第十六話 あなたはシルヴィアお姉さんの婚約者!

~ラルス視点~






 野盗の人に騙され、僕は小部屋に閉じ込められてしまった。


 扉には鍵かかかっており、ドアノブを握って回しても動くことはなかった。


 どうにかしてここから逃げ出すことができないか考えてみるも、中々良いアイディアが思い付かない。


「どうすればこの部屋から脱出することができるのかな?」


 僕の持つユニークスキル【遊び】でどうにかできないかと考えてみたけれど、これと言って使えそうな遊びがない。


 鬼系は僕1人ではできないし、水鉄砲は水がないと使えない。


「こんな時に、魔法が使えたなら脱出できるのに」


 魔法で水を生み出すことができれば、それと水鉄砲を組み合わせてウォーターカッターと言う、水の力で吹き飛ばして穴を開ける魔法を使用することができる。


 それが発動できれば、鍵を壊して逃げ出すこともできるのに。


「はぁー、でも、ない物強請ねだりをしても何も変わらないよね」


 小さく息を吐く。その時、足音が聞こえてきた。だんだん大きく聞こえて来ることから、こっちに来ていることが分かる。


 扉に耳を当て、聞き耳を立てる。


「こちらです。この部屋に礼のガキを閉じ込めております」


 扉越しに、父親だと嘘を着いた男の声が聞こえてきた。


「そうか。では、早速確認をするとするか」


 続いて違う人の声が聞こえてきた。この声はどこかで聞いたような気がする。だけど、この声の人物が思い出せない。


「よぉ、元気にしているか? 数日ぶりだな。サーカスではアク団長を捕らえるのに貢献してくれてありがとう」


 サーカスやアク団長と言うワードが耳に入り、思い出す。


 この声は、シルヴィアお姉さんに振られたあの男の人の声だ。


「どうしてシルヴィアお姉さんに振られたお兄さんが、野盗と一緒に居るの?」


「このガキ! 平然と人の傷口を抉りやがって!」


 思ったことをそのまま口に出すと、なぜかお兄さんは声を荒げる。


「私にはウイークと言う名がある! あの女に振られたとか言うな! おい、なんだその目は! お前たち、私を憐れむような目で見るな!」


 扉越しに対面しているだけだから、扉の向こう側で何が起きているのか分からない。でも、ウイークさんが嫌な思いをしていると言うことだけは何となく分かった。


 ウイークさん傷付いているな。ここは謝らないと。


「ウイークさん、さっきはシルヴィアお姉さんに振られたとか言ってごめんなさい。二度とシルヴィアお姉さんに振られたとは言わないから」


「二度と言わないと言っておきながら、もう1回言っているじゃないか! お前絶対にわざとだろう!」


 傷付けてしまったことを謝ると、ウイークさんは再び声を上げる。


 わざと言っていないのに、どうしてそんな勘違いをしてしまったのだろう?


 何が悪かったのかが思い当たらず、首を傾げる。


「まぁ、良い。確認はできた。お前は間違いなくラルスだ。おそらく助けに来たと勘違いをしているかと思うが、残念だったな。私は貴様を助けに来たのではなく、本人確認のために来たのだ……確認は済んだ。報酬は後ほど送る。煮るなり焼くなり好きにするが良い」


「分かった。あのガキからは金の匂いがする。他にも使い道がないか調べるさ」


 口を挟む間もなく、ウイークさんとお父さんに成り済ました野盗の男が会話をする。


 どうやらウイークさんが野盗と手を組んで僕を攫ったみたい。でも、どうして僕を攫ったのだろう? 僕なんかを攫ったところで、お兄さんに得はないような気がするのだけど?


 そんなことを考えていると、今度は大きな足音が聞こえてきた。


「大変だ! 襲撃者だ!」


 大きな足音を出していると思われる人物が声を上げる。


 この声は、僕をこの村に連れて来たあの冒険者さんだ。


「襲撃者だと!」


「ああ、女2人組だ。茶髪のセミロングで、毛先にはウェーブがかかっている女と、青い髪を長く伸ばしている剣士だ!」


 茶髪のセミロングの女性と長い青髪の剣士……もしかしてソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さん!


 特徴だけでは決め付けられないけれど、お姉さんたちの可能性が高い。


「長い青髪の女剣士……もしかしてシルヴィアか。ラルスを取り戻しに来たのか。くそう、発見されるのが早すぎる。この村にいることを彼女に見られる訳にはいかない」


 冒険者の格好をしたおじさんの言葉を聞き、ウイークさんもシルヴィアお姉さんを思い浮かべたみたい。


「私は彼女に見つかる前に逃げさせてもらう。私の仕事はラルスの確認だ。この村で起きた襲撃事件は、村のお前たちだけで解決しろ!」


 ウイークさんが大きい声を上げると、足音が遠ざかっていく。どうやらウイークさんは逃げたみたい。


 もし、この村を襲撃しているのが、ソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さんだったのなら、無理にここから脱出しようと考える必要はない。


 お姉さんたちが助けに来てくれた。そう思うと何だか安心してしまい、硬いベッドに腰を下ろす。


 早くソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さんが助けに来てくれないかな。

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