第152話 同胞達!

 グランゼウス要塞 管制室――


 諜報部 室長 久藤雫の前に『突然』姿を現した白髪の女性は雫から各エリアの大まかな状況を聞いた後、思念波を通して誰かと連絡を取り合っていた。


「―― わかった! わかったから! 久しぶりの可愛い姉からの連絡にもうちっと優しくできんのか! お主は!」


「何? 全然可愛くない!? お主! 姉に向かって! そんな事言うと、わらわ泣くぞ! それはもう滝の様に涙を流して、お主の悪口ご近所さんに漏らしながら、ある事ない事吹いて泣くぞ! 良いのか!?」



「…… あ、ゴメンナサイ。 チョーシのりました…… ハイ…… スイマセン…… だから怒らないで…… ハイ…… ハイ…… スイマセン…… ハイ……」


 暫くやり取りした後、クルっと雫の方へと向き両手を腰に当て、頑張って強がりながらも偉ぶり、そして雫にこう告げる。


「…… ふう! ま、妾にかかれば、あ奴も妾の言いなりよ! これで許可はとったぞ! さあ、反撃の狼煙をあげるぞ! 雫よ!」


「滅茶苦茶、涙ぐんでいるじゃないですか。 師匠先生


「なっ! 泣いとらんわい! うぅ…… ぐすっ……」


 あー、泣いちゃった…… 相変わらずメンタル弱いわね、師匠……


 雫は師匠と呼んだその白髪の女性を抱き寄せ、頭をナデナデしてあげて彼女のメンタルの回復を図る。


「はいはい、よく頑張りましたね師匠。 エライエライ」


「うぅ…… 雫~~!」


「よしよし…… 泣かない、泣かない…… って鼻水ついた!!! 何してくれてんの!師匠!!」


 両の手で師匠の頬を左右に引っ張る雫。


「イダダダダダダ! でっ! 弟子が師匠の頬をつねるとは何事だ!」


「全くもう!」


 ハンカチで自身の制服に着いた師匠の鼻水をふき取る雫。


 あ~! もう! また泣き出した! 四千歳超えてる大の大人がっ!! 本当にもう手のかかる人ね!! まあ、ちょっとだけ可愛いけど……


 イライラしつつもまた師匠を宥めようとする雫。


「あの~、室長?」


「だっ…… 大丈夫ですか?」


 何が何だかわからないといった管制室の部下達が雫に声をかける。


「ええ。 ちょっとした癇癪かんしゃく起こしてるだけだから気にしないで」


「は、はあ……」



 ―― 5分後……



「…… オッホン! え~、そしたら妾はこれからさっき言った各ポイントに『ゲート』を設けてくる。 五分程でもどる! 準備しておけ! 雫よ!」


 ようやく泣き止み、ビシッとした決め顔で雫に指示を飛ばす白髪の女性。


「わかりました」


「うむ! ああ、そうだ…… 後であやつにも連絡せんと…… またうるさそうじゃな……」


 まだ誰かに連絡事項があるのか、そしてまだ怒られる予定があるのか、再びテンションが下がり始める白髪の女性。



 また落ち込んできた…… 本当にこの人は…… だけど……


 溜息を吐いた後、それまでとは打って変わって彼女の身を案じる雫……



「師匠…… ご無理はなさらず…… 『色々な意味』で…… 転移術も『門』の作成も…… 思念波だって、かなりの魔力を消耗する類の高位の術ばかり…… 勿論、回復薬は用意しておきますが…… どうかご自愛下さい……」


「! わかっておる。 すぐにもどるよ…… また後でな、雫……」


 心配そうに声をかける雫の気持ちを察したか、先程までの頼りなさそうな態度とは別人の様な優しい…… まるで大人が子をあやすかの様な表情で雫に応える白髪の女性……


 そして次の瞬間、その女性は文字通りその場から姿を消す!


「きっ…… 消えた!」


「まさか…… 転移術!?」


「しっ! 室長! あの女性は一体?」



「…… 『はじまりの魔女』……」


「え?」


「あの方は私含む全ての魔女の長にして頂に立つ人物…… 魔女の始祖にあたる御方……」


「レティシア・アルゼ…… いえ……」


 そう言いかけたが、溜息を一つ漏らした後、言い直す雫…… 




「レティシア・ルーンライトよ」




 ステーションエリア 中央区画――




 ここでは神獣グライプスとその相方 零番隊の銃使い リリィ・カートレットの指揮の下、上手く敵兵を殲滅しつつ、敵側もここのエリアに人員を割くのが段々難しくなってきた事から、徐々にではあるが優勢に持ってくる事ができてきていたのだった……



「ふう…… 何とか抑えていますが……」


 とはいえ、同じく零番隊所属のアイオス・ルーベルトが要塞方面にフォローにまわってしまった為、決して気が抜けず膠着状態に近い状態ではあるのだが……



 そんな中、彼女の耳元で大きな声が鳴り響く!!



「―― なんだとぉ!!!!」


「わっ! ちょっとグーちゃん! いきなり耳元で大きな声出さないで! びっくりするでしょ!」


「むっ! スマン!」


「何を勝手に! …… 駄々をこねられたからといってお前な! …… ええい! すぐ泣きそうになるな! これじゃ我がお主をいじめているみたいではないか!」


「…… わかった! わかったから! 我が言い過ぎたから! …… ああ、今度あの新作ゲームも貸すから! だから泣きやめ! …… いや、涙声だし…… わかったから! ああ、ああ…… わかった! それにも付き合うから! ああ! こっちは何とかする! ではな! お主も気をつけろよ!」


 思念を切るグライプス…… 


 そして……



「…… はあああああ~~~~~~〜〜」


「どっ! どうしたんですか、グーちゃん? 心の底から全力の溜息が漏れていますけど……」


「いや…… たった今、レティから思念が届いてな…… どうやら『連中』がしびれを切らしてしまったらしい……」


「連中…… ! まさか! 『あの子達』が!?」


「うむ…… 彼等の長として、あまり眷属の者達は巻き込みたくはなかったのだが…… 動き出してしまったのでは、致し方ない」


 悩ましい表情をうかべるグライプス。


 その話を聞いてリリィも同様の表情をする……


「ここは彼等に甘えさせてもらうとするか……」


「うぅ…… 心配かけちゃったみたいですね…… 何だか申し訳ないです。 厳密には彼等は治安部でもないのに……」


「ああ、だが恐らくこの大戦もここらが勝負所! 我等もできれば動きたいと思っていたところだったしな…… 巻き込みたくない等、我のエゴだったかもしれん……」


「奴等もまた…… 大切なものを守りたいからこそ、じっとしていられないのだろう……」


「グーちゃん……」


「そうですね…… 私もです…… 守るだけじゃなく守り守られ…… きっと守られっぱなしも辛いのでしょうね……」


「ふう…… よし! 覚悟を決めましょう! グーちゃん! 私も…… 覚悟を決めます!」


「うむ!」


「大まかな位置はわかっているみたいだし、匂いでもわかるだろうが…… せっかくだ!」


「狼煙代わりにあげさせてもらうとしよう!」


 そう言ってグライプスは天高く神々しく! そして猛々しいまでの咆哮を大きくあげる!



「ウオオォォォーーーーーーーーーン!!」


 辺り一帯に鳴り響くその咆哮に敵味方共にあっけにとられている!


 そして……



「来るがいい!!」



「我が同胞達よ!!!」



「我に力を貸してくれーーーーーー!!」


 大声で叫ぶグライプス!


 すると……
















































 ドドド、ドドド……

 ドドド、ドドド……


 ドドドドドドドドド…… 

 ドドドドドドドドド……


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!


 地響きと共に、まるで何か大多数の者達が迫ってくるかの様な行進音が鳴り響く!!



「? 何だ? この音…… それに…… 地震?」


「!! おっ おい! あれ!!!」


「あぁ? なんだ、どうし…… !!!」


「なっ! なんだああああ!?」


「なんだああ!? あの獣の大群はぁ!!!!?」


 なんと遠方からとんでもない数の獣の群れ…… 正確には狼と犬の混成部隊が全員! 黄金の闘気を纏ってこちらへと向かってきている!


 その数、およそ一六〇〇もの大軍団!!


 先頭の雄のシャイロシェパードを更に大きくした様な犬と、雌の北極狼の様な姿をした二頭がその大群を率いている様だ!



 しかも……



「大将! リっちゃん! 水くせえぞ! 何故、俺達をすぐに頼らねえ!!」


「本当よ! あんまり遅いから、こっちから出向いてきてやったわ!」


「うぬら!」

「皆! 来てくれたのね!」


 何と全員、人語も喋っている! 闘気を纏っている事といい、誰の目から見ても、ただの獣達ではないのは一目瞭然であった。



「なんだ!? こいつら!? 獣が喋っているぞ!」


「まさか…… 神獣の仲間か!?」


 動揺する敵兵達に容赦なく襲い掛かる犬狼部隊!!!


「いくぞ! テメーら! 一匹残らず敵を狩りとれーーーーー!!!」


「天界の…… 私達の仲間に手を出す奴等を後悔させてやるわよ!!!」


「オオオオオオオオオーーーーー!!!」


 強力な助っ人達の登場!!


 駅エリアの均衡をさらに崩す事ができるのか!?

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