第95話 幕間 後輩の成長具合 前編
どうやら先輩は傍観に徹するようだ。
そのことを悟った私は自分で動くしかないと判断した。
適当に探索してターゲットのコボルトを見つけ次第、倒せばいいとか考えているようで実際は何も考えていない桐谷とかいう奴に従っていたら絶対にダメなことは、これまでの先輩の指導で嫌でも理解できるからだ。
幸いなことに先輩はコボルトについて尋ねると最低限のことは教えてくれたから、その情報を基に戦い方を考えられる。
だから私はまず話を聞いてくれそうな女子二人から攻略することにした。
二人が使用する武器を聞いて槍を使うひまりが中衛、弓を使う実美が後衛。そしてメイスを使う私が前衛とすることにした。
そして他二人は現状では放置とする。
私も多人数の戦闘経験があまりないので、まずはこのくらいの人数で色々と試してみることにしたのだ。
桐谷の方に至ってはこちらの提案など聞き入れそうもないし。
「本当に一人で大丈夫? 何なら私も前衛やるけど」
「たぶん大丈夫だと思う。けどもしやってみてキツそうならそうしてもらうかも」
コボルトはゴブリンよりもSTRも弱ければHPも低いそうだが、その分AGIが高い魔物だそうだ。
素早い動きでこちらを翻弄してくるので、慣れてないG級だと手こずることも多いらしい。
(ランクは4の私だと厳しいかな?)
でも先輩から貰った指輪のおかげで効果が半減していても全ステータスが5上昇している。
その分があれば大丈夫だと思うのだが。
今回の試験では一人当たり五体のノルマを課されているので、合計で三十体のコボルトを制限時間内に狩らなければならないことになる。
(時間制限があるからのんびりはしていられないけど、かといってあまりに数が多いと対応しきれないかもしれない)
その辺りのことも話し合って方針を決めたかったのだが、こちらを無視してドンドン先に進んでいく桐谷がリーダーではそれは期待できそうもなかった。
「あれはソロだな。パーティでの動き方がまるで分かってない」
先輩がその桐谷を見ながらそう呟いた。
「でもこの中では一番実力がありそうなんですよね?」
「俺達を除いて単純なステータス的な意味でならな。だけど探索者はそれだけでやっていけるほど甘くないよ」
上級になればなるほどそれは顕著になる。
今はG級だからあれでどうにかなっているのかもしれないが、いずれ痛い目をみると先輩はこっそり教えてくれた。
「なんなら愛華がそれを直々に教えてやったらどうだ?」
「私がですか? 無理ですよ、自分のことで精一杯です」
「そうか? 今の愛華なら余裕だと思うけどな」
期待してくれるのは素直に嬉しいがまだ私はランク4でしかない。
F級昇級試験を受ける人の大体がランク10辺りとのことだし、前よりは成長しているとはいえ、そんな相手に勝てると思うほど今の自分が強いとは到底思えなかった。
そんなことを話しながら一人で進んでいく桐谷についていく形で森の中を歩いていると、遂にその時はきた。
「いたぞ! コボルトだ!」
それだけ言って見つけた獲物の方に走っていってしまう桐谷にイラっとする。
(見つけたのなら方向と数の報告くらいしなさいよ!)
そう思いながらも我慢してその後を追う。
そこには一体の犬の頭部を持つ人の魔物であるコボルトがおり、先頭を走っていた桐谷が既に戦っていた。
パーティを指揮するリーダーとしては最悪な部類だが、それでも戦う力はそれなりに持ち合わせているのかコボルト相手に苦戦することなく追い詰めていく。
戦闘スタイルも盾で敵の攻撃を捌いて剣でその隙を突くという堅実なのも意外だった。
ただ一人で戦うつもりらしく私達が援護に入ることを明らかに念頭に置いていない戦い方だ。
弓を構えた実美もあの戦い方では誤射が怖くて援護などできない。
「ったく、少しは手伝えよ。俺にばっかり任せてないでさ」
そのままコボルトを倒し切った桐谷は、最終的にはこちらに文句を言ってくる始末。
流石の私もその言い分にはカチンときた。
もっとも私以上にムカついた人が他にいたようだが。
「はあ? あんたが一人で突っ走って好き勝手に戦うからこっちは手の出しようがないんでしょうが!」
ひまりが我慢できないといった様子で食って掛かる。
「それはお前達が弱くて俺に付いてこれないのが悪いんだろう? 探索者は実力が大事なんだよ」
確かに探索者は魔物を倒す実力を求められるのでその言葉自体は間違っていない。
もっともその意味をこいつは大きく取り違えている。
これが先輩のような規格外が言っているのならまだ分かる。
だがこいつはあくまでG級にしては腕が立つ程度でしかない。
その程度で偉そうにされてもムカつくだけである。
「あんたバカなの? リーダーを名乗り出たくせにその程度のことも考えられないなんて」
「なんだと!?」
ひまりの歯に衣きせぬ物言いにまたしても言い争いが勃発するかと思ったが、そこで先輩がパンッと掌を打ち合わせた音で遮る。
「言い争っていると時間が足りなくなるぞ」
それは正しい言い分だったので各々に不満はありながらもその言葉を無視する人はいなかった。
そうしてどうにかコボルト探しに戻った私達だったが、その後も問題は多発した。
桐谷はこちらのことなど無視して先に進んでしまうし、加藤はそれを止めようとするも聞いてもらえない。
その様子は頑なで、女性陣三人がそれに加わっても結果が変わらないことが容易に想像できた。
そればかりか発見したコボルトが二体以上いる時、桐谷は戦う選択を取らなかったのだ。
ソロでの狩りならそれも正しいのかもしれない。
だけど今の私達はパーティだし試験には制限時間があるというのに。
ここに至っては私も覚悟を決めた。
(試験のノルマは一人五体のコボルトを倒すこと。そして出来る限りメンバー間で協力すること)
それを踏まえた上で私は試験官に問いかけた。
「あの、試験官」
「どうしましたか?」
「使えない奴を見捨てることは協力しないということになりますか?」
この直接的な言葉を聞いても試験官は動揺せず、むしろニッコリと笑いながら答えてくれた。
まるでそう問われるのを待っていたのかのようにすんなりと。
「いいえ。私が求めたのはあくまでメンバー間で出来る限り協力することです。先ほどのように無駄な仲間割れによって騒ぐことで物音を立てて魔物を誘き寄せるとか、喧嘩に気を取られて周囲の警戒を疎かにするなどのような探索者失格の行動は論外ですが、仲間と協力して行動するならばそうそう減点もありませんよ」
やはりそうか。思い返せばメンバー間で出来る限り協力するようにとは言われたが、全員で必ず協力しろとこの人は一言も発言していなかった。
(コボルトの動きも見たけど問題にはならなそうだった。よし、ならいける)
そう判断した私は立ち止まるとひまりと実美の二人にある提案することにした。
「ねえ」
「なに? 呑気に話してると置いてかれるよ」
「そうですよ、私達はまだ一体も倒せてないから急がないと」
「いや、もうあれに付いていくのは止めよう」
この言葉に二人は驚いて足を止めている。
そしてそしてこのまま桐谷以外で行動することを提案した。
「ええ、それって試験的にありなの?」
「大丈夫。試験官にも確認はとったから」
使えない奴は切り捨てる。
先輩の指導を受けている私がその程度のことを今更躊躇する訳がなかった。
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