第156話 天国エリアでの死闘!!

 天国エリア――


 突如として現れたゼクス・ヴォルカノンと名乗る男と対峙していたセシリア・ハーレント。


 セシリアの指示により、周辺の死神達は巻き込まれぬ様に退かせられいた。


 実際、周りに気を使っている余裕等、今の彼女には全くなかったからである。


 敵兵達もゼクスの正体はおろか、敵か味方かもわからない状態であったが、二人の闘いに巻き込まれ、数人程消し炭になったのを見て、遠くへ避難するかの様に離れていった。


 そして二人の闘いが始まって十数分が経った頃……


 ゼクスのその圧倒的なまでの強さの前に、セシリアをってしても劣勢に追い込まれていたのであった。




「ハア、ハア、ハア、ハア…… ちっ! 化け物がっ!」


 強化術等も上手く使用しつつ、何とか凌いでこそいるものの、流石の彼女も膝を着き、息を切らしている。


「はっ! 思ってた以上だ…… この俺相手によく粘ってやがる! 大したもんだぜ!」


「雷遁の術も、ピンポイントで瞬間的に使う事で身体にかかる負荷を必要最低限に抑えるどころか、それを上手く利用して動きに緩急を激しくつけてきやがる」


「俺クラスじゃなきゃ、これじゃ手に負えねーだろうな」


「全く大したもんだったが、今回は相手が悪すぎたな」


「もっと遊んでやりて―が、生憎と俺にも『時間』がねーんだ…… 他にもお前さん以上に興味深い奴等が何人かいるんでな! そんなわけで、そろそろお前さんの相手も終わりにさしてもらうぜ!」



 この化け物がっ! まさかこのアタシが素手の相手に、こうまで遊ばれているなんてっ!


 奴の攻撃を凌ぐだけで精一杯じゃねえか!


 冗談じゃねえ! こんなやべえ奴このまま野放しになんかできるかよ!


 こうなりゃ刺し違えてでも! 何とか奴の隙をついて急所に一撃くらわすしかねえ!


 覚悟を決め、立ち上がるセシリア。



「舐めてんじゃねえぞ! ウルフ野郎!」


「はああああああああああああ!!!!」


 瞬撃特化の術で再度自身に強化をかけるセシリア!


 そこから更に! 自身の気を練り上げる!


「まだだあああああああ!!!」


 その雷の闘気が辺りの大地と空気を激しく揺さぶる!


「!! へえ! まだそんな底力を隠してやがったか! いいねえ!!」


 あの眼…… おそらく捨て身で特攻をかける気か!


 大した覚悟だ…… 殺すのが惜しくなってきたが、これも戦争…… せめてその覚悟に正面から付き合ってやらあ!


 先程までの余裕のある表情から、真剣な面持ちで構えをとるゼクス!


「きな! 受けて立ってやる!!」


「はあああああああああ!!!!」


 待ち構えるゼクスに向かって全身全霊の一撃を以って、飛び込もうとするセシリア!









 その時!

















「下がれ! セシリア!」


「!!!? なに!?」


「!! この声っ!!」


 その漢はゼクスの死角から猛スピードで剣を構え、突っ込んでくる!



「極神流一刀術……」


「炎獄一刀!!」


 !!っ やべえっ!!!


「!!! ぐうぅおうっ!!!!!!」


 ガキィィィィィィンと強烈な斬撃音!!


 咄嗟に両腕でガードするゼクス!


 だがその強烈な一撃はガードごと彼を吹き飛ばし、その後方にある巨大な岩壁に叩きつける!


「がはああっ!!!!!!!!」


 ガラガラと崩れていった岩の下敷きになり埋もれていくゼクス。


 術を解くセシリア。


 驚きを隠せない彼女の視界が捉えたのは意外な人物であった。



「!! あんたはっ!!! 『先代大王』様!!!」


「どうしてここに!? 閻魔の城にいるはずじゃあ!?」


「よくぞ持ち堪えた。 後は私に任せろ!」


「! 任せろって…… ちょっと待ってくださいよ! こいつはアタシが売られた喧嘩だ! アタシが――」


「セシリア!!!」


「!!!」


 気性が荒く負けず嫌いで後を引く気は全くないといった彼女に先代が一喝する!


「残念だが如何いかにお主でもこの漢は倒せん。 ここは私に任せるのだ」


「! 先代様…… こいつの事を知ってんすか!?」


 二人がそう話していると、先程崩れた岩の瓦礫の山からそれを吹き飛ばして出てくる人影が一つ――



「クククク…… 久々に顔を合わしたと思ったら随分と派手な挨拶をかましてくれんじゃねえか……」


「流石にかなり効いたぜ…… 先代大王…… いや! 『ヴァラン・アルゼウム』!」


 !! おいおい嘘だろ!! アレをまともにくらって、ほぼ無傷じゃねえかよ!


 普通なら木っ端微塵で即死だぞ!


 それにヴァラン・アルゼウム…… 先代の真名か!? それを知ってるって事は、こいつ…… マジで何者だ!? 



「久しぶりだな。 ゼクス…… まさか生きていたとはな……」


「セシリア…… こいつはかつて零番隊の『先代総長』を務めていた程の漢だ」


「!! なんだって!?」


「前大戦でもその異名にもなっている『鬼神』の如き圧倒的な強さで瘴気によって生成された無数の敵兵共を蹂躙し、ねじ伏せていった戦闘狂だ」


「だがその大戦で自身の魂魄にも致命傷を負い、大戦終結後、特別治療室で治療を受けていたが、ある日を境に突然姿を消し、それっきりだったが……」


「ここにきて、このタイミングで姿を現すとはな」


「セシリア…… この漢の強さは圧倒的だ…… はっきり言って閻魔一族か女神級でなければこの漢は止められん…… しかも瘴気によって以前より力を増しているみたいだしな」


「だからって!」


「冷静になれ! セシリア! ここで無駄にお前を失うわけにはいかん! それにお前には『彼』と共に急ぎ向かってもらいたい所がある!」


「彼? 向かってもらいたい所?」


「セシリアさん!」


 そこへ上空から現れた飛行艇の無線から彼女を呼ぶ声が鳴り響く!


「! ケイン!? お前っ!? 何でこんな所に!?」


「そんな事より早く乗ってください! 恭弥さんとサアラさんが危ないんです!」


「!! なんだって! どういう事だ!?」


 あれだけゼクスとの勝負に拘っていたセシリアであったが、ケインの言葉に血相を変える!


「詳しくは追って説明します! 早く! 一刻を争います!!」


「ぐっ~~~!!! あぁ~~!! クソっ!! わかった! そういう事ならすぐに向かうぜ!」


「先代様! すんませんがここはお願いします!」


「ああ! それでいい! 早く行け!」


「はい!」


 そのまま飛行艇の甲板へとジャンプして飛び乗るセシリア!


 彼女を回収した飛行艇はそのままこの戦域を離脱! 事前に知らされていたレティによって新しく作られた『ゲート』を経由してショートカットしながら、恭弥達のいるポイントへと向かうのであった。



 そして――



「何だかよくわからねえが、要するに他の劣勢な所の援護にまわしたってとこか。 まあセシリア級あれクラスを俺様にむざむざ殺させる位なら、他の敵兵を狩らせた方が効率的だわな」


「これは戦だ…… 適材適所…… 各々が各々にしかやれない事をやるのは当然の事」


「そんな事より…… 何故黙って消えた…… 私はおろか、ミリアにも黙って……」


「! へっ! 別に…… ただ辛気臭えのが苦手だっただけだよ……」


「特にあいつは幼馴染みだからって、昔から俺のやる事にいちいち口を出して煩かったからな……」


「俺は俺の道を行った…… それだけの話だ……」


 二人のやり取りからして彼等、そしてミリア・アルゼウムにも浅からぬ因縁を漂わせる先代大王とゼクス……



「…… そうか…… まあ、今となってはお前が姿をくらました時、何を想い、何を考えていたのかは想像に容易いが……」


「私もミリアも先程お前の霊圧を感じた時、既に覚悟はできている!」


「お前を滅する覚悟をな!!」


「! へっ! そうこなくちゃな! だが息子に大王の能力を譲った今のお前さんに、昔より力を増した俺の相手が務まるかな?」


「ふん…… 何を言うかと思えば……」


「はあああああああああああ!!!!!」


「!!! なに!?」


 一気に霊圧を解放する先代大王!


 その凄まじい程の巨大な霊圧に度肝を抜かれるゼクス!


「大王の能力を息子に継承したといっても、それだけが私の全てではない」


「能力を継ぐに相応しい強さを得る為に心身を鍛え、極神流を女神殿から授かるのが代々の大王、そして閻魔一族の習わし……」


「能力を失っても、その分基礎に磨きをかけ続ける事によって失った分を補い、更に精進すればいい……」


「それでも足りなければ戦略面でも磨きをかければいいだけの事!」


「武の世界に終り等ない! その者が高みを目指し続けている限りな!」


「お前は私が大王だった頃より弱くなっていると思っている様だが…… 勘違いするなよ!」


「『常に現在いまが全盛期!』 それが本物の武人だ!」


「一瞬たりとも気を抜かん事だ…… でなくば、すぐに後悔する事になるぞ!」


「クク! いいねえ! そうでなくちゃ面白くねえ!」


「舐めた詫びといっちゃなんだが、お前の本気に俺様も本気で応えるぜ!」


 そう言うとゼクスはPSリングから禍々しい形状の剣を召喚した。


 剣と言っても柄の部分しかないのだが、それが明らかに異質な気配を漂わせているのを先代大王は肌で感じ取っていた。


 そしてゼクスはその剣に自身の瘴気を込め始める!


 すると込められた瘴気が、漆黒の炎の大剣へと姿を変え、柄の先へと現れる!


「! 瘴気の炎! その剣は……」


「アランの奴に作らせた特別製だ…… 奴曰く、ある意味、最高傑作だとよ! まあ、俺様じゃねえと真価を発揮できねえポンコツにもなっちまうみたいだが……」


ついの剣 『めつ』…… 使い手の瘴気を刃に変える…… まあ、その気になれば刃状だけじゃねえがな……」


「ついでにその威力は、使い手の瘴気の大きさによって無制限に威力を上げるってよ」


「何が言いてえかわかるか? つまり俺様が使う事によって――」




「こいつは世界最強の剣になるって事だよ!!!」


「テメエの剣もかなりの業物だが、どう見てもこいつには劣るみてーだ…… さて、どうする?」


 確かにその通りであった。


 ゼクスの取り出したその剣は明らかに常軌を逸した気配を漂わせていた!


 だがそれを前にしても先代は心を乱さない。



「…… 確かに、その邪悪な剣は私の剣をも凌駕しているみたいだな」


「だが言ったはずだ! 私も覚悟を決めたと!」


「はあああああああああああ!!!!!」


 先代は更に霊圧を高め、その黄金の炎を纏った霊圧が猛々しく彼の剣に宿る!


「!! マジかよ!! なんて霊圧だ!!」


 いくらこいつでもこの霊圧の高さは異常すぎる!


 明らかに『ありえないレベルで気が跳ね上がりやがった』!!


 一体何を…… !! まさかっ!!


「そういう事か…… テメエ!! 『自身の魂魄を燃焼』させてんのか!」


 魂魄の燃焼…… 禁忌とも言われる文字通り自身の魂を燃やすことによって、一時的に爆発的な力を手にする事ができる強化術!


 先の戦いでレオンがリーズレットに最後の一撃を交差させた時に、一瞬だけ使用した技でもある。


 魂魄は転生時に必要な命の源そのもの……


 長時間使用すると転生ができなくなるのは勿論、自身の身体が消滅する危険性もある諸刃の剣でもあるのだ!


 先代大王のとった行動に驚きを隠せないゼクス……


「正気か!? 仮に俺に勝ててもそれじゃあ無事じゃ済まねえぞ! 転生も不可能だ!」


「その通りだ。 まあ、常に燃やし続ける訳でもないが、この位しないと今のお前の相手は務まらんからな」


 一切の迷いのない眼――


 まざまざとその覚悟を見せつけられたゼクスの顔には笑みが零れる。


 自身が待ち望んだ強敵との闘い!


 それもるかられるか! ギリギリの闘いが自分相手にできる程の猛者!


 それが目の前にいる!


 彼もまた、リーズレットやレオンと同様、本物の戦闘狂であった!



「…… クク…… やっぱお前、イカれてんな! 相当に熱い真似してくれるじゃねえかよ!」


「面白れぇ! 面白れぇよ!! だったら俺の瘴炎とお前さんの魂の炎!!」


「どっちの炎! どっちのが勝つか!!」


「そして俺とお前!! どっちが強ええか!!」


「ここでハッキリさせとこうじゃねえか!!」


「望むところだ!!!!」


 互いに剣を構え、飛びかかる両者!


「オラアアアアアアアアアア!!!!!!」

「はあああああああああああ!!!!!!」


 激しい激突音と共に両者の剣が真っ向からぶつかり合う!


「ぬうううううううううううう!!!!!」

「ぐうううううううううううう!!!!!」


 互いの渾身の初撃を皮切りに無数の剣撃を激しく交わし合う二人!


 全くの互角!


 一撃必殺級の破壊力を帯びたその一撃一撃は、まさに互いの誇りと魂を込めた強烈なもので、闘いが始まって早々、二人の闘いは周辺の地形が変わってくる程に激しいものとなっていった!


「らああああああああああ!!!!!!!」

「おおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 またも激しくぶつかり! 鍔迫り合いをする二人の猛者!


 激闘は続く!

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