せっかくダンジョンに入れたのだから、最強を目指します
狂咲 世界
第1部 ダンジョン
第1章 始まり
プロローグ
受験に失敗して入った高校は、最悪だった。
俺と同じように受験に失敗して入った人が多いからか、荒れ放題である。
今日も、クラスカースト上位を気取っている連中が、自分たちの集団に入りたがっていそうな人を吊し上げて遊んでいる。
……それも、授業中に。
胸の悪くなるような光景だ。
とはいえ、俺にはあいつらを止める気なんてないのだが。
強者に媚びて弱者から強者になろうとするのも一つの生き方だとは思うが、その踏み台になってやる気はさらさらない。
俺は代わりにため息を一つついて、隣の席をチラリと見る。
そこには栗色の髪を流し、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている少女がいる。
この少女––––星野澄火は、学校は時間通りに来るものの、ほとんどの時間を寝て過ごす習性がある。
起きているのは、学校に来る時……もしくは、授業が終わって帰る時くらいだ。
その時も大抵は眠たげに目が細められているため、ちゃんと起きて何かしている姿は見たことがない。
昼食も取らず、まるで冬眠でもしているかのように毎日を寝て過ごしている。
「えー、では、次の授業までに教科書の該当箇所を読んでおくように。ではちょっと早いがこれで終わろう」
と、授業が終わった。先生は教室内で行われている陰湿な行為に関わり合いになりたくないとでもいうかのように、そそくさと教室を出ていく。
授業時間は半分以上余っている。が、これがこの学校のスタンダードだ。
俺は先生が教室のドアを閉めたのを確認してから、スクールバッグからスマホを取り出した。
誰も守ってはいないものの、一応スマホを授業中に使ってはいけないという決まりがあるのだ。
ポチッとサイドボタンをクリックして画面をつけると、通知センターが一通の新着メールがあることを知らせて来た。
俺はワクワクしながらその通知をタップする。
数瞬後、画面にメールの本文が表示された。
若槻様
今回のダンジョン入場イベントへの参加へご応募いただき、誠にありがとうございました。
厳正なる審査の結果、無事通過いたしましたことをご報告させていただきます。
つきましては……
よし。
俺は静かに喜びを噛み締める。
もし気づかれてしまうと、とてもめんどくさいことになる予感がしたからだ。
俺はこの鬱屈とした日常から脱するべく、ダンジョン入場イベントに応募しておいたのだ。
現在、ダンジョンの入り口は自衛隊と警察、そして日本ダンジョン探索者協会によって厳重に封鎖されていて、ダンジョン探索者の資格を持った人間しか入ることはできない。
理由は色々あるが、一つにはステータス能力を持つ悪人を生み出さないため……というのがある。
ダンジョンで得た能力はダンジョンの外では使えないらしいものの、ダンジョン内で力を悪用されるだけでもとても困ったことになる。
もしダンジョンに立て篭もられ、力を蓄えるようなことがあってしまっては、そのダンジョンは使用不可能になり、大きな経済的損失を生んでしまう。
話が脱線した。
ダンジョン探索者の資格を手に入れるには、ダンジョン入場イベントに参加する必要がある。
このイベントは無料で参加できるが、代わりに厳格な審査に通る必要がある。
過去の経歴や、現在の素行が徹底的に調べられて、その人がダンジョンに入っても支障のない人物かが調べ上げられるのだ。
通過率はおよそ五割。
世の中、そこまで悪人だらけではないと思うので、かなり厳しめの基準が設けられているのだろう。
そして今回、俺はそれに通った……というわけだ。
イベントの日は、明日。
平日だが、なんと公欠がつく。それも、イベントに参加するだけで。
と、俺は隣で何かが動く気配がして俺はそちらに向く。
しかし、そこにはいつも通りにすやすやと眠っている星野がいるだけだった。
––––寝返りを打っただけか。
俺はそう判断し、再びメールを眺めて静かに喜びに浸るのだった。
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