第27話 今のアイクの実力
「ほぅ、ちょうどいいのが来たな」
ダンジョンからの帰り道。俺たちの前にはジャイアントベアという熊を一回り大きくしたようなモンスターがゆるりと現れた。そして、その両脇にはハイベアというジャイアントベアよりも少し小ぶりなクマのようなモンスターを連れていた。
「ジャ、ジャイアントベアか! そ、そうだ! 俺が盾役をしよう、アイク! このパーティには盾役がいないだろ!」
「じゃ、じゃあ私が魔法で援護するよ、アイク!」
「いらん。そうだろ、アイク?」
エルドとリンはまだパーティに加わりたいという気持ちがあるのか、そんなふうに露骨なアピールをしていた。
その二人に嫌気がさしたとかそんなことではなく、単純に二人の援護がなくても倒せると思ったから、俺は頷いてジャイアントベアたちの正面に立った。
「あ、危ないぞ、アイク!」
「アイク、下がって!」
そんな二人の声を後ろで感じながら、俺は腰に下げている短剣を引き抜いた。そして、腕を上げて俺に襲い掛かってきそうなジャイアントベアに向けて短剣を向けた。
「『肉体強化』『風爪』!」
それらのスキルを使って、俺は荒々しい斬撃を飛ばした。前にオーガ数体を切りつけた斬撃。少し張り切って使ったそのスキルから出た斬撃は、ジャイアントベアの上半身を吹き飛ばした。
断面は爪跡のように荒々しく、下半身だけになった体がそのまま後ろに倒れた。
リーダーをやられたハイベア二体は一瞬怯んだような素振りを見せたが、やけくそになったように俺の元に飛び込んできた。
二体同時に倒すことのできる広範囲の攻撃が必要だ。
そう思った俺は、以前に『スティール』で奪っていたスキルから広範囲に攻撃できそうな物を選らんで、短剣を片手で持ったままもう片方手をハイベアの方に向けた。
「『爆炎玉』」
俺がそのスキルを口にすると、手のひらがじりっと熱くなった。
そう思った次の瞬間、目の前にいたハイベア二体が爆発して後方に吹っ飛んだ。勝手に爆発したのかと思ったが、どうやら俺の手のひら出た爆発する巨大の火の玉に巻き込まれたみたいだった。
それにしても、自分の背丈よりも一回り以上大きいモンスターが吹き飛ばされるほどの威力って……これも『魔源』の影響なのか。
目の前に残ったのは焦げ臭い香りと、爆発の衝撃で焼かれた地面。それと大きな爆発音だった。
後方に吹き飛ばされたハイベアたちは丸焦げになっており、確認するまでもなく一撃で死んでしまったようだった。
「……オーバーキル過ぎんか、アイクよ」
「正直、ちょっとだけ張り切ってしまった所はある」
俺の隣に来たルーナは少しだけ呆れるような顔をしていたが、すぐにその表情を緩めた。口元が悪巧みをするときに見せる笑みのような形になっていたので、俺も釣られて同じような顔をしてしまっていた。
「う、嘘だろ、アイク」
「な、なに、今の? ハイベアが一瞬で、え?」
「……っ」
ギース達は俺が一瞬でモンスターを倒したのが信じられないような表情をしていた。オーガの集団から助けたときは、ただ助けられただけだったから、俺の戦いを見ている余裕がなかったのだろう。
目の前で何が起きたか分からないといった様子で驚いているようだった。
ただ一人、ギースだけは強さを見せつけられて悔しいのか、歯ぎしりでもしているかのような表情で地面を睨みつけていた。
「貴様らがこのパーティに入って、何かできると思ったか?」
ルーナが馬鹿にするようにギース達を見ると、三人はただ黙ることしかできないでいた。先程までの露骨なアピールは鳴りを潜めて、何も言い返すことができなくなっていた。
「あ、後ろ」
そんなふうに三人が沈んでいると、ギース達の後ろから狼型のモンスターが数体忍び寄ってきていた。どうやら、後ろから俺たちを襲おうとしていたらしい。
さらに前方からは大きな蟻のようなモンスターの群れが階段から下りてきていた。
……俺が騒ぎ過ぎたせいかな?
「バーサーカー娘、お主は後ろをやれ。私はこの雑魚共を狩る」
「ば、バーサーカー娘で定着させようとしないでくださいよ!」
二人がキャンキャン言い合いを始めたが、モンスターたちは二人を待ってくれることはなく、じりじりと俺たちは距離を詰められていた。
「あれ? 俺じゃなくていいのか?」
俺がモンスターを倒す手はずだったので、ルーナにぼそっとそんなことを聞くと、ルーナは少しだけ笑みを浮かべて俺の前に立った。
「アイクの強さは十分見せつけたからのう。あとは、私達の強さを見せつけて、パーティに入る隙がないことを理解してもらうとしよう」
ルーナが目の前の魔物を一瞬で凍り付かせて、アリスが力技のような剣技で魔物をなぎ倒していくと、ギース達三人は気まずそうに顔を背けていた。
それからダンジョンを出るまで、ギース達三人は何も言わずに俺の後ろを黙ってついてきていた。
どうやら、パーティに戻らせることも、今のパーティに加わろうとすることも諦めたらしい様子だった。
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