戦するレベルよりふたつ高い。

 普通は5人パーティで挑むのだから、フィリップも安全策を取ったのだ。プラス、ステータスを上げて移動時間を短縮できるのを待っていたのだ。


「たのも~! つっても返事はないんだけどね」


 初めて来た時には重かった大きな扉も、いまは軽々。フィリップは指鉄砲を作って駆け出した。


「どけどけ~! パンパンパンっと!!」


 1ヶ月間、モンスターを捜し歩いた1階層は、慣れたモノ。いつ、どこから出て来るかもわかっているので、走りながらでもモンスターを正確に射抜けるのだ。

 こうしてあっという間に、次のフロアに向かう階段を駆け下りるフィリップであった。



「本番はここからだね。レイピアの出番だ!」


 フィリップはレイピアを抜くと、慎重に進んで行く。するとすぐに大きな人型のモンスターを見付けた。


「うわ……オーク、キモッ。近付きたくないな~」


 ブタの顔が付いているといっても、人型はいまだに慣れないフィリップ。それに力負けしそうな大きさなので、やはり安全策を取って、フィリップはオークの頭を撃ち抜いた。


「ヘッドショットは有効だね。ゲームだとHPを削らないといけない敵も一発とは、どうなってんだろ? ゲームとリアルを足して2で割った感じになってるのかな~? わからん。それよりドロップアイテムは何かな~??」


 わからないことは放置するスタイルのフィリップは、オークが消えるのを待つ。


「なんか生肉が出たんだけど……これは食べられないヤツだな。うんうん」


 けど、床に落ちてる食べ物は拾うこともしないのであったとさ。



「ウルフが5匹もいる……」


 角を曲がった先には、初めてのモンスターの群れ。フィリップも無策で飛び込めないので隠れて様子を見ている。


「指鉄砲は当たりそうにないな~……範囲魔法で一掃したいところだけど、MPはあまり使いたくないんだよな~……これで行くか!」


 フィリップは床に手を触れて準備を終わらせると、姿を見せて指鉄砲を数発撃った。


「来たっ! アイスハリネズミ!!」


 指鉄砲は1匹のウルフに当たったけど、致命傷にはならず。それで敵に気付いたウルフは一直線に向かって来たので、フィリップは足元からツララを数本出して防御に使う。

 しかしウルフもバカではないのか、急ブレーキを掛けて踏ん張った。


「「「「「ギャワン!?」」」」」


 残念ながら、フィリップが床を凍らしていたので止まれず。次々とツララに串刺しとなり動きが止まる。


「2匹しくった!」


 そうは上手くいかないのはフィリップも一緒。ツララに刺さらなかったウルフは、ツララの根本に激突してから体勢を立て直そうとしている。


「パンっ! よっと!!」


 まぁ、足元はツルツルしているからウルフもなかなか立ち直れないので、その隙にフィリップは左手で指鉄砲、右手に持ったレイピアを突き刺して事無きを得るのであった。



「う~ん……レイピアの使い方ってこれであってるのか? やっぱり誰かから習ったほうがいいかもな~」


 フィリップは無理矢理突いただけなので、これから強敵に出会った場合に不安がある模様。素振りをしながら待っていたら、ウルフも床に吸い込まれた。


「お金、肉、毛皮……以上。どれも使えないし持ち帰れないな。これは先にアイテムボックスを確保したほうがよさそうだ。3階に急ごう」


 ひとまずお金だけ拾ったフィリップは、記憶通りに進んで出会ったモンスターはハメ技で倒して進んで行く。


「プププ。床を凍らしたら、ほとんど対応できないでやんの。パンパンっと」


 そう。ウルフで味を占めたフィリップは正攻法では戦わない。すってんころりんしているモンスターを狙い撃ちして倒しているのだ。

 そうこう進んでいたら早くも地下3階に辿り着いたフィリップであった。



「リビングアーマーだ……あんなのどうやって倒したらいいんだ?」


 地下3階もハメ技で進んでいたが、フルメイルの鎧が歩いていたのでフィリップは立ち止まる。


「とりあえずこかしてみるか」


 ここでもすってんころりん作戦。倒れたところに指鉄砲で攻撃したが、兜に当たった氷の礫は「カンッ」と弾き返されてしまった。


「だよな~。レイピアも通じる気がしない」


 立ち上がろうとする度にすってんころりんしているリビングアーマーを見ていると、フィリップも閃いた。

 リビングアーマーの両手両足、胴体を氷で拘束したら、フィリップは頭側に回って兜に手で触れた。


「最大出力! 凍れ~~~!!」


 氷魔法に付属する熱操作。温度を上げることが苦手でも、下げることならお手の物。鉄でも凍る温度で、リビングアーマーの頭を砕いたフィリップであった。



「兜だけ??」


 ちょっと苦労したリビングアーマーのドロップアイテムは、頭部を守る防具だけ。こんな物は使えないと投げ捨てようと思ったフィリップであったが、いちおう被ってみた。


「見えづらっ。カッコイイかもと思ったけど、やっぱいらね」


 厨二心はくすぶられたけど、実用性に欠けたので投げ捨てるフィリップであった。



 それから何体ものモンスターをハメ技で倒したフィリップは、記憶にあった場所でキョロキョロしながら何度も壁にぶつかっていた。


「このへんだと思うんだけどな~……けっこうHP減ってる。痛いんだから、早く見付かってくれ~」


 この行動は、ヒロインのマネ。乙女ゲームではヒロインがこけて壁にぶつかり、隠し通路を発見していたから試しているのだ。


「ととと……来た~~~!!」


 10回以上も壁にぶつかると、壁がクルッと回ったのでフィリップは興奮。バランスを崩したがなんとか耐えて、その先に進む。


「あった……この指輪が欲しかったんだ」


 フィリップは台座に駆け寄ると、その上にあった指輪を摘まんでよく見てから、左手の人差し指に嵌めた。


「んで、どうやって使うんだろ? レイピアを入れたいんだけど……こうかな?? わっ。なんか穴が開いた。お~。入った」


 指輪にレイピアを近付けると、目の前に穴のような物が現れたので恐る恐るレイピアを突っ込んだフィリップ。次にその空間に手を突っ込んでレイピアのことを考えたら手に触れたので、勢いよく引っこ抜いた。


「アハハハハ。アイテムボックス、ゲットだぜ! アハハハハ」


 このダンジョンで一番欲しかった物を手に入れたフィリップは、左手を掲げて喜ぶのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る