第28話
俺が【テレポート】スキルを使って一瞬にしてやってきたのは、『深淵の森』の入り口付近だ。
自分からしてみれば例の洞窟が近いのもあり、ここに来るのは実家の庭に戻ってきたくらいの感覚しかないわけだが、そう思うのは異世界人にしてみたら相当に異常なことなのかもしれない。
何故なら、ここは【七大魔境】の一つとされる場所だからな。イービルアイを大きくして宙に浮かせたあと、俺は森の中をゆっくりと歩き始めた。
ただ単に無双するところを配信するつもりでここに来たわけじゃない。異世界人たちに強さを見せる方法として俺が選んだのは、『モンスタートレイン』だ。
これは、一時期ネットゲームで一部のプレイヤーがやっていた迷惑な狩り方の一例であり、単独だとよっぽど強くなければできない手段でもあるんだ。
文字通り、電車の如くモンスターを大量に引き連れて、まとめてドーンと倒すことで経験値ウマウマするのが目的のやり方である。
普通はパーティーでやるもので、釣り役(主に前衛職)が沢山のモンスターをせっせとベース地点に運び、そこで待ち受けていた火力職らが集中砲火して倒すんだ。
一見簡単そうに見えるがこれをソロでやるのは至難の業であり、それゆえに高いステータスに加えて強い武具を持っていることが前提となる。良い防具も必要なのは、まとめて倒そうとしたときにモンスターの一部が攻撃してくることでかなりのダメージがあるからだ。
ちなみになんでこれがノーマナーかっていうと、すれ違ったほかのプレイヤーに大量のモンスターを擦り付けてしまう恐れがあるからで、絡まれた時点で即死判定となり、脱出を試みてもほぼ助からない。
不運にもモンスターの大群を擦られて即死したプレイヤーは、セーブ地点に死に戻りするとともに大量の経験値を失うデスペナルティが発生して、顔真っ赤で晒しスレへ直行ってわけだ。
『ウウウウウゥゥッ……!』
お、早速一匹のデッドリーコボルトが釣れた。その調子で雪だるま式に増やそうと森の中を練り歩くことに。たまに弓矢を放つのもいたが、当たったところで痛くないので放置していた。
別にこの狩り方がベストってわけでもなく、効率云々を言うなら一匹ずつ狩ったほうが安全だし、得られる経験値の量もそんなに変わらない。
それでも、精神効率がまるで違う。まとめて倒したほうが爽快だし、スリルもある。もちろん誰かに迷惑をかけてしまうというリスクはあるが、この『深淵の森』は普段から人の姿をほとんど見かけないので問題ないし、何より強さというものをわかりやすく視聴者にアピールできるから最適な方法ってわけだ。
『――ウジュルッ……』
よしよし、あれから大分歩いた結果、目に見えてどんどん化け物たちが集まってきた。追いかけてくるモンスターが諦めてしまわないよう、ある程度の距離を保つことも忘れない。
配信用の魔道具――イービルアイも俺を追ってるわけだが、今のところコメントは一つもなかった。そりゃそうか。俺の名前を知ってるやつなんて異世界じゃ極僅かだろうしな。それでも、いずれ誰かの目に留まるかもしれないってことで、我慢強くモンスターを集めていく。
別に王族に気に入られたいとは思わないが、どうせ配信をやるのなら面白くやったほうが絶対にいいはずだからな。
「――うわっ……」
忘れた頃に【地図】スキルで後方を確認すると、思わず声が出るくらいうじゃうじゃとモンスターが集まってきていた。まさにモンスタートレインだ。
もし捕まったらと思うと恐ろしくなるレベルの量だってことで、俺はステータスポイントが1340もあるのを思い出し、そのうち600ポイントを体力値に振ることにした。
なんていうか、その時点で目に見えない分厚い鎧を纏ったかのような万能感に満たされた。体重200キロを超える相撲取りもこんな気分なんだろうか?
ラストエリクサーのようにポイントを最後まで温存した挙句、死ぬなんてことになったらあまりにも馬鹿らしいからな。
『ブジャアアアアアァァッ』
「…………」
モンスターの姿や鳴き声が色々と重なりすぎて、いよいよ笑えなくなってきた。ん、なんか宙に文字が浮かんできたぞ。まさか、コメントが来たのか。
『ト、トモさん、モンスターの群れがががっ!』
『おいおい、トモ、あぶねえよ!』
『ヤバッ、いくらトモでも死んじゃうって!』
『……凄い数……トモ、逃げて……』
誰かと思ったら、ノルン、アレン、グラッド、フィオーネの四人組だった。
「大丈夫大丈夫。まあ見てなって――」
『――師匠! な、何をやっておられるのでしょう!?』
「ルディアも見ててくれたのか。見ての通りモンスターとお散歩中だ」
『さ、さすが師匠……参考になるのであります!』
「い、いや、そこはまだ参考にしなくていいから……」
俺は興奮する弟子を宥めつつ、さらにモンスターを集め続ける。もう振り返るのも嫌になるほど、よく見ないと確認できないものから見上げるくらいのものまで色んなサイズの化け物が溜まってきてるが、まだまだ。
毒を食らわば皿までっていうし、ここまで来たら俺は『深淵の森』の全てのモンスターを集めるつもりでいるからな。むしろ、こんなもんじゃまだ物足りなくなってきた。
もうそろそろコメントは打ち止めだろうなと思ったら、また来た。今度は誰だ……?
『さすが、あたしの規格外のダーリン! カミムラトモノリね!』
『トモの旦那! モンスターを大量に集めて冒険者を殺そうとか、考えることがえげつなくて尊敬だぜ!』
「いやいや……」
多分エシカテーゼとジャフのコメントだが、俺は誰のダーリンでもないし、こんな過疎った森で誰かにモンスターを押し付けて殺す意図もない。二人とも迷惑系マジカルユーチューバーらしく、随分と自分に都合のいいように解釈してそうだ。
もう俺の知り合いといえる連中からはコメントを貰ったし、これ以上は――と思ったら、何故かどんどんコメントが来るのがわかった。な、なんだ?
『おいおい、なんなんだこいつは!?』
『こ、こいつの後ろ、見てみろよ!』
『やべええぇえっ! モンスターハウスじゃん!』
『ハウスっていうかもう、モンスターレイクだな!』
『てか、深淵の森でこんだけモンスター集めるとか、自殺でもする気か!?』
『しかも一人って、やっぱり自殺配信かよ!』
『カミムラトモノリとかいうの、死ぬな、生きろ! うおおおおおっ!』
「…………」
ざっと見た感じ、どれも俺の知り合いではない。ってことは、誰かのイービルアイを通して俺の名前を知った野次馬がコメントしてきてるのか。
さて、周辺が赤く染まるくらい歩き回ったこともあり、もう森中のモンスターは集めきっただろうし、そろそろ決めてやろうってことで、俺は鳳凰弓を取り出した。蛇王剣と神獣爪は試したが、これのレベル2のパターンはまだ試してないからな。
いつも通り、大量の矢が周囲に現れて一気に放たれたかと思うと、それがモンスター群に命中した途端花火のように破裂して、そのたびに肉塊が散乱して飛んできた。それが視界を埋め尽くすほどでしばらく痛みを感じたから、体力に振っておいて正解だった。
それでもまだ何匹かしぶとく残っているのがわかり、俺は鳳凰弓から素早く蛇王剣に切り替えて応戦する。なんてこった。やつらの体内から蛇に見立てた剣が八つも飛び出したっていうのに、それでも生き残るモンスターが一匹存在したんだ。
中型の、全身が葉っぱに覆われた不気味な人型モンスターだ。それがもうすぐそこまで迫ってきたってことで、俺は腕力に300ポイント振るとともに近接用の武器である神獣爪に切り替え、渾身の一撃と追い打ちのダブルパンチを見舞ってやった。
『アンギャァアアファアガガガガアアァッ!』
なんだかよくわからない不気味な悲鳴がこだましたあと、『レベルが上がりました』のバーゲンセールが始まった。っていうか、見上げるくらい光る石が山積みされていて驚く。これが全部魔石なのかよ。どんだけあるんだこれ……。とりあえず全部【倉庫】に入れてステータスを確認することに。
名前:上村友則
レベル:465→615
腕力値:901
体力値:901
俊敏値:901
技術値:601
知力値:301
魔力値:301
運勢値:301
SP:440→1940
スキル:【暗視】【地図】【解錠】【鑑定】【武器術レベル3】【倉庫】【換金】【強化】【年齢操作】【解読】【覇王】【物々交換】【変化】【テレポート】
称号:《リンクする者》
武器:蛇王剣 鳳凰弓 神獣爪
防具:仙人の平服 戦神の籠手 韋駄天の靴 安寧の指輪 エデンの首輪 深淵の耳当て
おおおおおっ、150レベルも上がった。これは自分で言うのもなんだがすげえなあ……。元々のレベルが高いわけで、それがここまで上がるんだから異常な上がり方といっても過言じゃないだろう。
ステータスポイントが格段に増えたのでいつでも好きなときにポイントを振れるし、【換金】スキルを使えばこれと引き換えに大金だって得られる。何よりスキル枠が二つも増えたことが大きい。あと、武器術もレベル3になってて楽しみがまた増えた……って、コメントが一杯来てる。
『すげええええええええええええぇぇっ!』
『このカミムラトモノリっていうの、神かよ!?』
『てか、さっき倒されたモンスターって、確か深淵の森のボスのゴッドグリーンだよな!?』
『なんてやつだ! たった一人で【七大魔境】の一つを制覇しやがった!』
『これもう伝説の配信決定だろ!』
『俺、カミムラトモノリのファンになったわ!』
『僕も!』
『あたしもよ!』
「…………」
なんかコメントが俺の想像以上にやばいことになってた。あんまり目立ちすぎるのは好きじゃないし、そろそろ配信を終了させてもらうか……。
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