第四話 ショタはサーカスを初めて見る
「ラルス、協力ありがとう。礼として今度甘いお菓子でもご馳走しよう」
城下町で女の人を襲っていたおじさんを捕まえたお礼に、お菓子をご馳走してくれると約束をすると、シルヴィアお姉さんはおじさんを連れてこの場から離れて行った。
良かった。悪いおじさんは捕まって、また平和が訪れたよ。
町の平和を守れたことに安心していると、どこからか誰かに見られている感じがした。
首を左右に振って辺りを見渡すも、僕のことを見ている人の姿は見当たらなかった。
僕の気のせいかな?
「ラルス!」
僕のことを見ていた謎の人物のことを考えていると、ローザの声が聞こえてきたのでそちらに顔を向ける。
彼女はなぜか頬を膨らませており、怒っていることが嫌でも分かる。
「どうしたの? ローザ、そんなに頬を膨らませるまで怒って」
「どうしてあたしが怒っているのか分かる?」
「分からないから聞いているのだけど?」
怒っている理由が分からないので、素直に聞いてみる。けれどローザは僕をにらむのを辞めなかった。
「あたしも行くから待っていてって言ったじゃない。それなのにラルスが勝手に先に行くから、追い付いた頃には何もかも終わっていたのよ」
どうやら除け者にされたことが嫌だったみたい。
「ごめん。でも、早く行かないと悲鳴を上げた人が助からないかもしれないし」
「あんたが行かなくても、あのお姉さんが向かって行ったじゃない」
頬を膨らませた状態でローザはそっぽを向く。
どうしたらローザの機嫌が良くなってくれるんだろう。
とにかく、ひたすら謝らないと。
「本当にごめん。何でも言うことを聞くから許して!」
「へぇー、なんでも言うことを聞いてくれるんだ」
何でも言うことを聞くと言うと、ローザがニヤリとする。
「な、何でもって言ったけど、犯罪とかはダメだからね。そんなことをしたらソフィーお姉さんが悲しむから」
「あんた、あたしを何だと思っているのよ! そんなこと命じないわよ!」
声を上げると、ローザはポケットから1枚の紙を取り出した。
「今夜、あたしに付き合ってくれるなら許してあげる」
紙には道化師がジャグリングをしている絵が描かれていた。
「サーカス?」
「そう。城下町にサーカス団が来ているのよ。そのチケットをもらったのだけど、ママは安静を取って家から出られないから、代わりに付き合いなさい」
サーカスってあのサーカスだよね! 僕、記憶がないから分からないけれど、多分初めてだよ!
「うん! 行く! ぜひ付き合わせて!」
「お、思っていた以上に食い付くわね。まぁ良いわ。なら、今日の7時にサーカスのテントの前で集合ね。はい、これがラルスの分のチケット。1枚しかないから落とさないでよね」
元気良く返事をすると、ローザが持っていたチケットを手渡してくれた。
多分初めてのサーカスだよね。楽しみだな。
「それじゃあ、あたしは帰るけれど、くれぐれも遅刻をしないように、レディーを待たせるのは男の子としてダメだからね」
遅刻をしないように釘を刺すと、ローザはこの場から離れていく。
ローザと別れたあと、僕は夜に出かけることをソフィーお姉さんに伝えようと家に帰る。
多分この時間帯なら、ギルドでのお仕事が終わって帰って来ているかもしれない。
家に帰り着き、扉のドアノブを握って回してみる。すると扉が開いた。
出かける時に鍵をかけていた。でも、鍵がかかっていないと言うことは、ソフィーお姉さんが帰ってきているってことだよね。
「ただいま」
「お帰り、思っていたよりも早かったわね」
帰ってきたことを誰もいない空間に向けて言うと、部屋の扉が開いてソフィーお姉さんが玄関まで来てくれた。
「うん、ローザが帰ったから僕も帰ることにしたんだ」
「そうだったのね」
「それでね。ローザから一緒にサーカスを見ようって誘われたんだ。だから夜に出かけてくるから」
夜に用事ができたことを伝えながら、ポケットからサーカスのチケットを見せる。
「そうなんだ。ローザちゃんのお母さんに迷惑をかけないって約束してくれるなら良いわよ」
「ローザのママは、まだ体の調子が良くないから来られないんだ。だから今日はローザと2人で見て来るね」
「え?」
ローザと二人きりで見ることになっていることを伝えると、ソフィーお姉さんは眉間に皺を寄せる。
「やっぱりダメよ。子どもだけでサーカスに行かせる訳にはいかないわ」
ガーン!
サーカスを見ることができないと言われ、ショックを受けた僕は床に両手と膝をついた。
せっかく楽しみにしていたのにどうしよう。またローザの機嫌が悪くなれば、絶好させられるかもしれない。
「そ、そこまで落ち込まなくても良いじゃない。ごめんね。お姉さんの言い方が悪かったわ。保護者がいないからダメな訳で、保護者が一緒ならOKよ。だから私も一緒に付いて行くから。だからそんなに落ち込まないで」
サーカスを見ることができる。その言葉を聞いた瞬間、嬉しくってその場でジャンプをしたい気持ちになった。
「ありがとう。ソフィーお姉さん!」
嬉しい気持ちが抑えきれなくなり、気がつくとお姉さんに抱き付いていた。
「はいはい。それじゃあもう少ししたら、出かける準備を始めましょうか」
「うん!」
元気良く返事をすると、僕はソフィーお姉さんから離れて自分の部屋に向かう。
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