第154話 創まりの魔女
グランゼウス要塞 屋上――
そこに降り立つは各エリアに助っ人を配置し、更にはとあるポイントに仕掛けを施し、帰ってきた『
「!? なんだあ!? 貴様らは!?」
周辺には地上を襲っている敵兵だけでなく、当然飛行型の魔獣も複数飛び交っており、彼女達の姿もその視界に捉える!
「! なんじゃ、こんな所まで迫ってきておったのか。 全く…… 詠唱の邪魔じゃのう。 しょうがない。 先に始末するかの」
「!! あぁ!? 聞こえたぞ! 小娘! 俺達を始末するだとぉ! 舐めた口を
「生意気な! 二人まとめて
「
「よい。
雫を制し、レティは右手に持っていた
「おらああああああああ!!!」
「らあああああああああ!!!」
「はあああああああああ!!!」
飛び掛かる三体の魔獣!
「やれやれ…… 誰が小娘か…… 口の利き方がなってないのはお主らの方じゃ」
「来世では気を付けるのじゃな」
「はああああああ!」
魔力を練り、金色と化すその両の瞳!
練った魔力をそのまま冷気を帯びた力へと変換させるレティ!
そしてそのまま己が武器にその力を集約させる!
「氷花……」
「円舞輪!」
「!」
「!」
「!」
彼女が敵とすれ違い様に武器を振り下ろしたその時!
その背後には巨大な氷でできた蓮の花が形成されていた!
そして三体の魔獣はその中に氷漬けとなって既に絶命している!
正に一瞬の出来事であった!
「身の程知らずが……」
「消えよ!」
その言葉と共に、蓮の花は大きく音をたてて、中の魔獣ごと粉々に崩壊するのであった!
強い――
流石師匠……
極神流薙刀術 免許皆伝の腕前に自身の魔術を織り交ぜた師匠独自の薙刀術……
強力無比な魔術だけでなく、薙刀術による接近戦も隙が無い!
運動不足で鈍ってるとは思えない戦闘力だわ……
だけど……
「さて……」
一息つくと、そのまま自身の武器を杖に戻すレティ。
そして再び魔力を練り始め、呪文の詠唱を唱え始める!
「はあああああああああああ!!!!」
「! 師匠! やはりもういいです! 一度休みましょう!」
雫の制止も聞かず呪文の詠唱を始めるレティ!
口では何だかんだ言いながらも、彼女なりに天界の現状を放っておく事はできないでいたのだ!
杖を頭上に掲げ、その天には白銀に輝く巨大な球体状の魔力が形成され始める!
「我、魔の力を宿す絶対なる支配者なり」
「その裁きの力を以って、邪悪な意志を祓いし流星の刃と化せ!」
「
杖を振り下ろすと同時に、球状の魔力から無数の光の矢が要塞全域に降り注ぐ!
「うわっ! なんだ!?」
「! あぶなっ! …… あれ?」
「すり抜けた!?」
「ぎゃあああああああああ!!!」
「ぐああああああああああ!!!」
「ぎぃえええええええええ!!!」
「!! これは…… 敵兵だけに!?」
レティの放った光の矢は強い瘴気に
聖なる気と魔力をブレンドしたその力は悪しき心を持つ者にだけ裁きを下す!
清い心を持って正義の為に戦っている天界側の戦士達には当たっても影響はないのであった!
とはいえ、流石に魔力を使い過ぎたのか、球状の魔力のエネルギー体は、すぐに弾ける様に消え、そこから降り注ぐ光の矢も消失していった!
それでも、今の一瞬で数千もの敵兵を討つ事に成功している……
いるのだが……
「凄い…… 流石ですね。 師匠」
「何を言う。 これ位、今のお主ならすぐにできる様になるさ」
「精進します」
「よし! 雫! 今のうちに残りの敵を掃討しつつ要塞全域に障壁を張り直し、態勢を立て直せ!」
「わかりました! ですが師匠…… お願いですから、そろそろお下がりに……」
雫がそう言いかけた次の瞬間!
「!!! ごふっ!!!」
「がっ!! はぁっ!!!」
突如として大量の吐血をするレティ!
「!! 師匠!! 大丈夫ですか! 師匠!」
堪らず両膝を地につけ、うずくまるレティ!
彼女の顔色がどんどん悪くなっていく!
「ハア! ハア! がはっ! …… ああ…… 流石に頑張りすぎた様じゃな…… 全く…… 不便な身体じゃのう……」
「魔力の使い過ぎです! ちゃんと『ご自身の御身体』を考えて下さい!」
雫は急いで自身の膝にレティを仰向けで寝かせる様にして、右手と左手から異なる力を発して、レティの胸部と腹部にその両の手を当てる。
右手から発している青い光は魔力……
左手からは金色の純粋な霊力…… 治癒の気を発している。
レティの体質は諸事情により、かなり特殊なもので、普通の治癒術のみではこの症状は緩和されない。
魔力も同時にレティの身体に流し込む事でようやく彼女の身体を癒す事ができるのであった。
とりあえず場所も場所…… いつ、残りの敵兵や魔獣に襲撃されるかもわからない状況……
なるべく早く要塞の中に入って、安全な場所で彼女の治療を続けなければならない!
だが彼女をすぐには動かせない。
雫は五分程、辺りを警戒しながらもその場でレティに治療を続けるのであった。
そして、彼女の顔色が少し良くなってきたのを確認してから声をかける雫。
「…… 少しはマシになりましたか?」
「…… うむ…… すまんの、雫……」
「いえ、そんな……」
いつもの気丈な彼女からは想像がつかない程に声が弱く、消沈した様な表情をうかべる雫。
余程レティの事が心配なのであろう。
そして、そんな彼女にこの様な
やれやれ…… お主のそんな表情は見たくなかったのじゃが……
久々に暴れたから、己の限界を見誤ってしまったか……
失敗したかのう……
…… これは妾の問題……
妾が自分で選び、そして歩んだ道……
これは、その結果……
だからお主がそんな
複雑な感情を巡らせながらも、ゆっくりと呼吸を整えるレテイ。
そして……
「…… よし! もう大丈夫じゃ! 大分楽になった! 礼を言うぞ! 雫!」
笑顔でハキハキとした声で雫に声をかけるレティ。
勿論やせ我慢である。
雫もそれに気付いている……
正確には、多少動かしてもいい位には回復しているが、逆にいえば、そこまでしかまだ回復していない。
早急に『下で用意した魔力供給用の結界』の中に連れて行かなければ……
「師匠! でしたら急いで先程管制室の中に作った結界の中へと行きましょう!」
「暫くそこで安静にしてれば大丈夫ですから! さあ行きますよ! 師匠!」
そう言って雫は彼女の身体を抱き抱える。
…… お姫様抱っこの形で。
「!! いや、お主! お姫様抱っこって! 恥ずかしいわい! 妾は別に一人ででも歩け……」
「ダメです!」
「いや、雫……」
「
有無を言わさずとは正にこの事!
一切の反論を許さない雫!
これ以上無茶しないでといった師を心配する感情と、こんな時位言う事聞けといった感じの怒りの感情が同時に湧き上がっている雫!
正直かなりの迫力である……
「…… ハイ……」
根負けしたレティ。
「まあ、いい。 もしもの時の為の『仕込み』も済ませてきたからの…… 一回限りの焼け石に水もいいとこであろうが、ないよりはマシだ…… やれることは大体やったじゃろ……」
「雫よ…… 後の事は頼むぞ」
「ええ! 任せて師匠…… だから今はゆっくり休んで…… 本当に…… ありがとう…… 師匠……」
「うむ…… しかしアレじゃのう…… 雫よ」
「何です?」
「いや、今気付いたのじゃが、こうしてお主の顔を見上げているとな……」
「中々のイケメンではないか! お主! 同性の妾もこの状況…… 正直、ちょっとドキドキしているぞ♪」
「ぶん殴りますよ、師匠。 本当に!」
「なんで!? 褒めたのに!」
「嬉しくない! 年頃の女性に向かって何を言い出すかと思えば!」
「いや年頃って、お主も結構いい歳……」
「あぁ!?」
「…… なんでもないです……」
「全く! 甘い顔したらすぐこれだわ! 後で覚えておきなさいよ! 師匠!」
「そ、そんな怒るでない! 雫~!」
「ふん!」
こうして、いくつかの策を張りつつ、レティは雫に抱きかかえられ、管制室へともどっていくのであった。
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