第五話 ショタは鑑定される
お風呂から上がって、ソフィーお姉さんが夕飯を作ってくれると言い、キッチンに向かった。
その時、家の扉がノックされる音が耳に入り、僕は扉の方を見る。
まだ日が沈み始めたばかりの時間帯だけど、いったい誰が来たのだろう。
キッチンを覗くと、ソフィーお姉さんはノックされる音が聞こえなかったみたい。食材を取り出すと包丁を構えていた。
もう一度ノック音が扉から聞こえてくる。お客さんをあんまり待たせない方が良いよね。
「ソフィーお姉さん、お客さんが来たみたいだよ!」
「え! 本当! 全然気付かなかった。ありがとう」
握っていた包丁をその場に置き、ソフィーお姉さんは僕の横を通り過ぎて廊下に出る。そして玄関に向かうと扉を開けた。
「あ、シルヴィアじゃない。お城に報告するのは終わったの?」
「ああ、用事が全て片付いたので、ギルドに向かったのだが、ソフィーたちは既に帰ったと聞いてね。急いでここに来た」
どうやらお客さんはシルヴィアお姉さんみたい。ここからでは姿は見えないけど、声で分かる。
「ところで、あの子供は?」
「あ、ラル君? 居るわよ」
「そうか。確認したいことがある。上がってもいいか?」
「ええ、どうぞ」
ソフィーお姉さんが招き入れると、長くて青い髪のお姉さんが家に入ってくる。
やっぱりシルヴィアお姉さんだ。
「よぉ!」
シルヴィアお姉さんが軽く右手を上げて気さくに声をかけてくる。でも、僕にはあの時、剣を向けられた記憶が離れなくって、思わずキッチンにあるテーブルの下に隠れた。
「どうやら、相当嫌われてしまったようだな」
シルヴィアお姉さんが小さく息を吐いて肩を落とす。
もしかして僕がテーブルの下に隠れたから、お姉さんを悲しませてしましたの?
何だか悪いことをしているような気がする。ここはテーブルから出た方が良いのかな? でも、また剣を向けられたりしない?
「ラル君大丈夫だよ。シルヴィアは君を怖がらせることはしないから」
「そうだ。わたしは君に危害をくわえない。その証拠にわたしの剣は玄関に置いてきた」
テーブルの下から覗くと、シルヴィアお姉さんは剣を持ってはいなかった。
「本当に怖いことはしない?」
「ああ、寧ろわたしが君にぶっ飛ばされないかが心配だよ。聞いた話しだと、グリゴリーもワンパンで仕留めたらしいじゃないか」
よく見ると、シルヴィアお姉さんの声は出会った時とあまり変わらないけど、僅かに膝が動いている。
僕がシルヴィアお姉さんを怖がらせているんだ。
怖い人が近くにいる時に、不安になる気持ちは僕も知っている。お姉さんを安心させるためにも、ここは僕から歩み寄らないと。
「怖がってごめんなさい。それと僕も怖がらせてごめんなさい」
テーブルから出ると、頭を下げてシルヴィアお姉さんに謝る。
「な、なな、何を言うんだ。わたしは決して君を怖がってなどいないぞ」
「シルヴィア、強がらないの。人に弱さを見せることも、強くなるためには必要なことよ」
「うっ! わ、分かった。きみを怖がっていたことは認めよう。だけど、ソフィーが君と歩み寄ろうとしている以上、わたしも頑張らなければならない。過去の遺恨は忘れて、今から良き友になろうではないか」
シルヴィアお姉さんが手を差し伸べてくる。その手を僕は握り返した。
うわー。シルヴィアお姉さんの手、剣士さんの手だ。ソフィーお姉さんのとは違った安心感がするよ。
「それで、何をしに来たの?」
「ああそうだった。えーと、この子の名前は……」
ソフィーお姉さんがシルヴィアお姉さんに家を訪ねた理由を聞くと、シルヴィアお姉さんが僕を見て名前を言おうとした。けれどなかなか出てきそうにない。
「ラルスです」
「そうそう、ラルスだったな。ちゃんと覚えていたんだぞ。ちょっとど忘れをしただけだ」
仕方がないので自分の名前を教えると、シルヴィアお姉さんはど忘れをしていたと言う。でも、本当に忘れていただけなのか怪しい。
「ラルスの知っている人物を探すには、彼のことを知ること一番だと思ってな。城から魔力とユニークスキルを調べる鑑定アイテムを借りて来たんだ」
「よく、そんな高価なものを貸してくれたわね」
「まぁ、普通は無理だな。でも、副団長であるわたしなら、団長を使って間接的に借りることができる」
「副団長?」
「シルヴィアはね、お城の騎士団なのよ。そしてその中のナンバー2なの」
「ナンバー2! 凄い!」
お城で2番目の実力だと知り、僕はシルヴィアお姉さんに尊敬の眼差しを送る。
「そんなにキラキラした目でわたしを見ないでくれ。気恥ずかしいではないか」
尊敬の眼差しで見つめていると、シルヴィアお姉さんの顔が赤くなり、顔を背けられた。
シルヴィアお姉さんがそっぽを向いた! 僕、何かお姉さんを怒らせるようなことをしたの!
彼女の反応に驚いていると、シルヴィアお姉さんはバックから腕輪のようなものを取り出す。
「これを腕に嵌めてくれ。そうすれば、ラルスの魔力量が分かる」
「高価なものだから、私がラル君に嵌めるわね。万が一落として壊しでもしたら、一生奴隷生活よ」
「一生奴隷生活!」
ソフィーお姉さんが一生奴隷生活と言った瞬間、体が震えていることに気付く。
とんでもないものだ。僕のような子どもが決して触れて良いものではないよ。
「ソフィーは少し大袈裟に言っているが、あながち間違いでもないだろうな。危険な海域に住むモンスターがいる海の中で、マブロ釣りを何十年もすることになるだろうな。起きてマブロを釣って夜には寝るという生活を送るようになる」
それって奴隷と殆ど変わらないんじゃ。
些細なことを疑問に思っていると、ソフィーお姉さんが僕の腕に腕輪を嵌める。その瞬間、腕輪に付いている数字が動き始めた。
僕の魔力量っていったいどのくらいあるんだろう?
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