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記憶の一部分のみを消去することはできない。なぜなら記憶というものは複雑に入り組んでいるからだ。よって、部分的に消去したとしても、記憶の残っている部分が勝手に手がかりを見つけて、記憶のない部分を補って元に戻ってしまう。まして、何年も前に仕込まれた記憶だ。それはステラの人格の中にまで入りこみ、核を成してしまっている。呪いの部分だけを消すことはできない。だからすべてをなかったことにするしかなかった。
光のあるあの崖へ、プナキアと向かいながら、見慣れた景色を目に入れた。腕の中のステラは全く目を覚ますそぶりもなかった。呆気なさすぎて恐ろしかった。ガラクタの積まれたこの洞窟も、僕らと生きたこの世界も、ステラにとっては初めてのものになるのだ。
光の崖に着いた。塵が舞う。そこには様々な機械が設置されている。僕が研究のために揃えたものだった。今となってはもう、使うこともない。その研究とは、記憶操作薬の改造だ。女が半分残していった薬をあらゆる方法で改変し、記憶を消す薬として新しく生成した。あの本に書いてある手順通りに、事は運んだ。
プナキアはうつむいている。僕らは黙ってステラを見つめていた。ステラを手に掛けることを、ただ引き伸ばしたかった。 数秒の間だけでも。
「これで本当にいいのでしょうか?何か他に手段はないのでしょうか? 」
後戻りは、もうできなくなった。
「もう時間がない・・・君だってステラのことをずっと見てきたはずだ」
何もかもハッピーエンドなんてのは、フィクションだからできることだ。
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