第18話 ラーメン作りと試食会

 早速オークの豚骨ラーメンを作ることに。

 まずはスープ作りからだ。

 オークの骨を水で洗い、水をたっぷりと入れた大鍋に入れて火にかける。

 沸騰したらアクを取り、しょうが、にんにく、ねぎ、ニンジンや玉ねぎ、ジャガイモと言った野菜類を加えていく。

 そしてそれら弱火でじっくりことことと、ドロドロになるほどに煮込む。


 すでに匂いが凄い。

 むせ返りそうなほどの豚骨臭だ。


 煮込み終わったら、オークの骨を取り出し、スープをこして余分な脂を取り、なめらかで食感の良さを引き出す。


「よし、完成した。どれどれ……」


 俺は豚骨スープを試食してみる。


「こ、これは……!」


 口にした瞬間、鈍器で殴られたかのような衝撃があった。

 濃厚。

 これ以上ないほどに濃厚だった。

 野菜や豚骨の旨味がぎゅっと凝縮されている。

 スープを口にした瞬間、それらが一気に爆発する。

 風味が鼻腔いっぱいに広がり、喉元を通ったどろどろのスープは胃から腸に、脳や全身の血流に染み渡っていった。

 まるで全身を犯されているかのような快感。


「目論見通り、癖になる味だ」


 確実に人を選ぶだろう。

 けれど、ハマる人にはハマるはずだ。

 ……たぶん。


「あとはスープに合う麺とチャーシュー作りだな」


 小麦粉と水を混ぜ合わせ、手でこねる。

 こねた生地をしばらく寝かせ、生地を柔らかくした後、伸ばし棒で薄く延ばし、刃渡りの長い包丁で切っていった。

 スープに絡むよう中太麺にした。


 そして最後はチャーシューだ。

 オークの肩ロースを適当な大きさに切ると、水の注がれた鍋に入れて沸騰させる。

 醤油、砂糖、酒、ショウガ、にんにくを加え、じっくりと煮込む。

 味が染みこんだところで火を止め、オーク肉を煮汁から取り出す。

 一晩寝かして冷ますことで、より柔らかくなり、味がしっかりとしみ込んだ。

 冷ましたオーク肉を厚くスライスしてラーメンの上に載せると完成だ。


 オークの豚骨ラーメン。

 濃厚なスープに麺が絡む、自信作だ。


「他の人に感想を聞いてみたいな」


 俺は早速、試食会を開いてみることにした。


 

 数日後の夜。

 俺は移動式の屋台を引いて、所定の場所にやって来た。

 近くに水路があり、頭上には石橋が架かっていた。

 月明かりと屋台の松明があるので、光源は問題ない。立地的に人通りもあるので、一見のお客さんも望めるだろう。


 しばらくした頃、フィーネとゲルニカがやって来た。


「アスクさん、こんばんわー」

「どもっす」


 午前中、唐揚げを買いに来た二人に話をしていた。

 ラーメン屋台を開くから、一度食べて感想を教えて欲しいと。

 二人は快く了承してくれた。

 俺としてはまずこの二人の感想が聞きたかった。

 レベッカは優しいからマズくても美味しいと気を遣ってくれそうだし、ドロシーさんはお酒を飲んでから店に来るだろう。舌の精度には期待できない。


 フィーネとゲルニカは正直な感想を言ってくれそうな気がする。二人は俺の屋台の純粋なお客さんでもあるからだ。


 しかし――。

 二人は近づいてくるなり、顔をしかめ、鼻を摘まんだ。


「な、なんですかこの匂い……」

「く、くっせえ~……!」

「言っただろ。オークの豚骨ラーメンだって」


 俺は苦笑いを浮かべる。

 フィーネとゲルニカは屋台のカウンター席に腰を下ろす。


「うぅ……鼻がひん曲がりそう……」

「何か久々に夏の剣術部の部室を思い出したぜ」


 やはり強烈な匂いらしい。

 近くに他の屋台がなくて良かった。

 もし隣接していたら、怒鳴り込まれていたかもしれない。


「はい、お待ちどうさま」


 俺は二人の前にラーメンの丼を置いた。


「うわ、すごいどろどろ……」


 フィーネはスープを前に目を丸くしていた。


「こんなスープ、見たことない……!」

「すげー濃厚そうっすね」


 ゲルニカは感嘆したように呟いていた。


「正直な感想を教えてくれ」

「い、いただきますっ」

「いただきます!」


 二人は手を合わせると、フィーネは恐る恐る、ゲルニカは勢いよく、それぞれどろどろのスープの絡んだ麺をすすった。


「どうだ?」

「お、おいしい……!」


 フィーネは口元に手をあてがい、信じられないというふうに呟いた。


「匂いはきついけど、食べてみたら意外と臭みはないっていうか。濃厚だけど、口触りはまろやかな感じがします」

「麺にスープがよく絡んで、がつんと来るぜ。脳みそを殴りつけてくる味っつーか。旨味に喰われちまいそうだ」


 なるほど。

 ちょっと不安だったが、思ったより好評でほっとした。


「でもあれだよね。唐揚げみたいに頻繁には食べられないかも。時たま、思い出したように食べるので充分というか……」

「そうか? あたしは毎日でも行けるけど」


 どうやらフィーネには重すぎたらしい。

 ゲルニカには好評のようだったが。

 やっぱり人を選ぶのは確かなようだ。


 

 そしてその後、俺はラーメン屋台を始めた。

 のだが――。


「こ、こんばんわー……」

「あれ? フィーネ、今日も来てくれたのか」


 ある日の夜。

 俺はラーメン屋台の暖簾を潜ったフィーネを見て呟いた。


 彼女はあれ以来、結構な頻度で来客していた。

 しかもだ。

 普段はゲルニカを伴っていたが、今日に至ってはフィーネ一人だった。


「一回食べたら、しばらく充分だって言ってなかったか?」

「そ、そのつもりだったんですけど……。何かふと食べたくなるというか。身体がこの店のラーメンを求めているというか……」


 フィーネは恥ずかしそうにもじもじしながら呟いた。


「中毒性がありますね、この店のラーメン……!」


 まさかゲルニカではなく、フィーネの方に刺さっていたとは……。

 けれど、何度も食べたくなるほど気に入って貰えたのは嬉しいことだ。

 目論見通りにいったということだから。

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