004 氷魔法の秘密


 前世の記憶が戻って1ヶ月。初マッサージが城内で話題になっているのだから、フィリップの引きこもりは一段と酷くなっている。でも、あの素晴らしい誘惑には勝てないらしく、数日置きにエイラとマッサージし合っているらしい……


 そんなフィリップは今日もエイラの目を盗んで、魔法でのレベルアップを試していた。


「う~ん……なかなか上がらなくなって来たな~。1ヶ月かかってやっとレベル4だよ。この方法では、レベルアップが遅いってことか~」


 恥ずかしいことは置いておいて、フィリップは新たなレベルアップ方法を模索している。


「やっぱりダンジョンに行くしかないか。確か、帝都学院ってとこにあるんだよな? その帝都学院は、城の西側に隣接してるんだったか」


 この巨大な帝都城には高い城壁があるので、現在のフィリップの能力では乗り越えられるわけがない。門には警備の兵士がいるだろうから、例え第二皇子が道を開けろと言っても1人では通してくれないだろう。

 それに兵士に見られては皇帝に筒抜けになるのだから、誰にもバレないようにレベル上げをするには不可能に近い。


「やるなら夜か……でも、どうやって部屋を抜け出すかって問題もあるよな~」


 闇に紛れるほうが成功確率は上がるが、そもそもフィリップの部屋の前にも護衛の騎士が24時間座っているから、出ることもままならないのだ。


「抜け出すとしたら、窓か……2階だから簡単そうだけど、わりと高いんだよな~。ロープをどこからか入手しないと……あ、氷魔法で足場を作ればいけるか??」


 思い付きで、部屋の壁にロッククライミングの練習に使うような出っ張りを氷魔法で作ったら、フィリップは天井を目指して登る。でも、一段目でツルッと滑って顔を打ってのたうち回っていた。

 第2ラウンドは、滑り止めを作った氷。これでも不安定だがなんとか天井にタッチできたので、ひとまずフィリップは上がったり下がったりと練習している。


「うん。なかなかいい感じになって来たな。これもレベルアップのおかげかな? パワーもスタミナも昔とは段違いだ。これなら2階くらいは疲れずに登れそうだ。あ、棒みたいな氷で滑り下りたらもっと楽そうだな」


 部屋からの脱出方法に目処が立ったフィリップだが、気になることが浮かんだ。


「そういえば、こんなに氷に触っているのに手がかじかんだりしないな……どうなってるんだろ? 氷魔法の使い手は、寒さに強いのかな? いや、冷気は感じるんだよな~……」


 この日は出した氷を眺めたり舐めたりとエイラが来るまで触り倒し、氷魔法について考え続けるフィリップであった。



「う~ん……てか、氷魔法って、おかしくない??」


 数日後、フィリップは前世の知識を使って分析していた。


「氷って水が凍る現象なんだから、いきなり氷が出るって変だ。これって、複数の魔法を使っていないと起きない現象なんじゃね? 水と冷気……いや、冷気じゃなくて熱か。あと、浮かせることができるってことは、重力? もしくはサイコキネシスとか?? 分解できるかも……」


 フィリップは氷ではなく水を想像して魔法を使うと、ポタポタと手の平から水が溢れた。


「やっぱりそうだ! 魔法と科学は、原理は近いモノなんだ!!」


 確証が取れたフィリップは、思い付く限りのことを試して結論に至る。


「氷魔法とは、水、熱、風の複合魔法だ! じっちゃんの名にかけて!!」


 名ゼリフでビシッと決めたフィリップであったが、祖父はただの工場勤めだったことを思い出して恥ずかしそうに頭を掻いてる。


「サイコキネシスも使えたらよかったのにな~。これは水と氷を浮かせるだけの辻褄合わせみたいな魔法みたいだから、それ以外は使えないんだよな~。自分に使えたら外壁なんて軽々超えられるのに、残念」


 あと、取って付けたように説明している。恥ずかしさをごまかしているともいう。


「ま、風魔法でジャンプの飛距離も伸ばせるし、着地の補助にも使えるからあまり必要ないか。それと熱魔法もなかなか使えるな。冷やすだけじゃなく温められるから、今まで粉々にして外に捨てていた氷も早く消せる。冷やすより出力は低いから、もうちょっと上手く使えないか研究は必要だな」


 それからまたひと月ほど、魔法に没頭するフィリップであっ……


「きょ、今日もよろしく……」

「はい。誠心誠意務めさせていただきます」


 それと、エイラとの楽しいマッサージも欠かさないフィリップであったとさ。



「よし! そろそろ脱出作戦は次の段階だ!」


 魔法の確認をしていたらレベルが6まで上がったフィリップは、見張りの確認に着手する。最近では日中は熱魔法を使って、体は微熱を放つようにして仮病でごまかしているので夜型になっている。

 エイラと夜に楽しめないのは悲しいが、ここは我慢だ。


「あの~……トイレ……」


 とりあえず、ドアを開けて見張りを確認したフィリップは、噓をつきながらマジマジと見ている。女騎士だ。何故かフィリップはラッキーとか思ってる。


「はっ! お供します」

「1人でも行けるんだけど……」

「城の中とはいえ、殿下を1人で歩かせるわけにもいきませんので」

「そうなんだ~……じゃあ頼むよ」

「はっ!」


 ダメ元でも1人で歩かせてもらえないと知れただけで、それはいい情報。あまりゴネると脱出作戦に支障が出るから、素直に後ろを歩く。


「ところでなんだけど、夜の番って眠くならないの?」

「眠くなりません」

「……本当のところは?」

「なります……でも、交代要員が来ますので、殿下の安全は守られていますよ」

「へ~。やっぱり大変なんだね。お仕事お疲れ様」

「もったいないお言葉です」


 世間話で情報を引き出すフィリップ。女騎士もフィリップと初めて喋った上に労われたから少しは警戒が解けたので、用を足した帰り道ではもう少し深いことを聞いていた。


「へ~。最近は夜番ばっかりなんだ。大変だね」

「はい……やはり女だと……なんでもありません」

「ん? 女性だと差別されてるの? 父上に言ってあげよっか??」

「いえ! 自分が弱いから悪いだけですので」

「ふ~ん。そっか。お姉さんにもプライドがあるんだね。出過ぎたマネだった。ゴメンね」

「もったいないお言葉です」


 喋っていたら自室に着いたので、フィリップは中に入ろうとしたけど、途中で振り向いた。


「お姉さんも一緒に寝る? 黙っておいてあげるよ??」

「はっ! ありがとうございます!!」

「へ??」


 フィリップはちょっとした冗談を言ったつもりだったのに、女騎士は嬉しそうに寄って来たので違和感を感じた。


「ちょっ、ちょっと待った! もしかしてだけど、お姉さん。お父さんとかに僕と関係を築けとか言われてない??」

「い、いえ……」

「なし! 部屋に一歩でも入ったら、犯されたって父上に言うからね!!」

「うっ……」


 そう。この女騎士は、貴族。フィリップが女にだらしないような噂が流れているから、お近付きになろうと家長から送り込まれていたのだ。


 それも、何人も……


 叱責したものの、女騎士を遠ざけるのはもったいないと思ったらしく、それ以上のことは言わないフィリップであったとさ。

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