第55話 魔法だぞ


 さて、剣術はアリアに習うことになった。

 となれば、お次は魔法だ。

 これまで、特に魔法が使えなくて不便に思わなかったから、スルーしてたけど……。

 ようやく、魔法と向き合う時間だ。

 以前、エルフのエラに「俺にも魔法って使えたりするのか?」

 ときいたとき、「まあ、かなり勉強が必要ですけどね」と言われたきり、俺は魔法を使うことをすっかりあきらめていた。


 だって、俺勉強って大嫌いなんだもん。

 それに、努力だってきらいだ。

 そもそもそれが好きだったら、ニートになんかなっていない。

 新しいことを覚えるのは苦手だった。

 努力からは逃げ続けてきた人生だ。

 だからこそ俺は引きニートやってたんだ。

 引きニートなめんじゃねえ。

 引きニートが魔法使うために努力なんかするわけねえだろ!


 だけど、そんな逃げも今日までだ。

 俺はみんなを守りたい。

 だから、もっと強くならなくちゃいけない。

 そしてもっとこの世界のことを知らなくちゃいけない。


 そのためには、魔法の習得は避けては通れない道だろう。


「ということで……俺に魔法を教えてくれ……!」


 俺はエルフたちに魔法を教えてもらうようにたのんだ。 

 もちろん、エルフたちはこころよく引き受けてくれたのだが……。


「はい、ではまずは座学からです。これらの本をすべて読み込んで、叩き込んでください」

「ひえ……っ!」


 俺の前に積まれたのは、10冊にもおよぶ、分厚い本の数々だった。

 どれも、ドウェインに用意させたものらしい。


「これって、魔導書ってやつなのか……?」

「いえ、違います。これは魔法について初歩を書いた、いわば理論書ですね。魔法を使うための基礎知識が書かれています、魔導書ですらないです」

「魔導書ですらないのか…………」


 俺はがっくり肩を落とす。

 まじでこれ読まないといけないのか……?

 魔法って、もっとこう、えいってやったら簡単にできるものじゃないの?

 ふつう、ゲームとか漫画だと、すぐに魔法が使えてたりする。

 だけどどうやら、この世界の魔法とはそんなものではないらしい。


 本来であれば、きちんと魔法学校にいって数年間学び、それでようやくものになるものなのだとか。

 エルフは比較的魔力も高く、魔法が得意だそうだが、それでもきちんと、10歳になったら長い修行が課されるそうだ。

 エルフでないものが魔法を学ぼうとすると、さらに時間がかかる。


 まずは魔法とはなにかが書かれた本を読む。

 魔法とは、この世界に充満する魔力を体内に取り込んで、それを扱うものらしい。

 魔力は人の体内にもあるのだとか。

 他にも精霊の声をきいて、その力をかりたりもするらしい。

 いろいろ種類が多すぎて、あたまがこんがらがる。


 俺はそれから数か月かけて、魔法の書を読み漁った。

 次に読んだのは、魔法陣の描き方。

 魔法は魔法陣がなくては使えない。

 なら、無詠唱で魔法を唱えるにはどうすればいいのか。

 それは、頭の中に魔法陣を描くのだそうだ。

 それにはかなりの想像力がいる。

 それに、魔法陣についての精密な知識も必要だ。


 だから最初は、図をみて、見様見真似で魔法陣を地面に直接、木の枝で書いてみたりするのだそうだ。

 それで魔法が使えるようになってから、徐々に魔法陣を頭の中だけで組んでいく練習をする。

 俺はまずは、魔法陣を書いて、そこに魔力を注入する練習からだ。

 魔法陣に魔力が流れることによって、はじめて魔法は発動する。


「いいですか? 魔力の練り方は、本で学びましたよね?」

「ああ、それはもちろん。なにやらいろいろ細かく理論が書かれてて、よくわからなかったけどな……! だけどようは、気やオーラのようなものだろう? 漫画でよくある感じの」

「まあ、その理解で大丈夫です。とりあえず、まずは魔力を練ってみましょうか」

「よし……!」


 俺は手のひらに、魔力を練った。


「できましたね。では、それを魔法陣に流してください」

「わかった」


 エルにいわれて、俺は魔法陣に魔力を流し込む。

 すると――。


 ――ボぅ!


 魔法陣から、ほんの小さな火が出たのだ。


「おお……! これが魔法か……!」

「すごいです。さすがはセカイさまですね。一発で成功です……!」

「よし……!」


 まだほんの小さな火だが、これは偉大な一歩だ。

 どうやら俺には魔法の素質がかなりあるらしい。

 俺の魔力の量は、人間としては規格外なレベルのようだ。

 それは俺が世界樹だからだろうか。

 

「この調子で、どんどん修行するぞ……!」


 そして、俺は魔力を何度も何度も外へ吐き出した。

 魔法を使いまくって、練習しまくった……!

 すると、数週間で、かなり大きな火を出すことができるようになった……!


「やったあ! 大成功だ……!」


 しかし、そのときだった。


「あれ……?」


 くらっと、頭が痛くなって、意識が遠のいた。

 そして俺はそのまま地面に倒れてしまう――。


 そして、次に目覚めたとき。

 なんと俺は、世界樹のすがたに戻っていた。


「あれぇ……!? なんでえええええええ……!?」

 

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