第二部

第53話 鍛えるぞ


 世界樹の葉について、俺はいろいろ考えた結果、これを世界に流通させようということにした。

 さすがに死者を蘇生してしまうぶっとんだアイテムだから、そう簡単に流通させるのはいかがなものかとも考えた。

 だがそれ以上に、人の命はなにものにも代えがたい。

 もしこの世界のどこかに、今も死にそうで苦しんでいる人や、大切な人を失って悲しんでいる人がいるのなら、俺は彼らの力になりたいと思った。

 だってそうだろう?

 俺のこの力は、人を幸せにするために与えられたんだから。


 そこに救える人がいるのなら、救いたいと思うのは当然だろう?

 このユグドラシル王国の中だけで、世界樹の葉を独占するのは、少し傲慢でもあると思った。

 これだけ有用なアイテムは、世界中に広めないとな。

 ということで俺はドウェインに世界樹の葉を流通させてもらうことにした。

 もちろん、それなりに高額でだ。

 特殊な世界樹の葉はいくらでもとれるわけじゃないしな。

 それに、あまりにも人の命が軽くなるのも避けたい。

 どうせ世界樹の葉があるからと、命を粗末にしてもらっちゃ困る。


 死の淵から蘇ったジョナスは、しきりに俺に礼を言ってきた。


「ありがとうございます。セカイ様。セカイ様のおかげで蘇ったとききました。なんとお礼を言えばいいか……。俺は一生セカイ様につくします!」


 それから、フランリーゼをはじめとするドラゴンたちの家を作ってやった。

 ドラゴンたちはかなり数が多いから、ドラゴンたちの一部は、デズモンド帝国に住むこととなった。

 デズモンド帝国のヨークのもとで、ドラゴンたちはいろいろサポートをしてくれるようだ。

 ドラゴンは非常に知能が高い。

 だから、国を運営するためのいろいろな知識を提供してくれる。


 しかも、ドラゴンはそれ一匹で国を亡ぼせるほどの強力な存在だ。

 だから、ドラゴンがデズモンド帝国にいるというだけで、かなり反乱の危険を抑えることができる。

 ドラゴンさまさまだな。


 正直、デズモンド帝国に勝てたのもドラゴンたちのおかげだ。

 あのままでは負けているところだった。

 俺も、デズモンド帝国皇帝シュバルクとの戦いで、勝ったとはいいにくい。

 あそこは俺がなんとしてもシュバルクに勝たなければいけなかったはずだ。

 だが俺は、不覚にも、この聖剣ユグドラシルをもってしても、奴にかなわなかった。


 いくら俺が最強の能力を持っていても、いくら最強の剣をもっていても、俺自身はまったくの素人だ。

 強敵が相手となれば、かなわない。

 これからも、そういうことがあるかもしれない。

 またいつ強敵がこの国を襲うかわからない。

 

 俺は、この国をまもりたいと思った。

 だけど、俺にはその力がない。

 だから、俺は自分を鍛えることにした。

 俺には修行が必要だ。


 生まれてこのかた、俺は運動や努力なんかしたことがなかった。

 まあ、ずっと引きこもってたんだからな、当然だ。

 俺には聖剣ユグドラシルがあるが、俺の剣は漫画やアニメを真似するだけの素人の剣だ。

 本物の剣術をやってきた連中にかなうわけがない。

 俺には魔法もつかえないしな。


 ということで、とりあえず俺は剣を振りまくることにした。

 ただ素振りするだけだと感じがでないから、なにか適当に剣で殴れるものがほしいな。

 ゴーレムでも殴るか……?

 いや、それだとゴーレムがかわいそうだ……。

 

「なにか殴っても斬っても絶対に壊れない巨大なもの……ないかな……? そうだ……!」


 俺は、世界樹の根本までやってきて、世界樹の幹をぽんぽんと叩く。

 この聖剣ユグドラシルも、世界樹から出来たものだ。

 そしてこの世界樹の木材は、通称ユグドラシル鉱石と呼ばれ、世界で一番硬い物質として知られている。

 つまり、世界樹ならどれだけ攻撃してもびくともしない!

 それに、俺自身の身体だから誰にも迷惑かからないしな……!


 ということで、俺は剣を使って、自分自身を殴ることにした。

 

「うおりゃああああああああああああ……!!!!」


 ――ズドーン!!!!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る