逆襲の劉封 孔明に殺されてたまるか!

巻神様の下僕

序章 新野に立つ

第1話  劉封死す

 建安二十五年 秋 成都


 なぜこんな事になったのだろうか?


 俺は義父の命に従っただけなのに……


孟達もうたつ』、やつが援軍に反対しなければここにこんな姿では居なかったのだろうか?


 今の俺は罪人だ。


 ほんの少し前は将軍と呼ばれて、将来を属望されていた。


 ゆくゆくは大将軍に成れると思ってもいた。


 それがこんな姿になるとは、とほほ。



 しかし、まだ望みは有る。



 何故なら俺は『劉備りゅうび』様の養子。


 後継者からは外されたが、親族の少ない義父にとって俺は貴重な存在の筈だ。


 それに俺は孟達のような裏切り者ではない!


 断じて違う!


 それに今回は負けはしたが、次こそは必ず勝つ!


 俺もこの敗戦で色々と学んだのだ。


 今は牢に要るが、直ぐに許されるさ。


 あの男も義父に取り次ぐと言ってくれたのだし。



 あの男『孔明こうめい』が……




「何故だ!なぜ俺が死罪なのだ!」


「王の命です。劉封りゅうほう殿。潔く刑に服されよ」


 馬鹿な!そんな馬鹿な話があるか!?


 俺はちゃんとこれまでの経緯を説明したのだぞ。


 その結果が死罪だと!


 納得出来るものか。



「本当に王の命なのか?間違いではないのか?俺の罪は死に値するのか?そんな事はあるまい。これは何かの間違いだ。間違いに違いない。そうだろう。これは何かの冗談ではないのか?もしくは手違いでは?」


「ふぅ。劉封殿。間違いでは御座いません。あなたは死罪です。王(劉備)は大層ご立腹であらせました。自らあなたを斬ると言って皆様に止められた程です。手違い等では有りません。貴方の罪は死罪。そしてその刑が覆る事は有りません」


 なんだと!?


「待て。それは王が冷静ではないのではないのか?こう言ってはなんだが、王が怒っていた時の命は後になって覆る事が多い。今一度王に考え直して欲しいと言ってくれまいか?それか私に直接弁明の機会を与えて欲しいと」


 使者は少し考え込んでいたがふと俺を見る。


 その目は俺を哀れんでいるように見えた。


「重臣一同の意見もあなたの死罪が妥当となっております。ですから……」


 重臣達の意見が俺を死罪だと!


 まさかあの男も……


「それは…孔明も賛同しているのか?」


「孔明様も納得されています」


 孔明が…… ああ、それならば無理だ。


 義父は孔明の言に否とは言わない。


 今まで一度として孔明の言に首を振った事がないのだ。


 孔明が言って駄目ならば、それはもうしょうがない。


「はは。孟達の言った通りだな。やつの言を取り入れていれば良かった。ははは」


 俺は自然と笑っていた。




 そして、劉封の刑は執行された。





 西暦20※※ 春 中国成都




 はぁ~やっと着いた。


 俺はようやく目当ての場所にやって来た『成都武侯祠せいとぶこうし』。


 二十歳になってからここ中国に短期留学する事になって、休みを利用して中国各地を回って見る事にした。


 そして、ここ成都の武侯祠にやって来たのだ。



 俺は小さい頃に三国志演義を読んでから大の蜀ファン。


 劉備や関羽かんう張飛ちょうひ趙雲ちょううん馬超ばちょう黄忠こうちゅう


 それに龐統ほうとう法正ほうせい蒋琬しょうえん費禕ひい董允とういん


 そして諸葛亮しょかつりょう


 魅力溢れる人物が蜀には多い。


 せっかく中国に来たのだから、その蜀ゆかりの地を巡りたいと思ったのだ。


 そしてその手始めが武侯祠だ。



 諸葛亮を祀った所で、ここでは蜀の有名武将の像が祀られている。


 一通り見て周り、諸葛亮の像の前にやって来た。



 なんと言うか、目付きが厳しいような気がする。


 じっとこっちを見ているような、そんな感じだ。


 なんだろうな?


 像を見て感動すると思ったが、そんな事はなかった。



 俺は諸葛亮の像に背を向けて武侯祠を後にしようと門をくぐった。



 そこで……






 どれくらい寝ていただろうか?


 目を覚ますと木造の家で寝ていた。


 ベッドで寝ていた訳ではない。


 木の板の上に蓙?を敷いて寝ていた。



 なんだここは?


 周りを見渡して考える。


 ぽんっと手を叩く。



 あっ、あれだ!


 中国のテレビで見た三国志の物語で出てくる家に似ている。


 そして自分が着ている服に気付いた。


 これも見覚えが有る。


 やはりテレビで見た物と同じ服装だ。



 何でこんな格好をしているんだろう?



 頭の中はクエスチョンマーク。


 俺がう~ん、う~んと唸っていると戸が開かれる。


 見れば背の高いイケメンがそこにいた。



「良かった。目を覚ましたんだね劉封」



 劉封? 誰だっけ?



「ん?大丈夫かい? 突然倒れたから心配したんだよ。三日も目を覚まさないから、このまま死んでしまうのでないのかと思った」


 あ、う~ん。えっ、俺三日も寝てたの!?


「俺、三日も寝てたの?」


「そうだよ。覚えてないのかい?私と槍を使った鍛練の途中で突然倒れたんだ」


 槍での鍛練? 何を言っているんだろうか?


 俺は至極まともな事を聞いてみる事にした。


「ここは何処で、あなたは誰ですか?(棒読み)」


「劉封。本当に大丈夫かい? 私だよ。関平かんぺいだよ!友の顔も忘れたのか? 待っててくれ。皆を呼んでくる。劉備様の顔を見れば一発で思い出すさ!」


 そう言って関平と名乗ったイケメンは部屋を出ていった。


 劉封? 関平? 劉備様?


 ま、まさかな。そんな事はあり得ない。



 ここがあの三国志の世界だなんて事ないよな?


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