第十三話 ショタはご両親と会う

 僕のお父さんとお母さんが居ると言うことを冒険者のおじさんに教えてもらい、馬車に乗って連れて行ってもらっている。


 僕のお父さんとお母さんってどんな人なのかな? お母さんはソフィーお姉さんみたいに優しく、お父さんはシルヴィアお姉さんみたいに強くて格好良い人だと良いなぁ。


 そんなことを思っていると、遠くの方で村のようなものが見えた。


 あそこが僕の故郷なのかな?


 次第に近付く建物を見て、ドキドキしてきた。


 馬車が村の中に入ると、いくつかある建物の中でも一番大きい家の前で馬車は止まった。


「さぁ、着いたぞ。降りてくれ」


 おじさんに降りるように言われ、助手席から降りる。すると御者席から降りたおじさんが近付き、僕の手を引っ張って家の扉の前に連れていく。


 このおじさん、子どもの扱いがなっていないな。そんなに強く引っ張ったら、痛いってことがわからないのかなぁ?


 扉の前に立ったおじさんが、扉を3回ノックする。


「俺だ。連れて来たぞ」


 おじさんが僕を連れて来たことを言うと、扉が開いた。扉の奥には、茶髪の長い髪の女性と、赤髪の短髪の男性が立っていた。


 女性が僕を見ると体をかがめて強く抱き締めてくる。


「ラルス! 本当に良かった。あなたが居なくなってから、本当に心配したのだから!」


 お母さんと思われる女性が目尻に涙を溜めながら声を上げる。


 何だろう。同じように抱きしめられているのに、ソフィーお姉さんとは違うような気がする。


 ソフィーお姉さんは、優しく包み込むように抱きしめてくれるのに、お母さんは力強く抱き締めている。


 母親と親しいお姉さんの違いなのかな?


「ご苦労だったな。お前には後で礼をする。今日のところはこのまま帰ってくれ」


「分かった。では、後程また会おう」


 お父さんが冒険者のおじさんに声をかけると、おじさんはこの場から離れて行く。すると、お母さんは抱き締めていた腕を離し、立ち上がるとお父さんと目を合わせる。


「とりあえずは中に入りましょうか」


「そうだな。扉を開けたままでは、家の中をご近所さんに見られてしまう。今は部屋が散らかっているからな」


 お母さんが僕の背中に手を当て、家の中に入るように勧める。


 両親に迷惑をかける訳にはいかない。僕は家の中に入ると、扉が閉められた。


 辺りを見渡すけれど、家の中は散らかってはいなかった。最低限の物はテーブルの上に置かれているけれど、ちゃんと整理整頓ができている。


 棚には高価そうな装飾品の数々があるよ。僕のご両親ってお金持ちだったんだ。


「ラルスの部屋はこっちよ。付いて来なさい」


 付いて来るように言われ、お母さんの後を着いて行く。すると、小さい扉の前に辿り着いた。


 この先が僕の部屋なのかな?


「さぁ、着いたわよ。ここが今からあなたの部屋となる場所よ。自分で開けなさい」


 扉を開けるように言われ、ドアノブを握って扉を開ける。


 すると、中にはボロボロのベッドや机などがあるシンプルな部屋だった。おもちゃも絵本もない。そして窓もないから薄暗くってジメジメしており、長時間いると気分が悪くなりそうな印象の部屋だった。


 あれ? どうして僕の部屋はこんなにボロボロなのかな? ダイニングにあった高価そうな装飾品を見る限りだと、なんか不自然すぎるような?


「ラルスは記憶がないから覚えていないのかもしれないけれど、昔のあなたは、ボロボロでジメジメしている薄暗い空間が好きだったのよ」


 どうして他の部屋と違うのか疑問に思っていると、お母さんが部屋の説明をする。


 あれ? どうして僕が記憶喪失になっていることを知っているのかな? 冒険者のおじさんは話していなかったよね。


 僕が記憶喪失であることを知っているのは、ソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さん。それにギルドに在籍している冒険者の一部だけ。冒険者のおじさんは知っていたかもしれないけれど、それを話しているところを見ていない。それなのにどうしてお母さんは、僕が記憶喪失になっていることを知っているの?


「どうしてお母さんは、僕が記憶喪失になっていることを知っているの!」


 不思議に思い、お母さんに聞いてみる。その瞬間、勢い良く扉が閉められた。


「どうして何も答えてくれないの!」


 声を上げながら、扉を開けようとドアノブに手を置き、回そうとする。けれどドアには鍵をかけられているようで、扉が開くことはなかった。


「どうして鍵をかけるの! これって変じゃない! どうして鍵をかけるの! それにどうして僕が記憶喪失になっていうことを知っているの!」


 疑問に思ったことを解決するためにお母さんに聞く。


「ギャーギャーうるさいわね! あんたは捕まったのよ! アタイたちは野盗よ。お前には懸賞金がかかっていてね。生きた状態で長年拘束しているだけでアタイたちに金が入ってくるのよ。殺されないだけマシだと思いなさい」


 え! 僕のお母さんってそんなに悪い人だったの!


「お母さん! 野盗なんてことをしたらダメだよ! そんな悪いことを仕事にしたら、死んだ時に神様に地獄に落とされてしまうよ!」


「勘の悪いガキねぇ、アタイはあんたの母親でも何でもないわよ! 懸賞金を目当てに、ある人物から捕まえておくように言われているから閉じ込めているだけさ。早くそのうるさい口を閉じないと、あんたの大事なものを目の前で壊しやるからね」


 大事なものを壊すと言われ、脳裏にソフィーお姉さんたちが思い浮かぶ。


 ソフィーお姉さんたちに迷惑をかけたくない。


 こうなってしまったのも、おじさんを信じてしまった僕の責任だ。


 仕方なく口を閉じると、野盗のおばさんは離れたのか、遠ざかって行く足音が耳に入る。


 こうなったら、ここから脱出する方法を探さないと。

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