第二十話 ショタは巨大モンスターと遊ぶ

『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォォン!』


突然ウイークさんが霧に包まれてモンスターに姿を変えた。


 建物と同じくらいに大きくなり、口は横に裂けて鋭い牙がある。皮膚はゴツゴツしており、黒光りしている。そして長くて太い尻尾が生えた。


「まさか、ウイーク殿が巨大なモンスターになるとはな。ソフィー、ラルスを連れて逃げるんだ。ワタシが時間を稼ぐ」


 剣を構え直して僕たちに逃げるように言うけど、どう見てもシルヴィアお姉さん1人では、時間稼ぎすらできないような気がした。


 何か良い遊びはないかな? あの巨大なモンスターさんと戦える遊びは?


 一生懸命に考えていると、人が巨人になってモンスターさんと戦う物語を思い出す。


 できるかどうか分からない。だけどごっこ遊びとすれば、もしかしたら奇跡が起きるかもしれない。


 頭の中でイメージを膨らませてユニークスキルを発動する。


 お願い! 上手くいって! 嫌いなビーマンも食べるから、ソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さんを助ける力を今だけ頂戴! 神様!


 両手を組んで、心の中で神様に祈りを捧げる。すると、その瞬間僕の体が光出した。


 この感覚、もしかしたらいけるかもしれない。


「変身! ジュワッと!」


 右手を突き上げる。その瞬間、瞬く間に目に映る光景が一気に変わった。


 周辺にある建物と同じくらいの背丈になり、足元には虫さんのように小さなソフィーお姉さんと、シルヴィアお姉さんが居た。


「ラル君が巨大化した!」


「ワタシは幻覚でも見ているのか? こんなことが現実に起きるなんて」


 突然僕が巨大化したことで、お姉さんたちが驚きの声を上げる。


「今の僕はウラトラマンになって、悪いモンスターさんを倒すごっこ遊びをしているんだ。上手く行くかは分からなかったけれど、神様が奇跡を起こしてくれたみたい」


「ウラトラマンって、あの物語に出てくる巨人になれる子ども?」


「ごっこ遊びで物語の登場人物になることができるとはな。ラルスは本当に規格外な力を持っている」


 お姉さんたちが言葉を漏らす中、モンスターになったウイークさんの方を向く。


「ウイークさん。これ以上ソフィーお姉さんやシルヴィアお姉さんに迷惑をかけるなら、容赦はしないよ。僕が相手になるから」


 物語の登場人物と同じ構えを取り、ウイークさんに語りかける。


『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォォン!』


 だけど言葉が通じていないみたいで、ウイークさんは吠えると突っ込んでくる。口を大きく開けて鋭利な牙を突き刺そうとしてきたけれど、体を90度回転させて攻撃を躱す。


 そしてモンスターさんの背後に周り、尻尾を掴んだ。そしてそのままソフィーお姉さんたちから距離を空けるように引っ張り、後に下がっていく。


 うん、思ったよりも重くない。ユニークスキルの力で、肉体強化の魔法も同時に発動しているみたい。


 これなら、モンスターになったウイークさんを倒すことができる。


「行くよ! それ!」


 腕に力を入れて振り上げる。するとウイークさんの体が浮いた。


 モンスターの体を浮かすことができた! 楽しい!


 普段できない経験に、思わず興奮してしまう。


 もしかしたら、ウイークさんを吹き飛ばすことができるかもしれない。


 自分の位置を軸に、腕に力を入れて回転させ、浮いた状態のウイークさんから手を離す。するとモンスターの体は吹き飛び、建物に当たると下敷きにした。


「あちゃ、やり過ぎちゃった」


「ラルス! この村の建物は後で解体する予定だ。だから遠慮することなく全力で戦ってくれ! むしろ解体費用がかからなくって助かる」


 少し離れた位置からシルヴィアお姉さんが叫ぶ。


 なんだ。後でここにある建物を壊すんだ。なら、全力で暴れても良いよね。


「それじゃあ、ウォーミングアップは終わり! ここから本気でいくからね!」


 ゆっくりと起き上がるウイークさんに、今度は抱き付くように飛び掛かる。モンスターさんの体に腕を回すと、すぐにジャンプをした。


 僕の中では、軽くジャンプをしたつもりだった。だけど体が大きい分、脚力も上がっているみたいだね。建物が小さく見える。


 高い位置に到達すると、そのままウイークさんを地面に投げ飛ばす。顔を下げて下を見ると、へばり付いたカエルのような体制で、ウイークさんが倒れていた。


 だけど指がまだ動いている。まだ、ウイークさんを倒すことができていない。


 こうなったら、ウラトラマンの最終奥義を使うしかない。


 構えを取り、上手く成功するように神様に祈りを捧げる。すると、目の前に光り輝くものが現れる。


 できた! 後はこいつをぶつけるだけ!


 だけど、最後の最後で僕はやらかしてしまう。


 えーと、この最終奥義の名前って何だったかな?


「えーと、何だっけ? 忘れた!」


 早くしないと、目の前に現れた光り輝くものが消えてしまう。こうなったら仕方がない。技名なんて何でも良いよね。


「食らえ! なんかすごいビーム!」


 声を上げ、光り輝く物体を解き放つ。僕から放たれたビームはウイークさんの体に直撃した。


『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォォン!』


 ウイークさんの叫び声が聞こえる。その瞬間、僕の体は元のサイズに戻った。


 そうだった! ウラトラマンは時間制限があったんだ!


 ウラトラマンは巨大化できる時間に制限がある。そのことを忘れていた僕は、そのまま落下した。


 僕はここで死ぬの? 勇者にはなれなかったけれど、ソフィーお姉さんたちを守れたのなら良いか。


 今までありがとう。


 お姉さんたちに感謝の言葉を心の中で言っていると、体に激痛が起きることなく、柔らかい感触を感じる。


 何が起きたのか分からず、瞑っていた瞼を開けた。目に映った光景には、ソフィーお姉さんの顔があった。どうやら僕は、またソフィーお姉さんに助けられたみたいだ。


「ソフィーお姉さん、ウイークさんは?」


「あの男は、光を浴びた途端に消えたわ」


 消えたと聞き、廃屋敷にいた鎧のモンスターさんたちのことを思い出す。


 ウイークさん、無事に成仏してくれると良いなぁ。


 そんなことを思っていると、戦いの疲れが一気に来たようで、瞼が急激に重くなり、とても眠くなる。


 我慢することができなかった僕は、そのまま瞼を閉じて眠りに付いた。

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