第3話 俺を馬鹿にしたパーティメンバーとの決闘
「覚悟はできたかよ、アイク! せっかくドラゴンから逃げられたのに残念だったな!」
場所はギルドの外。俺とギースは街中の道中で決闘をすることになった。
そして、その決闘の立会人はギルドの職員が買って出てくれた。どうやら、ギルドの職員からしても、俺みたいな存在はいない方がいいようだ。
立会人の前にはギースの装備品と剣以外の物。そして、ギースのパーティのアイテム、装備品、手持ち金と、ルーナの魔晶石が置かれていた。
決闘で負けた際に逃げ出さないように、あらかじめ仲介人の目の前に賭ける物が置かれている状況だ。
「アイク! 分かっているな! 私の言った通りにすれば負けることなど絶対にない!」
決闘に誰よりも前のめりなのは、そんな破格の魔晶石を賭けにだしたルーナだった。
ルーナにはこの決闘での勝利方法を教えてもらっている。教わって入るが、それはとても勝利方法と呼べるものではない。俺はそんな方法で勝てる気がしなかった。
「それじゃあ、両者合意の上ということで。どちらかが負けを認めるか、気を失うか、死ぬことが敗北の条件として、決闘を開始します。はじめっ!」
その合図を皮切りに、ギースは地面を勢いよく蹴った。その表情と剣の勢いから俺を殺す気で切りかかってきていることが分かる。
「くっそ、もうどうにでもなれ!」
俺はやぶれかぶれに、ルーナから聞いた必勝法を試すことを決めた。
ルーナから教わった必勝法とは、ルーナから奪ったスキルを使ってみるといった物だった。
そもそも、俺がルーナのスキルを奪えていなかったら、その勝利方法という物は使えない。
なぜ絶対に負けないなどと豪語できたのだろうか。
そんなことを考えたところで、今さらもう遅い。俺がルーナから奪ったかもしれないスキルを使えなかったら、俺はここで死ぬことになる。
俺はそう考えて、ルーナに聞かされていたスキルを使うことにした。
俺は拳を強く握り、そのスキル名と共に何もない空間を殴った。
「『空拳』!」
「かはっ!!」
「え?」
俺は持っている自覚のないスキルの発動に、思わず声を漏らしていた。俺がスキルを発動すると、何か空気の塊のような物が飛んでいき、ギースをぶん殴ったのだ。
威力は素手で殴ったダメージの数倍はあることだろう。俺の一撃を食らって吹っ飛んだギースを見て、そのダメージ量が少なくないことが窺えた。
「おい、ギース! ギース!」
「嘘でしょ! ちょっと、何ふざけてんのよ、ギース! 立ってよ!!」
俺のスキルをもろに食らったギースは打ち所が悪かったのか、完全に気を失っていた。
「勝負ありだな」
そんな結末を分かっていたかのように、ルーナは笑みを浮かべていた。
特に驚く様子もなく、ルーナはただ当たり前の事象を見つめるような目をしていた。
「え? 俺が勝ったんか?」
「そうだぞ、アイク! 言ったであろう。おまえが負けることは絶対にないと」
「アイク、戦利品を受け取りに行こうか!」
「え、ああ。そうだよな」
勝った自覚はないが、目の前には倒れているギースがいる。ということは、この決闘は俺が勝ったということだ。
俺はそんな目の前で起こった事態を飲み込めないまま、戦利品を貰いに行こうとした。しかし、そんな俺達の前にリンとエルドが俺達の前に立ちはだかった。
その表情はなぜか怒りに満ちていたようだった。
「ふざけないでよ! 無効よ、無効!」
「ああ、何かインチキを使ったに決まっている」
二人はそう言って当たり前の主張をするかのように、俺達に食って掛かってきた。
確かに、ギースが俺に負けるなんてありえないことなのだ。二人の言い分も分からないことはない。
「ほぅ、男二人の決闘の結末を受け入れられないというか。立会人、なんとか言ってやったらどうだ?」
ルーナは余裕の表情で、立会人であるギルド職員に話を振った。話を振られたギルドの職員は言いづらそうに頬を掻くと、言葉を続けた。
「えー、ギースさんの意識がなくなったので、ギースさんの負けということになります」
「ちょっと、待て! ギースが本当に無能のアイクに負けたと言っているのか!」
「そうよ! ギースの強さも、アイクの無能っぷりも知ってるはずでしょ!」
「そうですけど、これだけ多くの人が見てる前でギースさんは気を失ったんですよ? 負けた以外に何だって言うんですか?」
少しばかり強くなったギルドの職員の声。その事実を言われれば、いくら強気に出ても二人は言い返すことができないでいた。
「っていうか、元々ギースって大したことなかったんじゃね?」
「なんか偉そうで嫌だったんだよ」
「ていうか、アイクに負けたってヤバくね?」
ギルドの職員の言葉を受けて、ギースに対する不満のような声がちらほらと見え始めた。ギースの後ろ盾である強さという要素が怪しまれ始めたのだ。当然、ギースを慕うようにしていた人達の心も揺らぐ。
「そういうことだ、小娘。この戦利品は貰っていくからな」
「ちょっと、何私のものに触れてーー」
リンがルーナの手に触れようとした瞬間、ルーナは先程のギースに対する威圧以上のものをリンにぶつけた。
「っ、あっあ、」
そんな威圧をぶつけられ、リンは手を伸ばしたまま動けなくなってしまっていた。
「汚らわしい小娘が。私に触れることを許すとでも思ったか?」
捕食者を前に固まってしまうように、瞬きをすることさえも許されず、リンはただ声にならない声を漏らすことしかできないでいた。
「アイク! 何を突っ立っておる!」
「え?」
「おまえが勝ち取ったものだ! 重いんだ! 早く取りに来ないか!」
ルーナはこちらに無邪気な子供のような笑顔を向けて、戦利品を掲げていた。
『大量だ!』とでも言いたげな表情に、俺も脱力するような笑みを返していた。
無能といわれ続けた俺が、あのギースを相手に勝った。
使えないと言われ続けていた『スティール』を駆使して、ルーナから奪ったスキルを使って。
どうやら、俺のスティールはスキルを奪うことのできる、特殊なスキルだったらしい。
それが今日の決闘を通して証明されてしまったのだった。
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