第十一話 おのれ!よくも私を婚約破棄したな!

~ウイーク・マッタン視点~





 婚約者候補から婚約を断られ、私はしばらくの間棒立ちしていた。しかし、我に返ると拳を強く握る。


「そうですか。それは気が付かなくってすみませんでした。では、また日を改めてあなたのお兄様にはご連絡をしておきます」


 軽く会釈をすると、踵を返して彼女たちに背を向ける。


「私は先に返る。お前たちは後始末をしておけ」


 護衛の兵士たちに残りを任せ、宿屋へと帰る。








「くそう! くそう! くそう!」


 その日の夜、私は声を上げながら怒りの感情を吐き出していた。


「くそう! 何が婚約をするつもりはないだ! この私が婚約破棄をされた? ふざけるな! 私は地元では多くの女にチヤホヤされ、貴族令嬢たちからも求婚を迫られたこともあるんだぞ! くそう! くそう! くそう!」


 ベッドを何度も殴り、怒りの吐口にする。


「この私のプライドを傷付けやがって! 一般兵士の分際で!」


 何度もベッドを殴っていると、さすがにストレス発散になったようで、次第に冷静さを取り戻していく。すると、あるアイディアが思い浮かんだ。


「そうだ。こうなったら、何が何でもあの女を私の妻にしてやる。そしてメイドたちと一緒に雑用をさせ、一生こき使ってやる」


 シルヴィアをどうやって自分のものにするのか、思考を巡らせる。


「そう言えば、あの女はあのクソガキがいるから婚約をしないと言っていたな。本当にあのガキは私の邪魔をしてくれる」


 歯を食い縛りながら、本日の午後のことを思い出す。


 本来であれば、私の雇った役者に演技をさせ、問題が発生したと見せかけてシルヴィアを誘き寄せるはずだった。けれど、彼女よりも先に来たのはあのラルスとか言うガキだった。


 ガキが1人来たところで計画には支障がない。そう思っていた。けれど、あのガキは予想外に強く。役者の男を倒してシルヴィアが来る前に騒動を終わらせやがった。


「くそう。思い出しただけでムカムカしてくる。あのガキのせいで、最初の計画が台無しになった」


 最初の計画に失敗した私は、直ぐに次の計画を考えていた。そんな時、ラルスの前に1人の少女が現れ、サーカスの話しを持ち出した。


 盗み聞きをしていると、これは使えると思った。何せこの城下町にいるサーカスの団長は私の息がかかっている。私の命令には従うしかない。


 直ぐに次の作戦を立て、団長が暴れている間にシルヴィアをサーカスに向かうように仕向け、彼女たちが困っている間に私がヒーローとなって現れ、問題を解決する。そうすれば、私に惚れてシルヴィアを自分のものにできると思っていた。


 ふたつ目の作戦は上手くいった。けれど、作戦自体は成功したとしても、結果的に彼女に振られては意味がない。


「私があの女にざまぁをするためには、まずはあのガキを始末することが先だ」


 だけど、あのガキには恐るべき不思議な力を持っている。あんなユニークスキルを見たのは初めてだ。


 ただ遊んでいるだけであんなことができるなんて。


 まずはあのガキを護衛たちに調べさせ、情報を集めることが先だな。そして策を考え、あのガキを始末する。その後にシルヴィアを強引にでも婚約させれば、私の勝ちだ。


「おい、そこに居るだろう。入って来い」


「ハッ! 失礼します」


 扉の先に控えていると思われる護衛に声をかける。すると扉が開かれ、1人の兵士が部屋に入ってきた。


「何が御用でしょうか?」


「シルヴィアと一緒にいたあのラルスとか言うガキの情報を集めろ」


「分かりました。では、部下たちを使って情報を集めてきます」


「なるべく早くしろよ。今の私は計画通りに事が進まず、イライラしている」


「承知しております。直ぐに情報を集めて参りますので、吉報をお待ちください」


 兵士が頭を下げ、踵を返して部屋を出て行く。


 これで後は、あいつらが情報を集めて来るのを待つだけだ。






 翌日、私は兵士から受け取った書類に目を通していた。彼らが集めていた情報によると、あのガキはシルヴィアの友人であるソフィーの家に居候しており、一緒にお風呂に入ったり、同じベッドで寝ていたりしているなどと言うことが書かれてある。


 その書類を力一杯握りしめる。


「私の知りたい情報はこんなものではない!」


 思わず声を上げ、書類を破り捨てた。


「もっとまともな情報はないのか」


 次の書類に目を通すと、今度は彼のユニークスキルのことについて書かれてあった。読めば読むほど、あのガキがどれだけ規格外な存在なのかが思い知らされる。


 本当に恐ろしいやつだ。だが、シルヴィアを我が物にするには、この障がいを乗り越えなければならない。


 最後の書類に目を通す。


 もし、これにも使えそうな情報が書かれていなければ、護衛の兵士たちを解雇することになる。


 私に仕える者が役立たずでは困るからな。


 最後の書類を黙読すると、思わず口角が上がった。


 なかなかやるじゃないか。この情報は使える。上手くすれば、あのガキを罠に嵌めることができる。


「さぁ、復讐を始めようではないか」

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