第7話 俺の『スティール』の本領

「やったではないか、アイクよ!」


「ああ。正直すごい驚いている」


 闇闘技場での第二回戦を勝ち抜いた俺は、控え室にてルーナと合流していた。試合終わりにこちらに向けたしたら顔から、俺が『鑑定』のスキルを手に入れたのが分かったのだろう。


「爆勝ちだぞ、アイク! 見てみろ! 大金だ! 今夜は宴だぁ!って痛い、痛いぞアイク!」


「また俺の命で金稼ぎやがって! こうしてやる!」


 俺はルーナはにんまりとした笑みと賭博に勝ったルーナの態度が気に入らなかったので、ルーナの頬を引っ張ってやった。


「俺がナイフを突きつけられていたと言うのに、ルーナは呑気に手に金握って盛り上がってたのかよ」


「呑気なわけあるか!」


 ルーナは俺の手を弾くと、涙ぐんだ瞳で強くこちらを睨んできた。


 その目は真剣なものそのものだった。


 それもそうか。一瞬でも一緒に行動をしている奴が死にそうになったのだ。心配しないわけがないだろう。


 さすがに言いすぎたかもしれない。俺の発言はデリカシーを欠いていたと反省し、ルーナに謝罪をしようと俺は頭を下げようとした。


「本気で賭けてるんだぞ! 今日の勝ち分が賭かっておるのだ! 呑気でなどいれる訳ーーや、やめんかアイク! 頬を引っ張るでない!」


「一瞬でも反省してしまった俺に謝ったら許してやろう」


 俺はそう言いながらルーナの頬を先ほどより少しだけ強く引っ張った。


 ルーナはしばらくバタバタと暴れていたが、俺のわずかな隙をついて俺の手から逃れたようだった。


「こんなに私の頬をむにむにとやられたのは初めてであるぞ! まったく!」


 ルーナはそんなことを言いながら、引っ張られた頬を戻そうとしているのか、頬をくにくにとしていた。


「それで、『鑑定』の使い心地はどうだ?」


「なんだ、分かってたのか」


「むしろ分からないわけがないだろ。自分で気づいていないのかもしれんが、顔つきが随分と変わってるぞ」


「え? どんなふうに?」


「戸惑い、微かな不安、あとは自信あたりだな」


「信じてもらえるか分からないんだけど、今の俺にはスキルが千以上あるみたいなんだ」


「せ、千以上?! そんなに持っていたのか?!」


「ああ。だから、結構驚いている」


「ん? なんで何も取れないと分かっていたのに、千回以上も『スティール』を使ったんだ?」


「前のパーティで『どうせ何もできないんだから、モンスター相手にずっとスティールでもやっておけって言われてな。モンスターと遭遇する度に何度もスティールを使ってたんだよ」



「なるほど。それは面白いことを聞いたな。そして、納得したぞ」


「面白いこと? なんのことだよ?」


 ルーナは何やら新しい玩具を見つけたかのような笑みと共に、嬉しそうな笑い声を上げていた。


 少しゾクっとした笑みだったのが少し気がかりではある。


「今度あの人間達が来たら、装備品とアイテムとかを返してやろう」


「え、ギース達のことか? まぁ、別にルーナがそれでいいならいいけど、なんで今その話なんだ?」


「なに、私のお気に入りに手を出した報いを受けてもらおうと思ってな」


 どう言う意味だろうか。俺はルーナが見せた笑みの裏にある考えに気づくことができないでいた。



 そんなことがあって、俺は第三回戦の対戦をするために再び闇闘技場のリングに上がっていた。


 正直、目的だって『鑑定』のスキルは手にすることができた。これ以上リングに上がる必要性もなかったのだが、ルーナにあのように言われては、出続けた方がいいのかと思ってしまった。


『ここで降りるなんて許さんぞ! もう手持ち金全部賭けたんだから、不戦敗なんてことになったら、私が無一文になってしまう! 頼む、頼むから出てくれぇ!』


 いや、こっちじゃない。


『気になるスキルは一通り使っておけ。人を相手にスキルを試せる場なんて中々ないからな』


 そうそう、こっちだ。


 俺は『鑑定』によって、千を超えるスキルを持っていることが分かった。その使い方も効果も分かったが、実際に使ってみないと分からないことも多い。


 それならば、この闇闘技場という場で思いっきり試した方が良い。それこそ、誤って殺してしまっても、ここでなら問題にはならないらしいしな。


 いや、もちろん故意的に殺すようなことはしたりはしないけど。


 俺はルーナの口車に乗せられるように、第三回戦のリングに上がったのだった。


 目の前には、俺よりも一回り大きい痩せ型の男。持っている剣は一般的なサイズより小ぶりで、初戦に当たったような脳筋で戦うようなタイプではないことが分かる。それにしても、こいつの病的なクマはなんなんだろう。顔もこけてるし。


 もしかしたら、単純な戦士タイプではなく、魔法を交えて戦うタイプかもしれないな。


「クソガキがぁ! さっさと殺されろぉ!」


「ハラワタを抉り取れぇ! ぶち殺せぇ」


「おい、アイク! 初戦よりもオッズがつまらなくなってきたぞ! もっと弱い演技をしろ! そして、オッズをもっといい感じに、いい感じにしてくれぇ!」


 ルーナの奴、いい加減しばいてやろうか。


「第三回戦! 闇魔法の伝道師ドドロ対新人マスク、試合開始!」


「え、や、闇魔法?!」


 闇魔法は道徳的な点などから、違法の魔法と呼ばれる禁忌の魔法だ。魔法を学ぶとことさえも罰しられる魔法。


 その伝道師といことは、当然こいつがそれを使えないわけがない。


「闇の世界に引きづり込んでやろう。『闇影』」


 そんなスキル名と共に、男は黒色の鞭のようなものを自分の影から複数本出した。ウヨウヨと動くそれは、見ているだけで禍々しいものであることが分かる。


「『鑑定』。え、闇の中に引きずり込む黒い鞭? や、闇の中ってどこだ? え、捕まったらもしかして戻ってこれないの?」


「深淵の彼方に連れ去ったやろう」


「ちくしょう、言っていることが痛々しい!」


 俺は『鑑定』のスキルから男のスキルを読み取り、その危険性を見抜くことができた。ただ、見抜けたとしてもその攻撃を回避できるかというと別である。


「何か闇魔法に対抗できるスキルは‥くそ、数が多すぎて分からない!」


 スキルの多さが仇になったのか、俺は闇魔法に対抗できる魔法を上手くできることができなかった。


 だから、俺は咄嗟に使い慣れたスキルを発動させていたのだろう。


「スティール、スティール、スティール、スティール、スティール、スティール!」


「無様だな。最後に命乞いくらいなら、させてやらんことも‥ん? 『闇影』が消えた?」


「やっと奪えたか」


 俺が数度放ったスティール。中々目的のものが奪えなかったが、ようやく奪うことができたみたいだ。


「『闇影』。『闇影』! 『闇影』!! なぜだ、なぜ発動しない!」


 男は狂ったように自分が使っていたスキル名を連呼した。しかし、どれだけスキル名を叫ぼうとスキルが発動することはない。


 それはすでに俺のものだからな。


「もらうぜ、そのスキル」


「もらう? 一体何を言っているんだ?」


「『闇影』。せっかくだから、色々と試させてもらうよ」


 俺がスキル名を呼ぶと、俺の影から複数本の黒い鞭の方なものが伸びた。


「あ、あああ、あああああああ!!」


 男はこの魔法がどんな魔法なのか知っているのだろう。この世のものではない物を見たかのような男の声が、闘技場には響くことになった。


 こうして、俺は第三回戦を無事に突破したのだった。

 


 

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