第十話 町の外の屋敷
急いで城下町の入り口に行くと、門番さんが居た。でも、彼は眠っているようで、その場に座り込んでいる。
周辺にはローザの姿が見えない。もしかして彼女よりも先に来てしまったのかな?
「あ、来たわね。良かった。もし来なかったらどうしようかと思ったわ」
後方からローザの声が聞こえ、振り向く。
松明の明かりに照らされる範囲に入ったようで、暗闇の中から金髪ツインテールの女の子が姿を見せる。
「ローザ、門番さん眠っているみたいだよ」
「ええ、この人いつもこうなのよ。まともに仕事をしないで寝ているの。だから今なら見つからないように外に出られるわ。昼間だと、子ども1人で王都の外には出させてもらえないから、これを狙っていたのよ」
彼女の説明を聞き、ようやく夜中じゃないといけない理由に納得する。
でも、それなら僕からソフィーお姉さんにお願いすることも出来たのになぁ。
そんなことを思いながら、ローザの後ろを歩く。
眠っている兵士を起こさないようにして横を通り過ぎ、ローザが鉄の扉に手を置く。
「うーん、うーん! うそ! 扉が重くて開かないわ。こんなに重いものなの!」
額を拭い、ローザは表情を曇らせる。
確か、ぼくがソフィーお姉さんに連れられてこの門を潜った時、見張りの兵士さんは普通に開けていたと思うけど、これが子どもと大人の差なのかなぁ?
どうにかならないか考えていると、あることを閃く。
そうだ! 僕のユニークスキルを使えば、もしかしたらエンハンスドボディーとか言う肉体強化の魔法が使えるかもしれない。
今からやることは、重い扉を開けるゲームだ。僕とローザ、どっちが先にこの扉を開けることができるのかの勝負。
頭の中で遊びを決め、今度は僕が扉に手を添える。
お願い! 開いて。
手に力を入れる。すると扉は簡単に開き、子ども1人が通れるスペースを作る。
「ラルス凄いじゃない! 見直したわ! あんなに重い扉を開けるなんて、さすが男の子!」
外に出られることがそんなに嬉しいのだろうな。ローザはその場でジャンプして喜んでくれた。
「しー! 静かにしないと門番のおじさんが起きてしまうよ」
口元に人差し指を持っていきながら彼女に注意する。
「ごめんなさい。やっとあそこに行けると思うと、つい嬉しくなって」
頭を下げて謝ると、ローザは先に門を出て行く。彼女に続いて城下町の外で出ると、目に映る光景が一気に変わった。
一度通ったことのある場所のはずなのに、昼間と夜では雰囲気がガラリと変わってしまった。
なんだか急に怖くなってきたよ。どうしてだろう? さっきまで全然怖いとは思わなかったのに。
どうして急に怖いと思ったのかを考えていると、あることを思い付く。
もしかしたら、扉を開ける際に遊びを変えたのがいけなかったのかもしれない。
肝試しから扉を押して開けるゲームに変えたから、体に与える影響が変わったのかも。
だったら、もう一度肝試しに戻った方が良いよね。よーし、肝試しを再開だ!
拳を握って腕を上げる。すると、ユニークスキルが発動したみたいで、怖いとは思わなくなった。
これでよし、後はローザに案内してもらうだけだね。
「ローザ、君が行きたい場所はどっち?」
「こっちよ」
目的地の場所を訊ねると、ローザは僕の手を握って歩き出す。
「ねぇ、少し離れてくれない? 歩き辛いのだけど?」
暗闇の森の中を2人で歩いているけど、ローザが僕の腕に自身の腕を絡ませて密着してくる。だからそのせいで歩き難い。
「こ、これは、ラルスが怖がっているといけないから、あたしが側にいるから安心しなさいって言う意味を込めているのよ。別に怖いからあんたと引っ付いている訳ではないわ」
どうして引っ付いてくるのか訊ねると、ローザは僕が怖がっていると思い込んでの行動だと言う。
「なんだ。それなら僕は怖くないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。だからもう離れて良いよ」
ローザに礼を言い、怖くないから離れてもらうようにお願いする。
「強がって嘘を吐く必要はないわ。あたしには、あんたが強がっていることくらい分かるんだから。大人しくお姉さんの言うことを聞きなさい」
僕が強がっていると勝手に決め付け、意地でも離れようとはしなかった。
別に強がっていないのだけどなぁ。でも、ユニークスキルの効果がなければ、僕も怖くて一歩も歩けなかったかもしれない。だから強がっていると言うのは案外間違っていないのかもしれない。
「分かったよ。別に嘘は付いていないけど、歩き難いのは我慢する」
ローザは幼い子どもみたいに我儘を言うから、僕がお兄さんになってあげないといけないよね。
ローザに引っ付かれたまま森の中を歩くと、お屋敷のような建物が見えた。
近付くと普通のお屋敷とは違うことに気付く。
屋根はボロボロで柵は錆びており、窓ガラスも割れている。
夜中と言うこともあって、余計に不気味に思えた。
もし、肝試しの効果で怖いと思わないようになっていなければ、半べそかいて今にでも逃げ出していたかもしれない。
「この屋敷なの?」
「そ、そうよ。あの屋敷の中庭に用があるの」
腕を絡ませているローザが力を入れる。
「痛いよ。そんなに強く締め付けないで」
「ご、ごめん」
締め付けている腕の力を弱めたようで、腕が少しだけ楽になった。
早いところあの屋敷の中に入って、中庭でローザが探しているものを見つけよう。
屋敷に近づき、扉をゆっくりと開ける。
もちろん明かりのようなものはなく、建物内は暗かった。
「ごめんください。誰かいますか?」
念のために声をかけるも、誰かがやってくる様子がなかった。
完全に無人だ。本当にお化け屋敷に来た気分だな。
唾を呑み込み、僕は暗闇の奥を見つめる。
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