みんなのひみつごと

みんなのひみつごと


 和平議事堂は非常に広い。地上2階から3階までを、中会議室、大会議室が占めている。そして4階には記者会見用の会場があり、5階まで上がると室内展望台のような庭が現れる。地下には第1から8までの研究室がある。研究室には、限られた者しか入ることができない。

 目の下に深いくまを刻んだロマは、第5研究室の扉を開いた。薄暗い室内には既に数名の助手と、シャイニーとプナキアがいた。助手は遥か頭上にある、巨大な装置の調節をしている。人の入れそうな大きさのカプセルを、緑の液体が満たしている。装置の操作台には、ボタンやレバー、ネジがやたらと複雑に練り込まれていて、エリートばかりの助手たちをおおいに困らせている。

  シャイニーとプナキアは頭上のカプセルの中身を見つめていた。 ロマは、ため息をつくシャイニーに話しかける。

「心配するな、俺から正しく説明してやるから。それに、お前に裏切られたなんて、はなから思ってないと思うぜ」

 シャイニーは、監獄からロマを脱出させる時に手間取ってしまい、【彼】の援護やステラの救助に向かえなかったことを、未だに気に病んでいたのだ。

シャイニーはロマの言葉に、憂いを含んだ微笑みを浮かべただけだった。

 ロマは、プナキアに尋ねた。

「ステラは、呼んだだろうな?」

「何か書き物をしていましたが、書き置きをしておいたので、もうすぐ来ると思います」

 そのとき扉が開き、みんなステラが来たと思って振り向いた。しかしそれはステラではなくデルタとユアだった。

 ロマが手を差し出すと、二人は順々に握手した。

「来てくれたんだな。よかった」と、ロマ。

「いや、俺達はすぐに帰る。こいつを混乱させてしまうだろうから」

 とユアがカプセルにちらりと目を向けた。ユアとプナキアは、目が合うと微笑んだ。もはや誰がみても、仲の良い友人にしか見えない2人である。

 「そんなのちゃんと説明すれば分かってくれるさ。あんた達に莫大な援助をしてもらったんだ。立ち会ってやってくれないか?」

 ロマの説得を、今度はデルタが断った。

「いや、せっかくの再会だ。私たちがいるとぶち壊しになろう、水を差すことはない・・・後日、落ち着いたら訪ねてみるつもりだ」


 時間とともに、確執も険悪な空気も乗り越えることができたのは、単に互いの努力のためだけではなかった。この計画が敵であった者同士を結び付ける効果を、存分に発揮したのである。

 それは3年前。1つの備品から始まった。ロマは備品が机の引き出しに入っているのを見つけた。 【彼】の体にネットワークの機能を仕込む時、たまたま抜け落ちたものだった。

 近年著しく進むロボット工学、ボリジン心理学により、たった1枚のチップから全ての情報、記憶を抽出できる可能性が浮上していた。

 

 ロマは掌の中の小さなチップを凝視すると、思わず叫んでいた。翌日、予算委員会をねじ伏せ、早速デルタとユアの元を訪れた。 今ではデルタもユアも多忙の身で、ボリジンと人間の親睦を深めるために最善を尽くしている。しかし単独で仕事をしている姿はほとんど見受けられない。彼らは路地裏で共に過ごした空き地に、メイラの墓を立てた。どれだけ忙しくても、彼らは毎朝そこに挨拶に行く。

 そしてなんと彼らは、【彼】の体を持ち帰り、弔っていた。ロマは、またもや期待に胸を膨らませた。デルタ隊の本部で【彼】についての相談をした時には、まだお互い気まずくぎこちないところがあったものだ。


 ロマは思い出し笑いをした。プナキアはカプセルの中身に心を奪われているようだ。

「どんな言葉で、こんな最先端工学を予算委員会に了承させたのですか?」

「言葉で、とは限らないぜ?」

 ロマはクスクスと笑った。

「いや、冗談さ。 こんなにいい研究材料を、俺が諦めるわけがないだろ?」

 シャイニーは【彼】の胸がゆっくりと上下するのを、目を輝かせて見つめている。

「素直じゃないのね」

 その声には感激と心配が入り乱れていた。ロマは、「どっちが」と思ったが、あえて言葉にはせず、カプセルの中で浮かぶ【彼】を見上げた。そして、泣きそうな笑みをする。


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