幻想日記

えす

2023年4月

2023年4月17日(月) 幻想の扉

 赤い本を拾った。


 ページをめくる。

 ぶわっと風が吹いた。


 ──どのページも真っ白だった。何も書かれていない。


「こんにちは」


 僕は振り返る。

 黒衣を纏ったガイコツがいた。


 死神?

 するとこれはまさか〇スノート!?


「いやいや、そんな物騒なものではございませんよ。それは魔導書です。そしてわたくしはその精」


 はぁ。と僕は空気が漏れたような音を出す。


「あなたは魔導書の封印を解いてしまいました。記述は世界に放たれ、幻想が現実を浸食してしまいました。この世界の理は壊れ、いずれ滅びることでしょう」

 ガイコツがカタカタ笑う。


 へぇ。と僕は気のない声を出す。


「信じられないのも無理はありません。しかし、御覧なさい」


 空にでっかい何かが浮かんでいる。あれは確か、ドラゴンだ。僕は


「元の世界に戻したいですか?」


 正直どうでもいい。

 そう言うと、ガイコツは少し困ったように首をかしげる。


「戻すも戻さないも、あなたさまの自由です。もし、世界を元に戻すのであれば、この魔導書に記述を。内容は何でもよいです。本の記憶が、文字から元の記述を再現することでしょう」

 内容は何でもいいって言ったって、何も書くことがない。


 そうだ。

 日記を書こう。

 僕のこのしょうもない、つまらない人生を綴ってやろう。


「つまらない人生になりますかな……? 幻想の扉は開かれました。さぁ、冒険の時です!」



 まばゆい光が、世界を包み込んだ。

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