曹操の挙兵

 曹丕と司馬懿が睨み合いを始めてから更に数ヶ月が経過した頃、まだ劉義賢が亡くなったという知らせの無い司馬懿は焦っていた。


 司馬懿「えぇい。まだ劉義賢は死なんのか!しぶとい男め」


 鍾繇「存外、粘り強いのかも知れませんな」


 鍾会「このままじゃ。先にこっちの物資が尽きるっすよ。逢紀殿に連絡して、物資融通して貰うっすか?」


 司馬懿「逢紀がこちらと繋がっている事が賈詡にバレかねん。そんな危ない橋は渡れぬであろう」


 司馬師「父よ。劉義賢とやらが演技をしていたとは考えられんか?」


 司馬懿「無いな。そもそも元気に見せていたのが演技だ。弱味を見せぬために意地を張っていた。それにあの死相では、先は長く無い。保って、1〜2ヶ月と踏んでいたのだが。それが、病に臥せったという情報が来ただけで、一向に死んだとの報告は来ぬ。どうなっているのだ」


 司馬郎「懿よ。焦っても仕方なかろう。確実に死ぬのがわかっているのだ。できる限り、時間を稼ぐしかなかろう」


 鍾会「そうは言ってもっす。蜀漢は、睨み合いを開始して直ぐに青州を労せずして手に入れたっす。それどころかてっきり降ると考えていた鮑信がいなくなってるのも問題っすよ」


 司馬懿「消えた鮑信の行方か。それに問題はそれだけでは無い」


 司馬郎「文姫のことか」


 司馬懿「完全に董祀を手玉に取りよった。今や、董祀は、文姫に気に入られるためだけに我々の批判をするような輩となった。そろそろ潮時かもしれん。董祀に期待した俺が馬鹿だった」


 司馬郎「うむ」


 司馬孚「懿兄上、曹操が挙兵しました!」


 司馬懿「何!?劉義賢の奴め。約束を反故にしよって!許せん。蜀漢に抗議文を」


 司馬孚「それが曹操は、蜀漢に降伏していません。今回も魏を取り戻すための聖戦だと」


 司馬懿「馬鹿な!?だとしたらどこに潜伏していたと言うのだ!蜀漢が手を貸していたのは明白。まさか!?劉義賢は、これを狙っていた?己の死期を晒して、俺を罠に嵌めたのか。曹操というどっち付かずの切り札を切るために」


 張春華「お前様にしては、良いように手玉に取られてしまいましたわね」


 司馬懿「フン。女がしゃしゃり出てくるな。昭の事で、謹慎を命じていたはずだが」


 張春華「昭には昭の考えがあるのではなくて。そもそも子供だからと親の言う事を絶対に聞くとでも。そんな柔な教育はしてませんことよ」


 司馬懿「ああ言えば。こう言いよって。だからお前は気に食わんのだ!」


 張春華「あら、それはお互い様ではなくて?」


 司馬懿「フン。師は、どうするべきと考える?」


 司馬師「曹丕と曹操に挟まれては、打てる手も少ないかと。曹操が魏の覇権の回復のための聖戦だと言うのであれば、曹丕と和解して、事に当たるのが良いかと」


 司馬懿「それしか無いか」


 同時期、曹操の挙兵を知り、浮き足立つ曹丕陣営。


 曹丕「父が動いただと!?あの老害が。また俺から権力を奪うつもりか。許せん。直ぐに仲達に和睦の使者を送るのだ」


 賈詡「曹操殿は、曹丕様を助けるために軍を動員したのでは無いのか?それに対して、逆賊である司馬仲達と結ぶなど何を考えているのだ!」


 曹丕「賈詡よ。お前は、父寄りであったな。俺は、手にした権力を失うわけにいかんのだ。父と連絡を取らぬように牢に繋いでおけ!」


 逢紀「残念ですな賈詡殿。せいぜい牢に入って、頭を冷やされると宜しい」


 夏侯玄「馬鹿な真似は止めるが良い!逢紀・審配・郭図、曹丕様を誑かし司馬懿と通じていることはわかっている。そうして、二分して国力を低下させたのは、お前たちであろう。恥を知れ!」


 郭図「何の証拠があって、そのような諫言を言うのですかな」


 審配「あぁ。成程。そう言う筋書きですか。我々を断罪して、曹操に国を返すと」


 曹丕「えぇい。どいつもこいつも。俺の邪魔をしよって、もう良い全員を牢に繋いでおけ!俺が手に入れた権力は自分で守る」


 逢紀「なんですと!?」


 郭図「考え直されよ。我らが司馬懿と通じているなどという諫言を信じるなど」


 審配「それにこの場合、通じていたとしたら我らは有用なのでは?どうかお考え直しを!」


 夏侯玄「喧嘩両成敗というのなら甘んじて受け入れよう。しかし、これだけは合わせていただく。曹丕様、人質などという人道にもとる行為を進言した男ともう一度、手を結ぶなどという馬鹿な真似はやめるのだ。せっかく取り戻した人心が再び離れることとなるぞ!」


 曹丕「お前は正論ばかりで、何度も何度も煩い。人心など知ったことか。父に奪われるぐらいなら魏は俺自身で終わらせてくれる」


 曹丕と司馬懿は対曹操で思惑が一致、手を結んで事に当たる。


 曹操「そうか。子桓は頑なか。誰に似たのだろうな」


 郭嘉「殿かと。殿も大概頑固ですので」


 曹操「フッ。ならば、完膚なきまでに格の違いを見せつけて、子はいつまでも親に勝てないという事を刻み込んでやらねばならんな」


 劉豹「俺はこの腕を斬った男を許さん。司馬懿の事は、曹操殿に譲るとしよう」


 曹操「匈奴の総帥を務める劉豹であったな。此度の参戦、感謝する。逸って、生き急ぐことのないようにな」


 劉豹「忠告、感謝する。匈奴の者たちよ。聞け。匈奴はいついかなる時も奪う側でなければならない。俺の妻を奪った司馬懿を許すな。全軍、突撃を開始せよ!」


 曹仁「匈奴に遅れを取るわけにはいかん!殿の親族として、友として家族として、我らも攻撃を開始する!狙うは、司馬仲達の首だ!」


 挙兵した曹操による曹丕・司馬懿連合軍への攻撃が開始されるのであった。

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