第223話 祝宴 完


 時刻は間もなく二十二時――


 仕事で思ったよりも遅れてしまい、十分程前にようやく残りの霧島一家が仕事用の配送車で到着!


 ここからかなり遠方にいたバゼックも先程途中で霧島一家と合流。


 自身の大型アメリカン風バイクで駆けつけてきてくれた。


 ちなみに全員大の酒豪で飲む気満々であった。


 とはいえ急だったので部屋の空きのあるホテルは見つからなかった為、祐真の許可を得て今夜は店に泊まる事になった。


 それからグライプスも来れるかとも思っていたのたが、先程連絡が入り、リリィも仕事がバタついているみたいでどうやっても今日はもう来れないとの事。


 結局彼女は明日、顔を出しに来るとの事になった。


 そしてグライプスはというと……





『私だってすぐにでもシリウスさんに会いたいのにグーちゃんはそんな私とこの書類の山を置いて一人楽しくシリウスさんと会って楽しんでくるんだ。 へ~ そうなんだ。 へ~……』




 と、常軌を逸したプレッシャーをかけられてきたみたいで、泣く泣く彼女の残業に付き合う羽目になったとか……


 そんなこんなで彼も彼女と同じく明日にでも顔を出すから今日のところは遠慮しておくとの事であった。


 こうして今日来れそうなメンバーは粗方揃って改めて盛り上がる面々――


 後は大王とエレインからの連絡待ちであったが、ここでイステリアの方の通信機へ着信が鳴り響く。


「あら? 誰かしら? …… ユリウス!? なんで姉様でなく私の…… !! ああ! 姉様が潰れてる!!!」


 レティと一緒に酒瓶片手に床で潰れて寝てしまっているアルセルシア。


 どうやらユリウスからの連絡には気付かなかったみたいである。


「もしもしユリウス! ごめんなさい! 姉様出なかったわよね!? もう酔い潰れちゃってて! うん、それでどう? ちょっとでも顔出せそう?」


「―― うん…… うん…… わかったわ! それじゃ今から迎えに行くわね!」


「シリウス! 私ちょっとユリウス達迎えに行ってくるわ!」


「! おう! 来れるって!?」


「ええ。 それじゃ! すぐもどってくるわね!」


「ああ! 頼む!」


「あっ! 雫さん! ちょっとの間だけこの子の事お願いできる!」


「ええ、お任せください」


 もう夜中…… ウトウトしているアルの事を雫に任せるイステリア。


 そうしてイステリアは転移術で閻魔の城へと飛んでいくのであった。



 五分後――



 店の中の一部分の空間に歪みが発生する!


 そこから白く輝く空間の出入り口が現れる――



「ん!? なんだ? わざわざ『ゲート』を作ってもどってきたのか!?」


「ええ。 もうちょっと私も飲みたいとこだけどお子様はとっくに寝る時間だしね」


 そう言ってアルを抱っこするイステリア。


「ううぅぅぅ…… まだあそびます……」


「もう寝ましょ、アルちゃん。 ごめんね! 楽しくなり過ぎて気付いたらこんな時間になってるなんて…… 付き合わせてごめんなさいね」


「お詫びに今日はユリウスのお家でお泊まりしましょうね。 そうすれば明日『あの子』にも会えるだろうし――」


「ううぅぅ…… はい……」


 イステリアの胸で今にも眠りそうなアル。


「帰るのか? イステリア」


「すまん。 子供がいるのを失念してた。 悪かったな」


「ふふ、いいのよ。 保護者の私が気付かなかったのが悪いんだし……」


「それのこの子も久し振りに大勢に囲まれて楽しかったでしょうに」


「最高神とはいえまだ子供…… 潜在的には相当な力が眠っているでしょうけど、今はまだ未熟…… 『色々な意味』でまだあまりお外には連れていけないから……」


「最高神故にか…… まあそうだろうな」


 ガキにしちゃかなりやれんだろうが、それでもまだまだ未発達……


 特に心はまだ何色にも染まっていない純粋無垢な子供のままだ。


 昔に比べ、天界の治安が良くなっているのは事実なんだろうが、それでも腐った奴はどこにだってそれなりにはいんだろ。


 こいつの情報や存在はまだ一般には秘匿されているみてーだが、裏事情に精通している悪党がどこにいるかわかったもんじゃねえしな。


 力をまだ上手くコントロールできない幼女の最高神……


 そいつを悪用しようなんて輩ももしかしたらいるかもしれねえ……


 ま、もう少し成長するまでは目が離せねえか……


 そう言う意味では、ちょこちょこ発散させてやるのは良いかもな。


 まだまだ遊び盛りだろうし……



「アル坊。 明日は一緒にゲームすんだろ? 俺は暇だから大いに朝寝坊してきていいからな」


「たらふく寝て! また明日イステリアに連れてきてもらいな…… 待ってるぜ」


「むにゃむにゃ…… はい…… おやすみなさい……」


「ああ、おやすみ。 アル坊。 良い夢見ろよ」


「ふふ、ありがとね。 シリウス」


「いや、なんの…… それよりも……」


「ええ…… はあ…… 『これ』…… 何とかしないとねぇ……」


 溜息をもらすイステリアと黒崎の視線の先には、酔い潰れて床に大の字で寝ているアルセルシアとレティの姿があった。


 とりあえずイステリアは他に二つ程新たに『門』を作り、閻魔の城の中にある客室三部屋へとそれぞれ繋がる様に空間を接続する。


「転移術って結構神経使うのよね…… 私も抑えてたとはいえ、それなりに酔いが回ってるし……」


「だからそれぞれの家に複数回、転移するのは結構危ないから、ユリウスに頼んで三部屋程客間を用意してもらったわ」


「男女別と私達の部屋に分けてるから二時間後位にまた様子を見に来るからそのタイミングで防犯上『門』は閉めさせてもらうからね」


「ああ。 結構住まいが遠くの者もいるしホテルも取ってないでこのまま店に泊まろうとしていた者が多いと聞いた。 祐真君にも悪いし、ここは遠慮せずに使ってくれ」


「さっき来たばかりの者達とかまだ飲み足りない者は部屋に置いてある酒も適当に漁ってくれて構わない」


「一応明日は朝が早い者達もいる。 六時半頃にイステリア様のご厚意でそれぞれの部屋に伺って各々を転移術で送ってもらう事になっているから、時間的にはあまり眠れないと思うがまあそこは頑張って起きてくれ」


「というか早く寝てくださいね」


 こうしてアルセルシアは霧島が、レティは雫が背負い、後の者達は『四人だけ残して』先に閻魔の城へと移動していったのであった。



 そして――



「はは! 大分盛り上がってたみたいだねえ! 僕等ももっと早く来れれば混ざれたのになあ!」


「なんだかんだこんな時間になってしまいましたからね…… まあ今日はしょうがないですよ。 もう少しで諸々落ち着きますし、また二週間後にも集まれますので楽しみはその時までとっておきましょう」


「ああ、そうするとしよう――」

 


「さて……」


「はは! 挨拶が遅れてしまったね――」


「久し振りだ…… 黒崎君」


「お久し振りです。 大王様…… エレインさんも――」


「今は公の場でもなければ公務の時間でもない。 ユリウスでいい…… そう呼んでくれ」


「私もシリウスさんにさん付けなんて気持ち悪いので呼び捨てで結構ですよ」


「はっ! そうすか…… んじゃま、今夜はそうさせてもらいます」


「って誰が気持ち悪いって! エレイン!」


「失礼。つい本音が」


「って、おい!」


「それはそうと『あんた等もか』…… 子供の頃から見ていたにも関わらず、この百五十年のあんた等のあれからの過程を見れなかったのはガチで残念だったが……」

























「とりあえずは…… 『ご結婚』おめでとうございます」


「はは! ありがとう!」


「今更言われても正直照れますが…… ありがとうございます」


「まあ、なんにせよ…… 『約束』は果たせたかな」


「! ああ、そうすね」



 そう、あれは黒崎が消滅する直前での大王とのやりとり――



 *     *     *



「だが…… ここでさよならは言わないでおくよ」


「!」


「根拠もない…… 確証もない…… というかはっきり言って不可能だとも思う……」


「だが…… それでも!」


「いつかまた会えると信じている――」


「その時はまた皆で酒でも飲み交わそう」


「約束だ――」


「! ああ、 そうだな――」


「約束だ。 ユリウス」


「ああ――」



 *     *     *



「しかしまさか…… 俺が復活する可能性があるってあの時点で既にわかってたんですか?」


「はは! それこそまさかさ! ただ君はいつも予想の斜め上をいってくれる真似をしてくれるからねえ…… それに――」


「理屈なんかどうだっていい…… それこそ奇跡でもなんでも……」


「ただ君との再会を信じたかった…… それだけかな」


「私も後からあの戦いの顛末を聞かされた時は驚きましたよ!」


「でも…… またこうして会えて本当に良かった……」


「おかえりなさい。 シリウスさん」


「おかえり。 黒崎君」


「ああ……」


「ただいまだ。 二人共――」


「ま、とりあえず御三方とも。 そんな所に突っ立ってないで! 積もる話は席についてからにしたらどうだい?」


「ふふ、そうだね。 そうするとしようか」

 

 こうしてユリウスとエレインとの再会も果たした黒崎。


 三人はカウンター席でユリウスとエレインで黒崎を挟む様に席に着く。


 軽く雑談しながら祐真の作ったオリジナルカクテルが出来上がる――



「はい、どうぞ」


「ありがとう」

「いただくわ」

「さんきゅ」



「では…… 再会を祝して――」



「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」


 再会の盃を交わす三人――



「―― 美味い。 ふふ、相変わらず良い腕をしている」


「ええ。 今日もとっても美味しいわ。 祐真さん」


「はは! そりゃどうも♪」


「というか祐真君もこっち来て一緒に飲もうよー!!!」


「それはありがたい申し出っすけど、今夜のところは遠慮しときますよ」


「女神様もそうだがお二人にとってはガキの頃からの付き合いで何度も死線を潜り抜けた仲なんでしょ?」


「他の連中以上に付き合い長いみたいだし、今宵の時間も後、残り僅か――」



「だったらせめて残りの時間位は三人だけでゆっくり過ごして下さいよ」


「やだな~!!! そんな気を遣わなくて全然いいのに~!!!」


「そうよ! 祐真さん!」


「ったく! 変な気をまわしてんじゃねえよ! 昔っからそういうとこあるよな。 お前って――」


「はは! ま、大勢で騒ぐのも良いが、こういう感じの時間も大事でしょ? 特に夫妻は暫くは忙しいんだから! また今度誘ってください。 その時はぜひ! 俺も混ぜてもらいますから♪」


「ふっ 君という漢は…… わかった。 そういう事なら今はその言葉に甘えさせてもらおうかな。 とりあえず次は二週間後か。 その時にまた――」


「ありがとう。 またね! 祐真さん!」


「うっす! あっ! それからそこに三人の好みであろう酒をいくつかピックアップして置いてあるんで好きに飲んじゃってください!」


「おお! 何から何まで流石だねえ♪ 祐真君♪」


「ほんとにね。 ありがとう。 祐真さん」


「いえいえ! あっ! 修二! お前どうすんだ? 今日は? 大王様のとこで泊めてもらうのか?」


「いや俺はこのまま店にでも――」


「いやいや! 泊まっていきたまえよ! 黒崎君! 祐真君も!」


「はは! ありがたい申し出ですが俺は店があるんで遠慮しときます」


「え~っ!! たまには休みなよ~!!!」


「はは! また今度♪ つかその言葉そっくりそのままお返ししますよ! ちゃんと身体を休めて下さいね! 大王様! エレインさんも!」


「おっと! これは一本取られたね!」


「ふふ、わかってるわ。 祐真さん!」


「それでシリウスさん? いや、黒崎さん? はどうするの?」


「呼び方はどっちでもいいぞ。 エレイン。 身内以外の場だったらなるべく黒崎で通してほしいってのもあるが……」


「なるほど…… ふむ、それでは――」


ユリウスこの人も黒崎さんと呼んでいるし私もそっちで少しずつ慣れていこうかな。 それに――」


「ああ。 どちらの名前でも、君という漢の本質は変わらないからね」


「君の考えも想像がつく。 まあごっちゃになる時もあるかもだが、ひとまず黒崎君と呼ばせてもらうよ」


「ええ。じゃあそうして下さい」


「それで? 黒崎さんの方は今夜ホントにどうするの?」


「俺は……」


「はは! 大丈夫だよ! 黒崎君♪ リーズは酔って爆睡してるし、寝込みを襲われたりしないと思うから♪ 多分だけど♪」


「いや~、どうすかねえ…… って多分じゃ困るんすよ! 多分じゃ!」


「それに上手くいけば黒崎さんに責任取らせて私達の弟として一生こき使える名目ができますしね」


「って、おい!」


「! ふむ。 年齢はシリウス時代のはリセットしたら兄ではなく弟か…… それもまた…… 凄く良いね!!!」


「弟よ。 君の部屋は別にして、扉の鍵含め、セキュリティはかつてない程にゆるゆるにしておくから安心して泊まっていきたまえ!」


「って安心できるか! お断りだ!」


「はは! 冗談だよ! 冗談!」




 いや、このては使えるかも……

 ええ。 いずれ折を見て……



「って二人揃って俺を挟んでのアイコンタクトで悪巧みしてんじゃねえ!!!」


「はは! だから冗談だってば~♪」

「そうですよ♪ 黒崎さん」

 


 いや割と目がマジなんだよな…… 二人共――


 ったく! 昔以上に油断ならなくなりやがって!



「いやホントに大丈夫だと思いますよ。 黒崎さん。 流石にあの大人数の中では流石のリーズさんも間違いは起こせないと思うので…… 残念ながら」


「残念ながらじゃねえ!」


「ったく…… ああもう! わかりましたよ! お言葉に甘えさせていただきますよ!」


「そうこなくちゃ!」

「ふふ! 決まりですね!」


「んじゃ修二! 鍵は閉めてっから電気だけ頼むな!」


「おう! わかった!」


「おやすみ。 祐真君」

「おやすみなさい」

「おやすみ。 また明日な」


「おやすみっす」



 カラン! カラン!



 こうして祐真は三人だけを残し、店を後にするのであった――




「随分と気を遣わせてしまったかな――」


「そうね。 恐らく他の皆も…… まあ酔い潰れてた人達はともかくとして――」


「ああ、確かにこんな時間ってのもあっただろうが、来たばっかりのバゼックや一緒に来た霧島一家もまだ全然飲み足りねえだろうに、それでもあっさり城へと引き下がったのは俺等に気を遣ってくれての事だろうな」


「なにせ僕とエレインが子供の頃からの付き合いだったからねえ…… なんだかあの頃の事が懐かしく思えてくるよ」


「私達が出会ってから千年位経ちますからねえ」


「あの頃は二人共大分拗らせてたもんなあ」


「ユリウスは冷めてたしエレインは狂暴極まりなかったし……」


「はは! 確かに!」


「ぐっ! たっ! 確かにあの頃は多大にご迷惑をおかけしましたが……」


「でっ! でも狂暴は言い過ぎでしょう!」


「狂暴だったよな?」


「狂暴だったね。 間違いなく」


「ぐっ! あー! ハイハイ! すいませんでした! あの頃はご迷惑おかけしました!」


「まあわかればいいよ」


「黒歴史はお互い様だしね♪」


「腹立つ!!!」


「はは……」

「ふふ……」

「クス……」


「はははははは!!!」

「はははははは!!!」

「はははははは!!!」


「はは! まあ、そんな時代もあったって事だよ」


「まあ他の皆には気を遣わせちまったが、少なくとも後発組はまだ向こうで暫く飲んでんだろ? 連中とは後で城で続きを再開するとして今は――」


「ああ」

「そうね」



「ふふ、では改めて――」


「おう――」

「ええ――」


 チンとグラスをまた交わし、談笑する三人――


 暫くの間このひと時を楽しんでから、また城へともどっていくのであった――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る